第21話 暴風の塔、黒幕の影
同時刻、都市の反対側。 ストーム・テック本社の最上階、円卓会議室。
幹部たちは震え上がっていた。 失態を演じた前CEOのように、自分たちも「消される」のではないかと怯えていたのだ。
「『オリジナル・ファンタジア』のサーバーダウンによる損失は推定12億」
「一部データは永久に失われました。現在、3ヶ月のメンテナンスと称してサーバーを停止していますが……」
報告者は生唾を飲み込み、上座に座る男の顔色を伺った。
男は頬杖をつき、長い指でテーブルを叩いていた。 退屈そうに。
彼――Q(キュー)にとっては、会社の損失などどうでもいいことだった。
彼が気にしているのは、もっと重要なことだ。
「株価への影響はすでに出始めており、第二四半期の収益は……」
「実験体30号は処分したか?」
冷酷な声が報告を遮った。
「は、はい。ご指示通りに」
「どこの馬鹿だ? 30号にリトル・プリンスを襲わせたのは。王室との取引を台無しにする気か?」
鷹のような鋭い視線が幹部たちを射抜く。 全員が蛇に睨まれた蛙のように縮こまった。
前回、彼がこの質問をした時、当時のCEOはこう答えた。 『社長、あなたが小王子を邪魔だと言ったので、少し懲らしめようと……』
そして、その愚かなCEOは消えた。 命令を実行した実験体30号もまた、悲惨な末路を辿った。
Qと呼ばれた男は立ち上がり、ガラス張りの窓際へと歩いた。 眼下を行き交う車や人々が、まるで蟻のように小さく見える。
日が沈み、都市に夜が訪れる。
Qは指揮者のように両手を掲げた。 すると、街中のネオンと3Dホログラムが一斉に点灯し、夜の闇を極彩色の光で塗りつぶした。
テクノロジーの光は、太陽の下よりも眩しく、都市を支配している。
「あ、あの、ボス。フライング・ブレイン・カップは……中止にしますか?」
報告者が震えながら尋ねた。
「ほう? お前の心臓を止めてもいいか?」
Qは振り返りもせず、ナイフのように冷たい声で言った。
報告者は顔面蒼白になり、助けを求めるように周囲を見回したが、誰も目を合わせようとしなかった。
「馬鹿どもめ、会議は終わりだ」
Qが低く告げると、円卓を囲んでいた幹部たちの姿が揺らぎ、瞬時に消滅した。
これは22世紀のホログラム会議だ。 実際にその場にいなくても会議ができるが、参加者たちは全員、自宅で冷や汗まみれになって腰を抜かしていることだろう。
側面のドアから、一人の男が入ってきた。 仕立ての良いスーツを着ているが、袖口から覗く手首には、酷い火傷の痕があった。
22世紀の医学ならどんな外傷も治せるはずなのに、この傷跡はまるで何かの象徴(トーテム)のように残されていた。
男は、一枚のガラス板を差し出した。 Qが一振りすると、電子ファイルが窓ガラスの一面に映し出された。
画面の中の実験室では、研究員たちが被験体の周りで忙しく動き回っていた。 別の部屋では、数人の少年たちが機械に繋がれて生命を維持されている。
彼らの頭には金属製のヘルメットが被せられ、無数のチューブが脳に接続されていた。
異能の脳波はごく少数の人間にしか存在せず、不安定だ。 だが、もしそれを商品のように複製し、移植できるようになれば、それは人類の偉大な進化となる。
実験体30号は比較的成功した複製例だった。 もちろん、最も成功しているのはQ自身だ。彼は実験を通じて異能を手に入れていた。
しかし、まだ足りない。 母体となる異能者も、能力を増幅し変換するためのPJ鉱石も、まだまだ足りない。
「Q先生。サーバーがダウンする前に、データに基づいて特定した母体はすでに確保しました」
「家族への『慰謝料』も支払い済みで、騒ぐ者はいません」
助手は淡々と報告した。
「よろしい。騒ぎにならなくて助かる」
Qは満足げに頷いた。眉間の皺がようやく伸びる。
「いずれ彼らも、崇高な目的のために貢献できたことを誇りに思うだろう」
彼は手を振って助手を下がらせたが、火傷の痕がある男だけは直立不動で残った。
「もう一つ、ご覧いただきたい映像があります」
それは王子たちが襲撃された際の監視カメラ映像だった。 Qは興味深そうに再生バーを動かした。
実験体が少女に向けて発砲した瞬間、一人の男が身を挺して彼女を庇った。 彼は撃たれた瞬間、夢から覚めたような顔をして、自分の行動が信じられないという表情を浮かべた。
その後、猫のような目をした少年――LKが現れる。
「この少年だ」
Qは画面のLKを指差した。
「他人の精神を操る力を持っている。まだ未熟だがな」
さらに映像は進み、王子の車が襲われたシーンへ。 巨大なボールプールが宙を舞い、車の下に滑り込む。
Qは数コマ巻き戻した。 数トンもある予備のボールプールが、突如として何らかの力で持ち上げられ、数百メートルも飛んで、空中の車の下に正確に着地したのだ。
「リトル・プリンス……。脳力を物理的な力に変換できるとはな。大した才能だ」
Qは嘲るように笑った。
「だが惜しいな」
「先生、この少女は?」
部下がレイアを指差した。
「彼女か……」
Qの口元に不敵な笑みが浮かんだ。
「彼女の脳力は……『無』だ」
映像はさらに進み、数日前の様子を映し出した。 LK、レイア、王子の三人が集まって何かを話している。 レイアの口の動きは「明日(あした)計画」と言っているように見えた。
Qは目を細めて画面を凝視し、ズームアップした。 三人の微細な表情までが見て取れる。
その時、画面の中のLKがふと顔を上げ、隠しカメラの方を睨んだ。 その鋭い視線は、まるでモニター越しのQと目が合ったかのようだった。
Qは一瞬動きを止めたが、すぐに冷静さを取り戻した。
「先生、リトル・プリンスたちは『明日計画』に気づいているかもしれません」
「構わん」
Qは残忍な笑みを浮かべた。
「彼らに『明日』は来ない」
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