第2話:事実は小説だし、奇なり

Q.「誕生日は?」

A.「エドニ暦2525年の7月34日だよ!」


Q.「イズィエーマってどんな星?」

A.「地球と似てる感じで、水や自然がいっぱいあるよ!」


Q.「好きな食べ物は?」

A.「ピリャンっていうスイーツ!ぷるぷるだよ!」


Q.「日本語が上手ですね。」

A.「実はこのネックレスのナノマシンが超リアルタイム翻訳してくれてるよ!」


Q.「ご趣味は?」

A.「お菓子作り!」


何だこれは、何故ごく自然に質疑応答タイムに入っている?宇宙人だぞ?こんなぶっ飛んだ状況で何故皆いつも通りなんだ。僕がおかしいのか?


Q.「彼氏いる〜?」


お調子者系の堀田ほったがぶっ込んだ。


A.「居ないです!何を隠そう、地球へはフィアンセを探しに来ました!」


小須模さんはパチンとウィンクし、再び狐の手でポーズを決めながらそう言った。ざわっとクラスが沸き立つ。それ以前にもっと大きなざわつきポイントがある気がするのだが…。


「違う星の違う種族の運命の出会い、コスモ・ラブ・ロマンティック!ずっと憧れてたんです!」


小須模さんは頬に手を当て、夢見る乙女のような表情をする。

この小説はラブコメなのか?順当に行くなら主人公のはずの僕と色々繰り広げるのだろうか。冗談じゃない。僕は平穏や普通といったものをそれなりに愛している。あんな…見目は良いものの、スーパー唐突地球外来女と関わるのは避けたい。


分かったぞエウレカ!そうさ、抗ってやる。僕の目的を見つけたぞ。全力で彼女と関わらないように立ち回ってやる。面白くなくなってこの小説が書かれなくなろうと知ったことか。

僕は自分の意思でお前に抗うぞ、今文字を書いているお前にな!


「つーわけで、これから小須模ちゃんはここに通うんでヨロシクゥ!HR終わり!席は〜語手の隣の席が丁度空いてるからそこで!」

「えっ」

ハリセンがビシッと指差す。いや席が丁度空いてるってなんだよ?お約束だけどおかしいだろ!この席昨日まで空いてたか?クソっ分からない、というかついさっきこの世界は生まれたんだった。昨日もクソもないのか?


「お隣さん、よろしくね!お名前聞いてもいい?」

百足山さんの反対側、一番後ろで僕の隣の、所謂いわゆる主人公席に小須模さんが着席。またも狐の手を構えながら僕に名を尋ねる。

「語手です。」

「それってファミリーネーム?ファーストネームは?」

「芽多です。」

「メタくん!かわいいお名前!」

「どうも。」

打切棒ぶっきらぼうに素っ気なく目も合わせずに会釈だけする。これは運命に抗うためであって、断じて陰キャ仕草などではない。まるで面映おもはゆくもない、ただ僕はこの小説をつまらなくしようとしているだけだ。そう、断じて陰キャ仕草などではない。




「全員手を上げろオラァァァ!!テロだァァァ!!」

「きゃあっ!な、何!?」

唐突にドアがぶち破られ、拳銃を構えた武装集団が入ってきた。教室は騒然、悲鳴が上がる。冗談に冗談の上塗り、さながら冗談の叩き売りだ、著者は何を考えている?第一なんで日本で銃を用いたテロだよ?というかテロリストは自分でテロだとか言わないだろ。


「大人しくしろォォ!!死にてぇのかァァ!!」

パンパンと乾いた音が2回鳴り響き、電灯が1本割れた。本物ものほんの銃だ。クラスはしんと静まりかえり、恐怖に包まれる。まぁ僕はこれが小説だと知っているから、内心ちっとも恐ろしくもないけどね。今こうして涙を浮かべ、歯を震わせているのもたたたたただの演技だよ。どどどどどうせこの後小須模さんが宇宙人パワーでなんか解決してくれるに違いない。


と思っていたら、想定と反対の席、百足山さんがガタッと席を立った。

「え?」

思わず声が漏れる。

「アァ!?何立ってんだガキィ!!座れェ!!」

テロリストが銃口を百足山さんに向ける。

しかし百足山さんは物怖じせず、右手をテロリストにかざし…


『マジ・マグネ!!』


と唱えた。

「んだこのガキ…な、何だ?」

するとテロリストの持つ拳銃がその手を離れ、そのままテロリストの顔面に勢い良くめり込んだ。

「ぐッああああァァァッッ!?!?痛ってェェェッッ!!!」

倒れ込んだその男へ、更に他数人の持つ拳銃も飛んで行き、ゴッゴッと痛そうな音が聞こえる。

「があああァァァッッ!!!」

「な、なんだ、何が起こってやがる!」

「あのガキが何かしたのかッ!?」


百足山さんは続けて翳したその手の人差し指で地面を指差す。

『マジ・グラビ!!』

「な、今度は何をッ…ぐああッ!!」

テロリスト達が一斉に教室の床にすごい速度で叩きつけられる。

「な…何だ…こりゃ…。」

「張本先生、押さえておくのでその人たち縛ってもらえますか?」

「え?あ、お、おう…。」

ハリセンが恐る恐る、紐かなんかを取りに教室を出た。


百足山さんは地面を指差しながらストンと席に座る。静まり返ったクラスの目が百足山さんに集まった。


「百足山さん…君は、何者…?」

「魔法使い。」

事もなげに答える。

宇宙人に、テロリストに、お次は魔法使いか。

もう次の話で何が起きても僕は驚かないかもしれないな。

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2025年12月9日 23:59

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