第2話 2人の支配者
警察官たちが数名、石畳を駆けてきた。
「そこのマントの男、動くな!」
長い槍のような警棒を構え、視線は鋭い。
ロイヤードはゆっくり振り向き、笑う。
「……おいおい、街の守り神たちか?
俺に触れるには早すぎるぞ」
「その辺にしておきなさい」
低く響く声。
振り向くと、見知った顔の女性――ヘルアが立っていた。
「助けに来てくれたのかい? ヘルア」
エンジェント4:ヘルア・ルーペスト(別名:超越者)
「えぇ。カーロと貝殻野郎が助けに来いって。
もしかしたら死んじゃうのかもって言われてね」
一瞬、空気が凍る。
「おちょくってんのか? 俺は強えんだよ」
「あなたはエンジェントの中で最弱のNo.8じゃない」
「……」
「それに、アンタみたいな“ただ殺ししかできない”ようなのとは違うのよ」
「黙れ!!」
ロイヤードはヘルアに怒りをぶつける
「エンジェント構成員ロイヤードと、構成員ヘルア!
貴様らをその場で拘束する! 決して逃しはしない!!」
ヘルアは腕を振りかざし、ため息混じりに言う。
「それ……逃す時に言われがちな言葉よ? ハァ……大風(トルネード)」
「待っ――」
警察官が言い切る前に、彼らは渦に巻き上げられ、
次の瞬間にはヘルアとロイヤードの姿はすでに消えていた。
「クソっ!」
───
一方、フレムとキルノは、クエリオンの中で一番景色の良い場所へ向かっていた。
「すごい。街並みが綺麗だ」
「でしょ? このキールー大陸の中じゃ、世界一の貿易国なんだ」
「キールー大陸?」
「この国が属してる大陸のことだよ。
君は、いったいどこから来たのか……明かしたくないかい?」
フレムの言葉に、キルノはしばらく考え――。
「あぁ」
フレムの問いに答えると、急にフレムが腕を広げた。
「なら、このキールー大陸全土を旅しない?」
「は……?」
突然の提案に、驚きと困惑が隠せない。
「ぜ、全土!?」
「そうだよ!
ここ“貿易の国”、悪魔の国、力の国、戦の国……ざっと10カ国あるよ」
「じゅ……それは無理がある! おかしいだろ!」
いったい何年、何十年かかるのだろうか。
「た、旅だぞ? そんなの無理に決まっている!」
「まぁ、なんとかなるよ〜」
フレムの楽観した発言に、少し苛立ちが湧く。
「そんな軽いノリで10カ国を旅するって……何年かかると……」
「まぁ、君ぐらいなら10年もかからないよ」
「どっからその自信が湧いてるんだ」
「私が言っているんだ」
「はぁ? “私が”って……フレムは何か凄い人……?」
「神だよ」
その一言に、キルノは思わず固まる。
「神……いや……。
あぁでも確かに、あのヤバそうなオーラ放ってたロイヤードって奴に“怪力”って言わしめたんだったな。
その体格だと普通はアレをどうこうできるはずがない」
「純粋な神ではないけどね」
「ん? 純粋な神?」
「そう。半分人間で半分神……“神人(しんじん)”が正解だね」
「純粋と何が違うんだ?」
「力の差かな。
私は“神の試練”を合格して神格化した元人間だ」
「神の試練?」
「私、頑張ったんだよ〜。
あの試練は努力と才能に加えて、発想力と単純な力も試されるんだから、ほんと大変」
「意外と努力型なんだな。さっき楽観的なこと言ってたのに」
「あと、私はこの国を支配している身だからね」
「え……じゃあ今は職務放棄……?」
「違う違う。今は休憩時間だよ。
それに支配してるって言っても、9割は賢者が色々やってくれてるから、こうやってサボ……休憩しても大丈夫なんだ」
「サボ……? フレム、お前……」
「そ、そんな目で見ないでよ!
ランダが仕事熱心なあまり、私の仕事を奪ったんだから!」
「それ大丈夫なのか? 過労しそうだけど」
「ランダは賢者だから疲れがないんだ」
「そ、そうか……」
この時はまだ、この世界への認識が甘かった。
この世界は、想像よりも深い闇を抱えていた。
───
【フォテムエンジェント本部】
エンジェントTOP・カーロ・ギネスティック(別名:支配者)
「無事帰ってきたのだな、ロイヤード、ヘルア」
ロイヤードは疲れ切った表情で立っていた。
「ロイは警察に連行されるところだったわ」
「……俺は誰よりも強いんだ」
その言葉に痺れを切らしたハゼリアが口を挟む。
「何回言うんだよ!じゃあなんでエンジェント8なんだぁ?強いならTOPか2だよなぁ?
お前、最下位だろうが」
エンジェント5・ハゼリア・インタルス(別名:陰湿者)
ハゼリアの生意気な発言に、ロイヤードの怒りは沸点に達する。
「おい、クソガキゴラ! 生意気言ってんじゃねぇぞ!!その気になれば、お前をワンパンできるんだぞ!!」
ロイヤードの怒鳴り声に、ハゼリアは淡々と返す。
「“その気になれば”って言ってるけどさ、
その気になること自体が無理だろ?
それに本当に強いなら、俺の煽りにも反応しねぇはずだろ〜?」
「もう争いは良い」
カーロが低く一喝する。
「今はここで争う時ではない。
ロイヤード、お前はギルド連合協会の交易長と信頼を築きに行け。
ハゼリアは悪国の賢者の件を引き続き進めろ。
ヘルアはクエリオン教会と“グラン”の交渉を頼んだぞ」
〜つづく〜
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