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灰唐 揚羽

第1話:本日は晴天なり

どうもはじめまして、読者のあなた。

僕は語手かたりて 芽多めた、ごく普通の高校1年生。唯一おかしいのは、この世界が小説の世界である事を認識している事。今朝明太子クリームを塗ってトーストした食パンを食べ、制服を着て登校中のこの僕は、小説の登場人物に過ぎないのだ。


これは第1話だ。僕にとっちゃ今まで生きてきた15年があるが、この記憶もつい先ほど生まれたものだろう。彼のラッセルが提唱した世界五分前仮説という思考実験があるが、僕が今生きている世界はどうやら200文字ほど前にビッグバンを済ませたらしい。


とても信じられないが、信じるしかない。解るのである、頭に流れ込んでくるというより、何者かによって記憶を作り変えられているかのよう。今紡がれている言葉は僕の言葉だが、僕の言葉じゃないという事だ。


とはいえ、これを知り受け入れたところで、僕はどうすればいいのだろうか?僕以外にこの事実を知るものは居ない。なぜ分かるのかというと、今僕がそう言葉を紡いだからだ。僕が言った通りの事が起きるとかそういった話ではなく、僕の言葉で説明させられたんだ、今この文章を書いている者に。故にこれを誰かに訴えたところで、僕は気の触れた人間としか思われないことだろう。


自棄やけになって人生を放棄したとして、この小説は面白くはならないだろうな。真実を知った今、僕にとっての死は、この小説が書かれなくなる事と言えるだろうか。ならば僕は、面白いものを探せばいいのかもしれない。尤も今僕自身、自分の意思があるかどうかも自信を持って言えやしないから、なるようになれと思う。


試しに学校へ向かうこの足を止めてみる。

ささやかな抵抗だ。今足を止めているのは僕の意思のはずだけど、でも僕の意思ではなくて…。


何してるんだろう、遅刻してしまう。


雲一つない空、穏やかに頬を撫でる風、こんなにも気持ちのいい朝なのに、僕は、僕が分からなくなった。この話のタイトルは『本日は晴天なり』とでもしようか。折角の快晴だからね。


さて、教室の自分の席についた。

いつの間に?でも僕はちゃんとここまで歩いてきた。下駄箱で普通に靴を履き替えるところや、教室のドアを開けた時の喧騒まで独白すれば良かったか。


「ねぇ今日転校生来るんだって。」

「…この時期に?」

隣の席の百足山むかでやま 毘沙子びしゃこさんが話しかけてきた。ものすごい名前だとは思っていたが、小説の登場人物だと分かれば、なるほどといった具合だ。随分とはっちゃけた名前を付けたものだ。

「お家の都合だって、どんな人かな〜。」

百足山さんがサラサラの黒髪をくるくると指で巻く。6月中旬なんて半端な時期に転校生とは、まだ1話だというのに。


「じゃあ入ってきちゃって〜ッ。」

ハリセン(張本先生)が入室を促すと、教室のドアが開く。

「どうも〜!イズィエーマという星から来ました、宇宙人の小須模こすも ミナミアです!気軽にミナって呼んでね!」

極彩色の髪に、2本の触角の生えた少女が堂々と入室し、簡潔な自己紹介の後、両手を狐の手にして、ビシッとポーズを決めた。


「…随分とはっちゃけた展開にしたな…。」


と、インパクトの強いオチで、第1話は締め括られるらしい。

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