epilogue3 メタルレッグ・サバイバー

(メモによると11月7日に記述)


今のカラダは燃費の悪いマシンのようなもの。

しかしサポーターを二重三重に巻いた上から、ガッチリとプロテクターで固定しさえすれば問題なく杖での移動が可能になった。


しかし、この状態での活動は傷やら骨やらに結構負担がかかり、大体、動いた時間の3倍くらいはクールダウンさせないと、痺れや鈍痛が抜けない。

 

かといって多少は負荷をかけないと骨が結合していかないので、そのへんの匙加減が難しい。


あっ、転んで折れちゃったー!というわけではなく、突っ込んできた車に直撃され一度足がぐちゃぐちゃにされている。

皮膚やら甲やら踵やらいろんな場所が、オイタワシイ事なになっている。


しかし骨は順調に固定されていて、皮膚もようやく再生しつつある。皮膚に刺激を与えず骨に適度な負荷をかけ、関節は容赦ないストレッチでリハビリという状況。

体調にもよるけれど、外出しての活動限界は三時間くらい。なので用事はまとめて済ます。

 

今日は診察、リハビリ、役所、警察(入院中は不可能だったので被害者としての調書取り)。

カラダも辛いが、けっこうメンタルにくるスケジュール。


まずレントゲンからの診察。

レントゲン写真を久しぶりに、まじまじと見る。

凄いなこれ。骨がチタンプレートに覆われ、その横にワイヤーが。自前の骨は金属に覆われて隠れている。

 

サイボーグだよね、もはや。サイボーグ・ブルースだよね、009だよね。痛くないはずないよね、この金属量。

何よりイヤなのが、プレートを補助する金属棒が写真ではっきり見えるのだが、これが「曲がってる」。

グニャッと。

 

「曲がってますね」

 

「はい、でもすぐ折れたりしないから大丈夫です」

 もし、もっと曲がってしまったら再手術で、しかし大した手間のかかる手術にはならないから大丈夫ですよと先生。

 いや、手間暇を心配しているわけではないのですよと苦笑い。先生も笑う。まあ笑うしか無いのだ


リハビリはいつも通りにこなしていく。

リハビリの先生に痛みとかはどうか、と聞かれる。


「折れてる部分を庇うせいか、大腿骨あたりまで少し痛むんですよね」

と答えたら笑われた。


「そこも折れて亀裂が入ってましたから痛くて当然ですよ。説明してもらって無かったですか?」

 

ませんよ!

そうかー、そこもヒビ入ってたのか。まあ入院中はずっと包帯巻かれてた部分だからなー。

て簡単に折れすぎだろ、骨。

メンタルがまた減っていく。


役所で労災関連の書類を提出。何枚も何枚も何枚も。細かい文字で、普通の日本人が使わないような日本語で書く。そして担当官が細かい記載ミスを指摘して突き返してくる。

医師が書く部分なので、病院に修正を頼むしかない。こうやって何日も支払いが先延ばしされる。


立て替えてる分くらいは早く返して欲しい。

メンタルがまた減っていく。


最後に警察。


被害者だからとても優しく対応してくれるが、やる事はえげつない。相手のドラレコで自分が撥ね飛ばされる画像を見せられる。


いやだなあ。

 

ああ、本当にマンガみたいな撥ねられ方してるな。音声は無いが、ここにセリフ入れるとしたらやはり

「うぎゃー」

とかだろうな。しかしまだブレーキ踏んで無いの凄いな運転手。


調書を取り、最後に、相手に厳罰を望みますかと問われる。

少しだけ思案したけれど、標準的な賠償は求めるが故意では無いなら刑事罰までは望まないですと言っておいた。

まあ相手が投獄されたら新しい足がスラリと生えてくれるとかなら、ぜひ厳罰を望みたいが、そんなはずもあるわけないので。


買い物を済ませて帰宅。


自分が病院送りにされる画像というのは結構クるものがある。少し吐きそう。


警察では、ナイーブな方にはショックが大きいのでお見せしない場合もあります、とか言っていた。


いや結構ナイーブだろ私(笑)。

成人男性はナイーブではないという思い込みがだな、なんたら面倒臭い問題をだな。自虐ギャグを言いながらプロテクターを外し、擦れた皮膚にローションを塗り込む。


骨に沿って撫でていく。骨を固定するネジの辺り、皮膚のすぐ下に金属の器具がある。

ネジの形から留め具の固さまで、軽く触れただけでもはっきりわかる。


今にも皮膚を突き破りそうな角張った金属。

これが私の足を繋いでくれている。


こんなゴツいものを一生入れたまま、本当に走ったりジャンプしたり出来るように回復するのだろうか。


鈍い痛みと痺れ。

疲れたな。

Kindle echoに適当にリクエストして、横になる。


一眠りの間に、また少し骨も傷も良くなる筈だ。

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