終わりゆく世界―1
空を覆う雲が日ごとに厚く、暗くなっていく。
灰色の空から落ちる雪は重たく、垂れこめる寒気が厳しさを増していく。
帽子のつばに積もった雪の重みと、かじかんだ指の痛みが『世界の終り』を僕に強く意識させる。
司祭さまや学者さまに領主さま。街の人々によれば数日後には、世界が終わってしまうらしい。
出口の見えない冬が寒さと薄暗さを深めるたびに、それは閉じゆく世界への実感を僕にもたらした。
僕はスコップを持って教会の
雪の下に埋まった草を掘り起こして、
僕らは一頭の一角獣を
それは病気の一角獣だった。透き通るような
そして病気が
この個体の仲間、角を持つ健康的な一角獣たちは街の人々によって
こかつ》しつつあった。
病気の一角獣は赤い血肉の
そいつは今、先住者が去った厩を一頭で独占している。
十分な量の草を掘り起こした僕は、横に
僕が露出させた深緑の草地には、早くも白い雪がうっすらと表面に積もり始めている。僕は厩へ一角獣を呼びに行った。
厩を覗くと一角獣は、一人の女の子にその弱弱しい白金の体毛を
女の子は僕と同様に教会へ身を寄せている一人だ。
彼女には他の人々にはない特異な能力をひとつ有していた。
それは『言葉』を扱うという能力。
僕も多少なら『言葉』を使うことができる。けれども彼女ほど
自在に言葉を扱える人間はこの街にはいなかった。彼女という例外を
女の子が厩の入り口に立つ僕に気が付いた。
「ごはんの時間だよ。行っておいで」
彼女が一角獣に『言葉』を使うと、そいつはのしのしと僕の方へ歩いてくる。
――こっちだよ。僕はそう言って獣を草地へ案内した。
うっすらと雪の被さった草を、一角獣はゆっくりと食みはじめた。
食事をするそいつの、血肉の
薄い紅色の液体が獣の額から流れ落ちた。
獣への餌やりを終えた僕らは教会の宿舎へと戻ってきた。
宿舎の中は雪の冷たさがレンガの壁から染み出して、その冷気にとっぷりと満たされている。
女の子は屋内にもかかわらず外套を羽織ったまま、寒さに体を震わせていた。
――火をつけようか? と、僕は女の子に提案した。
「いいよ、我慢する。これから寒さは増していくだろうし、燃料には限りがある。後に取っておこう」
僕は彼女の言葉を受け取った。そして『後』、つまりは世界の終りまでに残された日数と、薪の残りを頭の中で勘定した。
――きっと、もう使ってしまっても大丈夫。
僕は彼女にそう伝えてから着火剤で火を起こし、それを暖炉にいれた。それから薪をいくつかくべた。
暖炉の熱がじんわりと、宿舎に満ちた冷気を溶かした。
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