5話

結斗 said


最悪だ。


舌の先にまだ鉄の味が残っている。

殴り飛ばした相手の血か、自分のかはもうわからない。


さっきまで阿李猫(アリーキャッツ)どもに囲まれていた。

あいつら、今日は武器まで持ってやがった。

鉄パイプ、チェーン、ナイフ。

正面からやり合えば骨が折れる――いや、折られる。


「……チッ」


背中の痛みを押し殺しながら、路地を走って抜けた。


息が荒くなる頃、視界に小さな公園が入った。


公園の隅のベンチに腰をおろした。

雪がじわりとコートを濡らすが、そんなの気にもならない。

それより、腹の傷のほうがよっぽど問題だ。


(くそ……今日はついてねぇ)


スマホの画面が滲む。

血が手の平まで伝っているのに、妙に冷静な自分に腹が立つ。


そのとき――


「だ、大丈夫ですか……?」


女の声。


顔を上げると、そこに立っていたのは見覚えのない少女だった。

小柄で、細くて、怯えた瞳。

この時間、こんな公園に女一人なんて正気じゃねぇ。


(……なんで近づいてくんだよ)


「あなた、怪我……っ。救急車……呼ばないと……!」


その言葉に、反射的に手を伸ばした。

手首を掴んで、動きを止める。


「……余計なことすんな」

「さっさとどっか行け。」


少女の肩が震える。

目を逸らし、小さく縮む。


(……ちっ。なんでビビってんだよ)


雪の中で彼女の震えるその背中を見送るとき、胸の奥に残った違和感だけが妙に重かった。

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