魔王軍で『芸がない』とリストラ候補にされ、潜入先の学園でもスライム飼育係を押し付けられた俺が、ヤケクソでスライムを『模倣』したら、生徒たちに『神速の幻影使い』と勘違いされ最強の守護者になった件
人とAI [AI本文利用(99%)]
第1話 華がないのでクビになりました
「――ゼクスよ」
玉座から響く、地を這うような重低音。
万年氷に閉ざされた魔王城の謁見の間は、主の声ひとつでさらに凍てつく。俺は磨き上げられた黒曜石の床に膝をつき、深く頭を垂れていた。
「はっ」
「貴様を、我が魔王軍四天王より解任する」
「…………は?」
思わず、間抜けな声が漏れた。
顔を上げそうになるのを必死にこらえ、俺は己の耳を疑う。解任? 俺が? この魔王軍最強と謳われる四天王の一角、『模倣(ミミック)』のゼクスが?
いや、待て待て待て。
俺は確かに、先月の勇者パーティー迎撃戦で、自軍の損害率を完璧にゼロに抑えたばかりだぞ。敵の魔法は全てコピーし、最小限の動きで回避。戦場を冷静に管理した、完璧な作戦だったはずだ。
「も、申し上げます、魔王様。その、理由をお聞かせ願えませんでしょうか。このゼクス、これまで魔王様への忠誠を違えたことは一度たりとも――」
「理由、か」
魔王は心底つまらなそうに、巨大な肘掛けに頬杖をついた。
「貴様の技術は完璧だ。いかなる魔法、いかなる剣技であろうと、一度見れば寸分の狂いなく再現する。その点は評価しよう」
「は、はぁ……ありがとうございます」
よし、分かっているなら話は早い。完璧なのだ。ならばクビになる理由など――。
「だがな、ゼクス」
魔王の紅蓮の双眸が、俺を射抜く。
「見ていて欠伸が出るのだよ」
「欠伸……ですか」
「そうだ。華がない。あまりにも教科書通りで退屈なのだ。貴様の戦いはな、予算会議の資料を見ているような気分になる!」
(予算会議の資料って! 戦争は事務処理じゃねぇんだぞ!?)
俺は心の中で盛大にツッコんだが、表情筋を総動員して「無表情」を維持した。
「余が求めているのはな、こう……ド派手な爆発とか! 絶望的な威圧感とか! そういう『エンターテインメント性』なのだよ! 貴様の戦いには、我が軍の士気を鼓舞する熱意が欠片もない!」
「い、いや! あれは最小コストで最大戦果を上げるための最適解でして! 魔力ロス0.001%以下の神業だと――」
「五月蠅い!」
魔王様がドォン、と玉座を叩く。城全体が揺れた。
「技術の正確さなど、どうでもいい! 観客はそれを理解せん! 貴様は、我が軍の威信を示すべき四天王としては、あまりにもプロモーション能力が皆無だ!」
「ギャハハハハ! 言われてやんの! ざまぁねぇな、『猿真似』野郎!」
玉座の脇から、下品な笑い声が響く。
炎のような逆立った赤髪。四天王『煉獄』のヴォルカだ。脳筋のくせに、こういう時だけはしっかり同席しているのが腹立たしい。
「ヴォルカ……。貴様、笑うことはないだろう」
「あぁ? 笑わずにいられるかよ。テメェのその『完全模倣(パーフェクト・ミミック)』とかいうセコいスキル、前から気に食わなかったんだよ。所詮は他人の魔法の猿真似じゃねぇか!」
ヴォルカが俺の胸ぐらを掴み上げ、唾を飛ばしながら怒鳴る。
「俺様の極大魔法『焦熱地獄(インフェルノ)』をコピーした時もそうだったな? 俺の炎は全てを灰にする紅蓮の巨塔だ! なのにテメェが真似するとどうだ? 色は青白いし、範囲も狭い! 威力も見た目も数段落ちる劣化品じゃねぇか!」
(……はぁ。これだから素人は)
俺は内心で、深い深い溜息をついた。
劣化品だと? 違う。
貴様の魔法は、魔力ロスが酷すぎるのだ。熱量の六割以上が光と音に無駄に変換されている。だから俺は、コピーする際に術式を最適化し、無駄な発光を抑え、熱エネルギーのみに純化させた「青い炎」に再構築したのだ。
威力は同じで、消費魔力は十分の一。どう考えても俺の方が技術的には上だ。
だが、この馬鹿には、その本質が一切伝わらない。それが何よりの屈辱だった。
「ヴォルカの言う通りだ。貴様には『魂』が感じられぬ。もはや用済みだ、ゼクス。本来ならば処刑するところだが……」
魔王様が冷酷に言い放つ。
ひっ、と喉が鳴った。功績を鑑みてくれるというのか?
「貴様のその異常なまでの解析能力と几帳面さだけは、使い道がある。殺すのは惜しい」
魔王はニヤリと笑い、羊皮紙を一枚、俺の前に放り投げた。
「人類最高峰の教育機関、『アークライト魔法学園』。貴様にはそこへ潜入してもらう」
「……学園、ですか?」
「うむ。教師にでも扮して入り込み、人類の最新魔法技術や有望な人材のデータを集めてこい。期間は無期限。まあ、実質的な左遷……いや、厄介払いだと思ってくれ」
(隠す気なしかよ!)
調査任務というのは建前で、要するに「目障りだから城から出ていけ、適当に飼い殺しにしておけ」ということだろう。
「精々、ガキのお守りでもしてな! テメェのような地味な男には、便所掃除がお似合いだぜ!」
ヴォルカが勝ち誇った顔で鼻を鳴らす。
「……御意。謹んで、お受けいたします」
俺は地面に落ちた羊皮紙を拾い上げ、一礼した。全身の力が抜けそうになるのを、必死のプライドで堪える。
十数年の忠誠と貢献は、「地味」の一言でゴミ箱行き。完璧な仕事は、醜い劣等感と嘲笑の対象になった。
俺は踵を返し、重い扉へと向かう。背後から聞こえるヴォルカの下品な高笑いと、魔王の欠伸。
(……上等だ)
扉に手をかけた瞬間、俺の瞳の奥で、冷たい怒りの炎が灯った。
(見てろよ、脳筋ども。華がない? 地味だ? ああそうかい。なら証明してやるよ)
屈辱的な左遷。厄介払い。それは間違いない。
だが、魔王軍を離れるという事実は、俺の技術を理解しない無能な上司から解放されることを意味する。
(派手なだけで中身のない魔法なんぞより、研ぎ澄まされた「基礎」と「論理」こそが最強だってことをな! 俺の技術が、テメェらの魔法より遥かに優れているということを、必ず証明してやる!)
俺はボサボサの頭を乱暴にかきむしり、一度も振り返ることなく、長年仕えた魔王城を後にした。
だが、この時の俺はまだ知らなかったのだ。
その赴任先で待っているのが、魔王軍以上に「見た目」と「血統」が全てを支配する、貴族社会の縮図であるということを。
そして、俺に与えられた任務が、教師とは名ばかりの『魔獣飼育係』という、この上なく泥臭く、地味すぎる雑用であるということを。
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