第3話 異世界の文字と全裸の私
「これで良しっと」
朝、私は目を覚ますとまず、消えかけている釜土の火に
飲み水を作って器に
最初の数日間は、火の番をしながら3階の書籍をキッチンに持ち込んでは文字の解読を行い、なかなか解読できない本の内容に
気が付けば全裸での生活にも慣れていたが、それでも長年服を着るのが当たり前だった時の名残りなのか、建物の外に出る時には無意識に誰かに見られていないかと見回す習慣が身についていた。
それから3週間が経過した頃、私はこの世界でも季節が進んでいるのかも知れないと思う様になっていた。
何故なら、夜が少しずつ冷え込む様になってきたからだ。
そこで私は、敷地の一部に小石を敷き詰めて目盛りを刻み、即席の日時計を作る事にした。
以前に「この世界の一日は24時間より短いかも知れない」と感じた事があったが、その真偽を確かめる目的もあった。
「いーち、にーい、さーん、しーい、ごーお、ろーく、しーち、はーち、きゅーう、じゅーう、じゅーいち、じゅーに……」
そうして私は口に出して時間を数えながら、日時計の影が一つの目盛りを移動するのにどれくらいの時間がかかるのかを計ってみた。
昔、小学校の夏休みに自由研究で日時計を作った時の事を思い出しながら、木の枝と小石を集めて作った日時計なので、決して正確な時間を刻めているとは言い難いのだが、それでもおおよその時間の経過を計る事くらいは出来る。
そうして数日間、同じ様に計った時間を平均して計算してみると、この世界の一日は、およそ18時間くらいだという事が分かった。
つまり、この星の自転が地球よりも早いのか、それともこの星の大きさが地球よりも小さいのか、はたまたその両方なのかの3択になるという事だ。
仮にこの星の大きさが地球よりも小さいのだとすると、高校で習ったニュートンの万有引力の法則によれば、重力も地球より小さくなっているはずだ。
そういえば、この世界に来て最初の日、森の中を長時間歩いて来たのに、足が痛くなるような事が無かった気がする。
身体が少し
となると、私の身体は見た目以上に軽い筈で、地球の重力のおよそ7~8割くらいの体重になっているという事になる。
私の身体が、地球で鍛えたままの筋力があるのだとすると、この星の常人の2割増しくらいの脚力を持っている人間という事になるのではないだろうか。
(……っていうか、この世界の常人がどんな人なのか、まだ見た事も無いんだけどね)
そんな事を思いながらも、めげる事なく毎日色々な事を試しながらこの世界の事を知って行く事で、徐々に「この世界にとっての私」という存在の位置づけが見えて来る様な気がするのだ。
限りなく地球に似た景色でありながら、空には雲の様に浮かぶ島がある。
それこそラノベやRPGでしか見ない様なファンタジー世界であるこの星にとって、平凡な元女子高生でしかない私に、どんな価値があるというのだろう。
何だかんだでこの世界に来てから1か月以上は経過したが、未だにこの世界の住人との接点は無い訳で、おそらく沢山いる筈のこの世界の住人にとっては、私など存在していないに等しいのだ。
(どうせラノベみたいな世界に転移するのなら、どこかの国のお姫様とかにならせてくれれば良かったのに……)
そんな事を思いはするが、それでも最近はこの生活にも慣れてきて、自分自身に思わぬサバイバル術や生活力が身に付いていくのが楽しくなってきてもいるのだ。
東京に居た時には感じられなかった充実感というか、「ただ生きて行く為」の事を毎日しているだけなのに、自分自身への肯定感が増してきているのを感じるのだ。
火を起こし、飲み水を作り、現地の食材を調理して、言語について調べまくる。
トイレに行けば、おしっこもすればウンチもする。
紙が無いのでシーツで拭いて、何度も洗って使う様にもなった。
知能を活かして生きるという、人間の原点の様な生活を、私はここで
東京では、生活用品なんてほとんどが使い捨てだった。
ティッシュやトイレットペーパーは勿論、お手拭きやマスクも使い捨て。ペットボトルなどの容器だって、本当は何度でも使える容器の筈なのに、一度ドリンクを飲んだら、そのボトルは当たり前の様にゴミ箱に捨てていた。
消費、消費、消費……
東京では当たり前に、何もかもを消費する事で生かされて来た気がする。
物は勿論、お金もそう、時間もそうだし労力もそう。
今にして思えば、テレビゲームなんて時間の浪費にお金を支払っているようなものだった。
確かに友達と遊ぶのは楽しいが、あれはわずかな自己肯定感を味わえるから心地よいのであって、生きる為に必要な「何かの技術」を得られた訳ではない。
うがった見方をすると、地球の人々は、まるで誰かに首輪で繋がれてでもいる様な、そんな風にも思える生き方をしている人が多かった。
将来に夢も希望も感じられず、大人達の目は、死んだ魚の様に
そんな大人になりたいなんて到底思えない社会にも関わらず、当の大人たちは、子供に向かって「進路はどうするんだ?」と迫り、わざわざ「つまらない人生」の線路に乗せようとする。
どれだけ便利な世の中になっても、いや、世の中が便利になればなるほど、私たち人間は退化してゆき、地球にとっての人間の価値が下がってゆく気がする。
もっと技術が進歩して、ロボットやAIで社会が回る様になったら、人間は何の為に生きればいいの?
やがて人間は、何でもかんでもAIやロボットに仕事を押しつけて、肉や魚さえ化学的な培養工場とかで作ろうとするのではないだろうか。
そんな、理科の実験で作った様な肉が、おいしいなどとは到底思えないだろう。
今の私はどうだろう?
この世界に私を食べようとする肉食獣なんかがいたとしたら、きっとおいしく食べられてしまうのではないだろうか。
自然の恵みだけを飲み食いし、素っ裸で全身で日光を浴びながら活動している今の私は、東京に居た時よりもむしろ健康的で肌にも張りがあって若々しい。
東京に居た時にも「ピチピチの女子高生」だなんて呼ばれてたけど、実際には肌は乾燥してカサカサになっていたし、運動不足で無駄な脂肪が身体中に蓄えられていたし、スマホの見過ぎで視力も落ちてきていたし、ちょっとしたことで風邪をひいたり熱を出したりする、弱々しい生き物でしか無かったんじゃないだろうか。
だいたい、今の私の肌の美しさなんて、自分でも驚くほどだ。
虫刺されも無いキレイなすべすべの肌で、
鏡が無いので何とも言えないが、最後に見た私の姿は、自分でも「可愛い」と思えたし、張りがあってぷりっとしたおしりなんて、自分で触っていても気持ち良くなるくらいの弾力があって形もいい。
今の私なら、ティーン向け雑誌のトップモデルにだってなれるかも知れない。
学校の勉強なんて、何の為にやってるのかよく分からないままに生きてきたけど、今は全てが勉強だ。
生きる為に必要な知識を、私はもっと身に付けなければならない。
「さてと、今日はこの本棚の本を見てみようかな」
そう言いながら私は、3階の部屋を端から順番に回り、3つ目の部屋の本棚の本を手に取りだした。
その本棚の本は、今まで見てきた中でも特に薄い本ばかりで、内容を見ると、大きな文字でかかれた短い文章と、多くの絵が描かれていた。
(やった! 絵本だ!)
きっとこの世界の子供向けの本なのだろう。
いわゆる知育本というやつかも知れない。
何かの動物の絵が描かれているページには、大きな文字が5文字くらい書かれている。
きっとこれが、この動物の呼び名を表す文字なのだ。
しかもこの文字は、これまで解読しようとしてきた本で見た文字ばかりだ。
それらの文字をどう発音すれば良いのかは分からないが、とにかく単語の意味が解れば、解読作業も
私は、その本棚にある薄い本ばかりを取り出し、両手に抱えてキッチンの方へと向かったのだった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
それからも毎日、私は本の内容を解読する作業を続けていた。
3階の部屋の机には引き出しがついていて、その中には筆記用具らしきものが沢山入っていた。
紙は見つからなかったので、本に直接書き込んだりしてメモしていく事で解読作業をしていた。
最初は、知らない文字ばかりである種の絶望にも似た気持ちでいたけど、先ずは文字の種類ごとに抽出し、それをキッチンの壁にどんどんと書きだしてみた。
すると、これまでに出てきた文字の種類は180文字くらいしか無い事に気付く事が出来た。
しかも、やたらとよく使われる文字と、あまり頻繁には使われない文字に分かれる事が分かってきて、よく使われる文字を重点的に調べていくと、それらが母音を示すものだろうという事が想像できた。
そして、それらの母音の前に付く文字が恐らく子音で、2文字を組み合わせる事で一つの文字として音を構成しているらしい事が分かった訳だ。
文法的にはまだまだ未確定な事は多いが、絵本に書かれていた文字から得られた情報を
ただ、文字は分析できても、読み方が分からない。
今の悩みは正にそれだった。
「あ~あ、誰か読み方を教えてくれる人とか居ないのかな~」
そんな独り言を
勝手口から外を見ると、今日はいつもより空気が重暗い気がした。
空を見上げると、灰色の雲が空を覆っており、少しひんやりとする。
(釜土の火の前に居たから気付かなかったけど、やっぱこれってだんだん冬に向かってるよね……)
今日でこの古城生活も5週間くらい。
全裸生活に慣れたとはいえ、誰とも会わない生活に対するストレスが徐々に溜まってきているのは感じていた。
彼氏が出来た事は無いものの、「人肌が恋しい」というクラスメイト達の気持ちは、今の私には痛いほどよく分かった。
「その問題の解決の為にも、言語の習得くらいは何とかしないとね」
そう声に出してみたが、それで寂しさが紛れる事は無かった。
少しは
ぐうう……
私のお腹が「何か食べさせろ~」と鳴いている。
(そういえば、お腹空いたな……)
今日もいつもの蕎麦に似た穀物を食べるしかないのだが、いい加減、同じものばかりで飽きてきた。塩味を調節したり、時々砂糖で味付けをしたり、炊いた穀物を焼きおにぎりみたいにしてみたり、色々変化は加えてみるものの、野菜や肉が食べたいという願望は日に日に高まって行く。
(狩りをするにも武器が必要だろうし、そもそも全裸で狩りなんて危険すぎるよね……)
そもそもこの世界で他の動物を見た事が無いし、食べられる動物が居て、うまく仕留められたとしても、それを
運良くベッド用のシーツは見つけられたものの、衣服を作る為の裁縫道具が見つからない。
もし今の私が衣服を
(この世界の人は、いったいどんな服を着ているんだろうな)
「いや、ダメダメ! 服の事は後にして、とにかく今は言語の習得が最優先よ!」
と頭を振りながら言った矢先に、再びお腹がぐーっと鳴った。
「……言語の習得の為にも、先ずはご飯かな」
私はいつも通りに釜土に鍋をかけ、蕎麦に似た穀物を焚く準備に取り掛かるのだった……
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
翌日は朝から雨が降っていた。
気温もいつもより寒く感じる。
空はどんよりと曇り、しばらく雨はやみそうにない。
(これは、飲み水を溜めるチャンスだわ!)
私は早速井戸の小屋に向かい、いくつかの桶を地面に並べて置いた。
ついでに全身を雨で濡らし、冷たいシャワーを浴びるかの様に、身体を手で擦ってアカを落とした。
「うーっ! 冷たいなーもぅ!」
と声を出すと、少しばかり雨の冷たさを忘れる事ができる気がした。
しばらく身体をゴシゴシと洗い、髪を束ねて水を切ってから勝手口からキッチンに入り、いくつか壁に掛けていたシーツを手に取って身体に巻き付け、水気を拭き取っていった。
「うーっ、寒い!」
とは言いつつも、身体を拭きながら釜土の火の前に居ると、じんわりと身体が温まって行くのを感じる。
古城の石壁に雨が当たる音が心地よく室内に響き、時折桶に溜まった雨水を鍋に入れてはまた屋外に桶を並べるという作業を繰り返した。
(これで鍋は満タンになったし、次は浴槽に水を溜めてみようかな)
私は再び身体が濡れるのも構わず、屋外に並べた桶に溜まった水を、浴室にある大きな湯舟に運んで流し込んだ。
桶ひとつでは浴槽の床が濡れる程度にしかならない。
身体を浸せるくらいの水量を運び込むのには、相当な回数の水を運ぶ必要がありそうだった。
浴槽の底には埃が溜まっていたので、最初の桶の水が床を濡らした後、シーツでゴシゴシと浴槽を洗って、排水溝に汚れた水を流していった。
それを何度も繰り返し、浴槽がそこそこ綺麗になったと思える頃に、排水溝を木の杭で塞ぎ、結局は桶84杯分の水を浴槽に溜めたところでギブアップした。
「ぜーっ、はーっ」
さすがの私も息が上がっていた。
雨で冷えていた身体も、何度も浴室と勝手口を往復したおかげで温まり、今は身体から湯気が立ち上っている程だ。
むしろ汗をかいているので、早くお風呂を沸かして身体の汗を流したいところだ。
浴槽の水を沸かすには、浴槽の隣にある釜土に火を入れる必要がある様だ。
私は浴室の釜土に薪をセットした後、キッチンにある釜土から火のついた薪を1本取り出し、浴室の釜土で火を起こす事にした。
最初は細い薪から始め、火が大きくなるにつれて徐々に太い薪へと変えていく。
キッチンの釜土の火を起こす時は大変だったが、浴室の釜土の火を起こす事はそれほど大変ではなかった。
(やっぱ、種火があるか無いかの差は大きいなぁ)
浴室の釜土の火が大きくなるにつれ、浴槽の一部に飛び出した釜がプクプクと泡を立てだした。
(熱源がここしか無いから、浴槽の水をよくかき混ぜないといけないな……)
昔の日本でも、
私がまだ小さくて、お婆ちゃんがまだ生きていた頃だったか。
釜が熱くなるから、木の板を沈めてお風呂に浸かるんだって話を聞いて、「私もやってみたい!」と私は無邪気に言っていたらしい。
まあ、自分では覚えていないんだけど。
そうこうしているうちに、どんどんとお湯が沸いてくる。
しかし浴槽が広いせいでなかなか満足のいく温度になってくれない。
しかも、いつの間にか日が落ちる時間になっていた様で、浴室が暗くなってきた。
釜土から洩れる火の明かりだけが浴室内を黄色く照らしていて、揺らめく炎の明かりで、デコボコした浴室の苔むした壁に色々な表情を与えていた。
(あったかいお風呂なんて、いつぶりだろう……)
石けんもシャンプーも無いので、身体をどこまでキレイにできるかは分からないが、温かいお湯に浸かるだけでも随分と汗を流すのには効果がある筈だ。
私は一旦キッチンに戻り、釜土の火の具合を確認してから、シーツの切れ端を持って再び浴室へと向かった。
浴槽のお湯は、表面に湯気が立つ程に温まっており、手を入れて確かめてみると、まだ少しぬるいが、入れない事も無い温度になっていた。
私はシーツをお湯で濡らし、浴槽の外で身体をこすって洗った。
昼間に冷たい雨で身体を洗ったのとは違う、温かくて肌がやわらかくなる感じがいい。
特に足の裏などは、毎日裸足で歩いているせいで皮が固くなってきていて、靴が無くても平坦なところを歩く分には問題が無い程だ。
この世界に来た初日に森を歩いて傷だらけになった
そうして一通り身体中を拭き終えてから、念願の浴槽に足を踏み入れた。
浴槽の広さは丁度私が2人同時に寝そべる事ができるくらいある。
足を浴槽の中に沈めると、お湯は膝下くらいまで浸かる深さがあった。
私はそのままゆっくりと浴槽の中に腰を下ろし、浴槽の中に寝そべる様にして足を伸ばしてみた。
(あーっ! 気持ちいい! お風呂サイコー!)
じんわりと温かいお湯が身体を温め、汗ばんでいたとはいえ雨で冷えた身体をゆっくりと温めてくれた。
濡れた髪を湯舟の中で泳がせ、両手で
(やっぱ、シャンプーか石けんが欲しくなるなぁ……)
浴室は釜土の火から洩れる明かり以外に見えるものはなく、時折湯舟の水面が光を反射して見えた。
どこか遠くから、まだ降っているらしい雨音が聞こえる。
それがどこか幻想的で、目を瞑るととてもリラックスできた。
お湯に浸かった首筋がじんわりと温まって来るのが気持ちいい。
私は両手で筋肉がついてきた両腕をマッサージし、全身に血液が巡るのを感じていた。
両腕の後は肩、そしてふくらはぎを揉みほぐしていくと、全身が痺れる様な心地よさに包まれて行く。
自分の身体とはいえ、この肌触りが気持ちいい。
太腿も揉みほぐし、再びふくらはぎを揉みほぐす。
そうすると、足の指先までが温まってくる。
両手も同じ様に揉みほぐしていくうちに、全身がポカポカとしてくるのを感じた。
形よく膨らんだ乳房にお湯をかけながら両手で軽く揉んでみると、心なしか下腹部に向かってツーンとした電気が走った様な感覚に襲われる。
けれどそれが何だか心地よくて、しばらく胸をさすっているうち、乳房の頂点の突起から快感が下腹部へと走る気がした。
(あ……、これちょっとヤバいかも……)
東京に居た時にも何度かした事がある自慰行為。
今はその時よりも美しくなった容姿と身体で、自分の身体に触れているだけなのに、何故か不思議と罪悪感のような感覚に襲われる。
徐々に両手を下腹部の方へと伸ばし、自分の内腿で両手を挟むと、まるで悪い手を太腿が
その時、足元でゴトンという音がして、私は慌てて身体を起こした。
どうやら音の正体は、釜土の薪が焼け落ちた音だったらしい。
(だめだめ。こんなところで煩悩に吞まれている様じゃ、言語の解読なんて達成できないぞ!)
心の中でそう自分を
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
それから更に1週間が経過した。
言語の解読に大きな進展は無かったが、それでも文字の種類は随分と覚える事ができた。
それを声に出して読む事ができないのがもどかしく、とにかく読み方を誰かに教わらないとどうしようも無いという事は分かった。
「そろそろ、人里を目指してみようかな……」
私は布団に包まりながら5階に上がり、バルコニーから古城の裏側に見える、万里の長城の様に続く城壁を見つめていた。
(でも、服が無いしな……)
だんだんと寒くなってくるこの世界で、外出するのに服が無いのは致命的だ。
なのに、この古城で暖を取れるのはキッチンと浴室の釜土だけ、身に
(仮に人里に出たとして、服を買うにもお金か何かが必要だろうし……)
とそこまで考えて、私はふと思った。
「この古城の中に、お金や財宝みたいなものが全く無いなんて事があるのかな?」
何せ、これだけの大きなお城だ。
建物の中を探索したとはいえ、あの時は「生きる為に必要なもの」を探していたから、シーツと布団、あとは食べ物を見つけた時点である程度満足してしまっていた。
キッチンの地下に食品倉庫を見つけた様に、ここがお城なのだとしたら、どこかに宝物庫みたいなものがあって然るべきだ。
だいたい、ファンタジー作品でお城に財宝が無いなんて事があっていいものか。
私はこの建物をもう一度詳しく見て回る事にした。
5階のバルコニーから建物の外壁をぐるりと見回してみる。
所々に窓用の穴が開いていて、それが各階にある。
(っていうか、アレ?)
私はふと違和感を感じた。
「部屋の数と窓の数が合わなくない?」
2階は確か、大き目の部屋が6部屋と、小さめの部屋が8部屋あった筈だ。
廊下を挟んで向い合せに並んでいたから、こちらの外壁には小部屋6部屋分の窓と、あとは物置部屋とトイレの窓があるだけだ。
しかし、外壁には9個の穴が開いていて、明らかに一部屋分多い。
3階もそうだ。こちらの面には大き目の部屋が3つと物置部屋とトイレがあるだけなのに、窓が6つある。
それは4階も同じで、1階を除く各階の窓が、どう見ても一つずつ多くある。
私はとりあえず3階に降り、外壁にあった上下階の窓の位置を中から確かめようとした。
しかし、私が廊下から室内を見る限りは、どう見ても廊下の両サイドに9部屋分の扉があるだけで、廊下の突き当りはただの壁になっている。
私は廊下の突き当りまで歩み寄り、壁をノックする様に手の甲で叩いてみた。
すると重々しい石の壁の様な音がして、ここに隠し扉みたいなものがある様には思えない。
廊下の壁を端から端までノックしてみたが、どこも同じだった。
(部屋の中から抜けられる隠し扉があるのかな……)
私は突き当りの部屋に入り、謎の窓がある筈の方向にある壁を見たが、その壁はズラっと本棚が並んでいるだけで、扉がある様には見えない。
(だけど、もしかしたら……)
私はその本棚にある本を次々と抜き出し、その部屋の床に置いて行った。
一番左にある本棚から順番に空っぽにしてゆき、二つ目の本棚も空にした。
そして3つ目の本棚の本を取り出していくうち、上から3段目の本が、実は「本に見せかけた何か」だと分かった。
(やった! やっぱり何かある!)
私はその本の背表紙に似せたものを、引っ張ったり押したりした。
そして、その本らしきものを横に倒す様に押してみると、ガコンッと音がして、何と本棚ごと壁の奥へと食い込んだではないか。
(すごい! こういうの、本当にあるんだ!)
私は、重たいその本棚を力いっぱい壁の奥に押し込んでみる。
すると、本棚が扉の様に横にズレて、その奥に部屋が現れた。
恐る恐るその部屋に足を踏み入れると、左手には確かに窓があり、外の明かりで薄暗く部屋を照らしていた。
部屋の中にはいくつかの剣が壁に掛けられていて、壁際にはいくつかの木箱が積まれていた。
そして、窓とは反対側の壁際には、重々しい金属製の錠がかけられた、木製の宝箱があった。
そう、それは見るからに宝箱だ。
RPGや漫画に出て来る、あの「宝箱」と同じ姿をした、誰が何と言おうと、これぞ「ザ 宝箱!」だ。
(すごいすごい! すごいの見つけちゃった!)
私は全身が歓喜で震えるのを感じた。
そして、全裸の私は舌舐めずりをしながら、宝箱に歩み寄るのだった……
※イラスト(入浴シーン)
https://kakuyomu.jp/users/gakushi1076/news/822139840977055678
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