プロローグ
七月某日。
東南東から刺す光を目の前から受けながら私は、バス停前のベンチで腰掛ける。あまり慣れないバスに乗り遅れないよう、時刻表と腕時計を何度も確認し、片側二車線の道路を挟んだ先に目的のバスが来るのではないかという不安に駆られながら、あたりをキョロキョロと見渡す。
だが、そんな心配は杞憂だったようで、バスは目の前で止まり、たくさんの乗客を降ろす。電子マネーを使用しバスに乗ろうと思ったが、緊張のあまり、ICを使う感覚で財布から取りださずにタッチしてしまった。慌てて財布からカードを取り出し、タッチする。音声がなったことを確認すると、目の前の席の二つ後ろの一人席に腰掛ける。数分の間、バスの中で座って待っていると、ついにバスのドアが閉まり、ゆっくりと動きだす。
地面の小さな起伏などで電車のように音を立てて揺れる車内。同じように揺れる壁に貼られた紙の広告と、窓ガラス。右側に目を向け、外の景色を曇った窓ガラス越しに覗く。窓ガラスは、目に映す「釧路」のまち並みと雰囲気を醸し出す、フィルターとして働いているようだった。またそんな窓ガラスが、いつも見ている釧路とはまた違う風景を映してくれた。
途中、他の乗客が乗ってくるので何度かバスは止まっていたが、進めば移り変わるバス車内からの景色を眺めていれば、あっという間にバスが駅まで近づいていた。
他の乗客に迷惑をかけないように乗車時の二の舞にならないよう、予め財布からカードを取り出し、すぐに下りられるよう準備を整える。
バスが終点となる釧路駅に着いたタイミングで、全員が一斉に降りる。詰まらせないようにカードを右手に持ち、右にあるタッチ部分にカードを当て、バスを降りる。
少しバスから離れたところで立ち止まり、荷物をバッグに詰める。水筒や塩分タブレットなどの熱中症対策などに様々なものを小さなバッグに詰め込んだのでかなりギリギリだ。荷物をしまいきったところで周りを確認しながら横断歩道を渡り、駅に近づいたところで時計を確認する。
時刻は十時丁度。釧路駅を開始地点として、私は、「釧路」を知り、伝えるために、「釧路」を歩き始めることにするのだった。
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