第6話:ウィッグのサービスと童貞の涙

今度は恵比寿での待ち合わせだった。 ガーデンプレイス側の改札を出たところでタクヤが待っていると、背後から声がした。


「センパイ!」


振り返ると、そこにはおかっぱぱっつんのレトロ美大生カットに変身したケイコが立っていた。


タクヤは「おぉー!」と声を漏らしたきり、頭が真っ白になって言葉が出てこない。


「まあ、ウィッグですけどね。この手のウィッグはまあまあ簡単に手に入ります。サービスしちゃいました」 とケイコは言った。


しかし、センパイからまだリアクションがなかった。 ケイコは冷静に言う。


「センパイ、感動しているのは伝わってきますが、こういう時は女子をほめないと全然ダメな童貞です」といって、タクヤを見ると…


タクヤは感動しているようで、無言のまま涙が頬を何筋も伝わっていった。


「ケイコ、オレはモーレツに感動している‼ たとえ今、寿命が来て死んでも何の悔いもないくらいだ!」


「センパイ、そこまでですか!うれしいけど、女子はドン引きするかもしれませんよ」


そう言いながらも、ケイコはハンカチを出してセンパイの涙を拭いてやった。


「まあ、そこまで感動してもらえたのは素直にうれしいですけどね。ケイコも頑張ったかいがありました」


と、ケイコはタクヤに聞こえないよう心の中でつぶやいた。


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