6話

目を閉じる。

痛みに意識を向けたら、その瞬間に倒れる気がした。


(……クソ……痛ぇ……)


寒さで感覚が鈍くなるどころか、逆に傷が痛む。

雪が頬に落ちるたび、神経がざわついた。


そのとき――


遠くから、雪を蹴るような足音が聞こえた。

軽い。

そして息が乱れている。


(……男じゃねぇな)


警戒が胸を走る。

近づく音はだんだん大きくなり、止まった。


すぐ目を開ける。

そこに立っていたのは――


「……っ、救急車は呼ばない……! でも……応急処置だけは……させて……!」


さっきの女。


涙目で、息を切らし、顔を真っ赤にしていた。


(……は?)


状況が理解できないまま、絃はリュックを開け、

慣れた手つきで傷口の血を拭き取りはじめた。


「おい……触んな……っ」


拒否しようとした声は、痛みでうまく出なかった。


絃は手を止めず、震えながらも消毒液を垂らし、

血のにじむ腹に包帯を巻いていく。


次にリュックから取り出したのは――枕。

明らかに家から持ってきたものだ。


それを折れた肋骨のあたりに押し当て、

ズレないようにバスタオルでしっかり固定する。


まるで自分の痛みのように眉を寄せ、唇を結び、

震える指先で最後の結び目を作る。


(……なんで、どうして)


普通ありえない。


「……なんで……戻ってきたんだよ……」


低く、掠れた声が漏れた。


絃の手が止まる。

けれど次の瞬間、強い決意を宿した瞳がまっすぐこちらを見た。


弱くて、怖がりで、震えているのに――

その目だけは逃げていなかった。

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