第5話 男/女の会話

 体育館で体育の授業。僕達男子がバスケットボールをやっている隣で、女子はバトミントンを嗜んでいた。男子と女子の境界線を引くように巨大な網が仕切られている。その網に寄り添うようにして、真面目さんは体育座りでジッと前を見ていた。




「ねぇ、真面目さん。バトミントンやらないの?」




「清水です。木田君こそ、男子の輪に入らないんですか? 複数人でのお遊びなら、私のように嫌がられませんよ」




「誰も組んでくれなかったんだ」




「まぁ、嫌われてますし」




「なんでみんな真面目さんを嫌うんだろうね? 別に何か悪い事をしたわけじゃないのに。それとも僕が知らないだけで、何か悪い事でもしたの?」




「清水です。別に嫌われるような事をした覚えはありません。理由なんかなくても、みんな私を嫌うんです。まぁ、無視されてるだけですし、私だってみんなの事が嫌いですし」




「僕は真面目さんの事が好きだよ?」




「……あの鶴の件はどうなりました? まだ木田君の家に?」




「うん。今朝も朝ご飯作ってくれたし、身の回りの事全部やってくれた」




「ああ、それで今日は寝癖や服の乱れが無いんですね」




 すると、僕と真面目さんの足元に、それぞれバスケットボールとシャトルが転がってきた。




 僕はボールを手に取り、一番主張している人にボールをパスした。




 一方で、真面目さんはシャトルを拾わず、女子の誰かがシャトルを拾いに来る事も無かった。




「それにしても、鶴の恩返しが現実で起こるなんて、まさに奇々怪々ですね」




「真面目さんだったらどうしてる?」




「清水です。私は木田君のような冒険心はありませんので、そもそも助けません。それで恨みを買われる可能性はありますが」




「恨みといえば、その鶴が今朝作ってくれた朝ご飯と昼ご飯のお弁当なんだけどさ。どうやらスーパーから盗んだ物で作ったみたいでね」




「みたいでね、じゃありません。即刻保健所―――いえ、警察に通報です」




「でも、僕食べちゃったし……」




「つまり、共犯扱いされる事を懸念しているんですね? おそらく大丈夫だと思いますよ。仮に共犯扱いにされても、木田君は中学生ですから注意で終わります」




「真面目さん、今日家に来て鶴に色々と教えてくれない?」




「清水で―――どうしてそうなるんですか?」




「僕より真面目さんの方が上手く説明してくれそうだし。適材適所だよ」




 真面目さんは眼鏡を外すと、指で眉間をグリグリした後、再び眼鏡を掛け直した。




「……明日から三連休ですよね」




「ん? そうだね?」




「では、一度家に帰った後、木田君の家にお邪魔します」




「ありがとう! で、三連休は関係あったの?」




 その答えを聞く前に、授業が終わるチャイムが体育館に鳴り響いた。仕切っていた網が端に寄せられ、分かれていた男女が先生のもとへ集合していく。




「楽しみにしてますね。木田君」




 そう言うと、真面目さんは先にみんなの方へ歩いていった。




 去り際の真面目さん。見間違えでなければ、笑っていた気がする。

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