高嶺の花の生徒会長を痴漢から助けたら、なぜか私にだけ激重デレしてくるんですけど!?

白雪依

助けただけなのに。

 私、七瀬唯は、地味な優等生だ。


 成績はそこそこ良い。だけど目立たないし、友達も少ない。


 だけどこれがいい……それが私の理想の学園生活だった。空気のように存在して、静かに3年間を過ごす。


 それが、私の目標なのだ。


 「あの……月影先輩」

 

 トイレから帰る途中の廊下で、声が聞こえた。振り返ると、男子生徒がある女性に話しかけていた。


 長い黒髪に整った顔立ち、そして凛とした佇まい。そう、月影凛。生徒会長で成績優秀、生徒からの人望も厚い学年のアイドル的存在というべきだろう。


 だけど、見た目通りのクールな性格からつけられたあだ名は『氷の女王』

 

 凛さんは、いつものクールな表情で立っている。

 

「何か用?」

 

 冷たい声。

 

「あの、俺、月影先輩のことが好きです! 付き合ってください!」

 

 男子生徒が大きな声で告白する。すると廊下中がざわつき始めた。

 

 みんなが凛さんの反応を見守っている。だが当の本人は無表情のままだ。

 

「ごめんなさい」

 

 即答だった。

 

「え……」

 

「興味ないの。それに、忙しいから」

 

「で、でも……!」

 

「他の人を探して。私には、時間を使う価値がないから……」

 

 凛さんの声が冷たい。まるで氷のように。そして男子生徒が肩を落として去っていくと、廊下がまた静かになる。


 ひゃー、可哀想に。関わることないからあんま知らないけど、本当にあんな感じなんだ、怖い。

 

 凛さんは、何事もなかったかのように教室に入り、自分の席に座った。

 

 ……これが、「氷の女王」

 

 みんなから注目される存在ってどんな気持ちなんだろ。

 

 そんなことを考えていると。凛さんと目が合った。


 う、怖い。


 私は目を逸らし、特に気にせず学校を過ごした。


 *

 

 帰る途中、今日はいつもより電車が混んでいた。


 夕方のラッシュ、押し込まれるように電車に乗る。


 うげ、こういう狭いところ苦手なんだよなー。


 私は、窓際に立ち、次の駅までの時間を潰そうとスマホで動画サイトを見ていた。


 そして、ふと顔を上げた瞬間。


 一瞬見ただけで分かった。今日の朝も見た、私と同じクラスの生徒会長。月影凛さんだ。


 そんな凛さんが、今、電車の中で顔を歪めていた。


 え?


 よく見ると、凛さんの後ろに立っている中年男性の手が——。


 あ。これ、痴漢だ。


 私は瞬時に理解した、というより理解せざる得なかった。凛さんは、声を出せずにいる。


 助けなきゃ、でも……


 膝が震え始めていた。それでも、目は離せない。


 怖い……でも、困っている人を見て何もしないのは……嫌だ。


 私は、深呼吸をして。凛さんの隣に移動した。


「……すみません」


 私は、中年男性に声をかけた。


「その手、どけてもらえませんか?」


 男性が、ギョッとした顔で私を見る。


「は? 何言ってんだお前」


「便利ですよね、時代って」


 私はスマートフォンを男性に見えるように出した。


 まぁ、写真一枚撮っただけでビデオとかは特に撮る暇なかったんだけど。


「痴漢、やめてください」


 私の声は、思ったより大きかった。周りの乗客が、こちらを見ると、次第に男性の顔が青ざめる。


「ち、違う! 誤解だ!」


「じゃあ、次の駅で降りて、駅員さんに説明してもらえますか?」


 男性は次の駅で慌てて降りていった。自分の手が一番震えていて、内心で苦笑してしまう。

 

 私、こんなのでよく飛び込んだな……。


 そして凛さんの方を見た。


「大丈夫ですか?」


 凛さんは私をじっと見つめていた。その目が、少し潤んでいる。


 綺麗な顔だなぁ。ってか同級生に敬語って変か。


「……ありがとう」


 小さな声だった。いつものクールな凛さんとは、全然違う弱々しくて、可愛らしい声。


「いや、当然のことをしただけだよ」


「……本当に、ありがとう」


 凛さんは、もう一度お礼を言い、そして、次の駅で降りていった。


 疲れた。でも、助けられて良かったな。


 そう思いながら、私は電車に乗ったままでいた。


 *


 翌日。


 いつも通り学校に行き、教室に入るとすでに何人かの生徒がいた。私は、自分の席に座る。


 そういえば凛さん、大丈夫かな。痴漢でトラウマになったりする人とか多いって聞くし。


 そして、ふと顔を上げた瞬間。


 視線を感じた。振り返ると、すると凛さんが、私をじっと見ていた。


 え?


 私と目が合うや否や、ばっと顔を背けた。


 結構離れてるのに、こっちを見てたような。まあ、気のせいかな。


 でも、ずっと見られてるような気がする。


 なんだろう、気になる。


 そして、ホームルームが終わった後。


「七瀬さん」


 突然、名前を呼ばれた。 振り返ると、凛さんが立っていた。


 え、なんで?


「昨日は、本当にありがとうございました」


 凛さんが深々と頭を下げると、すぐに周りの生徒が、ざわつき始めた。


 え、なにこれ!?


「い、いえ! 大丈夫だから!」


 私は慌てて、顔の前でぶんぶんと手を振る。


「本当に助かったの。実はお礼がしたくて……」


「お礼なんていいですよ!」


「いや、させてほしい」


 凛さんの目が、真剣だ。


 人の好意は素直に受けたほうがいい、よね。


「もー……わかったけど、なにしてくれるの?」


「今日、一緒にお昼ご飯を食べない?」


「え?」


「実は、お礼にお弁当を作ってきたのだけれど……」


 凛さんが、お弁当箱を見せてくる。


 え、作ってきた? 私のために?


「いや、でも……」


「お願い……」


 凛さんの声が、懇願するような響きだ。周りの生徒が、さらにざわつく。


 うう、目立っちゃってる。


「わ、わかった……」


 私は、断れなかった。凛さんの目が、あまりにも真剣だったから。


 お昼休み。


 私は、凛さんと一緒に屋上に向かった。


 屋上は、生徒会のメンバーしか入れない場所。だけど生徒会長の凛さんが鍵を開けてくれた。


「ここ、静かに食べれるから好きなんだ」


 凛さんが柔らかい笑みを浮かべる。


「そうなんだ……」


 私たちは、屋上のベンチに座った。凛さんが、お弁当箱を開ける。


 中には、綺麗に詰められたおかずが並んでいた。


「すごい……手作り?」


「そう。七瀬さんの好きなものがわからなかったから、色々作ってみたんだけど……」


「え、こんなにいいの……?」


「まだわからないから、これからいろいろ教えてほしい……」


 凛さんが、微笑む。その笑顔が、いつものクールな凛さんとは全然違う。柔らかくて、温かい笑顔。


 こんな表情する人なんだ。


「でも、私お弁当あるんだけどどうしよ……」


「七瀬さんはお母さんが作ってくれているの?」


「いや、これは私の手作りだね。……そうだ、凛さん私のやつ食べる? なんか、交換。みたいな?」

 

 そう提案すると、凛さんの目が、ぱあっと輝いた。

 

「本当に? いいの?」

 

「うん、せっかくだし」

 

「……嬉しい」

 

 凛さんが、また微笑む。その笑顔が、なんだか眩しい。

 

 私は、自分のお弁当を開けた。

 

 卵焼き、唐揚げ、ウインナー。普通の、地味なお弁当。

 

「あの、凛さんのと比べると、すごく地味なんだけど……」

 

「そんなことない」

 

 凛さんが、私のお弁当を覗き込む。

 

「七瀬さんが作ったんだよね?」

 

「うん……」

 

「じゃあ、食べたい……」

 

 凛さんが、私の卵焼きを箸で取り、口に入れた。

 

「……美味しい」

 

「え、本当?」

 

「うん。すごく、美味しい」

 

 凛さんが、嬉しそうに笑う。

 

 その笑顔を見て、私も嬉しくなった。

 

「じゃあ、私も凛さんのを……」

 

 私は、凛さんのお弁当の唐揚げを取る。

 

 そして、口に入れた。

 

 ……美味しい。すごく、美味しい。

 

「美味しい……!」

 

「本当? 良かった」

 

 凛さんが、安心したように微笑む。

 

 そして、私たちは並んでお弁当を食べた。

 

 お互いのお弁当を交換しながら。

 

「ねえ、七瀬さん」

 

「ん?」

 

「また、一緒にお昼を食べない?」

 

「え?」

 

「明日も、お弁当を作ってくる。だから……」

 

「いや、でも……毎日は……」

 

「ダメですか?」


 凛さんの目が、潤む。


 こういう表情されると、どうも断れない。


「……いいよ」


「ほんと、やった」


 凛さんが、小さくガッツポーズをする。


 なんか思ってたキャラと全然違うんですけど。


 そんなことを思いながら、私たちはお昼を食べ終えた。


 凛さんと一緒に教室に戻ると、周りの視線が私たちに注目するのを感じる。


 恥ずかしい。まあそりゃあ私みたいな根暗な人が急に、The高嶺の花みたいな人と絡み始めたら、さすがに注目するよね。


 *

 

 そして放課後。


「七瀬さん、一緒に帰ろ」


 いつも通りの表情をしながら凛さんが、私の席に来た。


「あ、はい……」


 もちろん断ることもできず、私たちは一緒に下駄箱に向かった。


 そして、校門を出た瞬間。


 ――凛さんが、私の手を握った。


「え?」


「……手、繋いでもいい?」


「い、いや、でも……」


 なになに!? どういう風の吹き回しですかこれ!?


「ダメ?」


 凛さんの目が、潤む。


 ううううう。


「……いいけど」


「ありがと」


 凛さんが、嬉しそうに微笑む。


 そして、手を強く握ってくる。


 私たちは、手を繋いだまま歩いた。


 周りの生徒が、私たちを見てる。


 恥ずかしい。


 でも、凛さんは全然気にしてない。というかむしろ堂々としているような……。


「七瀬さん」

 

「ん?」

 

「私、七瀬さんのこと……」


 凛さんが、立ち止まる。


 そして、私の方を向く。


「大好き……だよ」


 え?


「もう、離さない」


 凛さんが次第に指を絡めてくる。


「七瀬さんは、私のヒーロー……だから」


「え、いや、そんな……」


「助けてくれた時から……ずっと」


 凛さんの目が、真剣だ。


 そして、少し怖い。


「私、七瀬さんがいないと、もうダメなの」


「凛さん……?」


「もう他の子を見ないで!」


 凛さんが、私の手を両手で包む。


 私は、気づいてしまった。


 凛さんの愛情は、普通じゃない。


 これは、依存だ。


 助けただけなのに。もう、離してくれない。そんな気がした。


ーーーーーーーー

【あとがき】

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引き続き、応援よろしくお願いいたします!!

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