『K·night The Saga』

宮本 賢治

The First/デスゲーム 第1話

 『願い』


 誰にでも願いがある。

 切実な願い。

 ある条件をクリアすれば、

 その願いをかなえてくれる。

 そう言われれば、誰だって、努力するだろう。

 それこそ、死に物狂いで···


 チリン、チリン。チリン、チリン。

 金属製の手振りベルの音。

 軽やかで優しい音色。

 一定のリズムでベルは鳴る。

 深夜の公園。

 人影は無い。

 ポツン、ポツンと立った外灯が辺りを照らす。

 メタセコイアの並木道。

 高さ40メートルの巨木が並ぶ様は壮観だ。

 紅葉し始めた葉は、淡いオレンジ色からレンガ色へと色が濃くなりつつある。相対して並ぶ木から伸びた枝葉は、アーチとなり、自然のトンネルとなっている。

 手振りベルの音。その音に、惹かれたように現れた人影が2つ。並木道の端と、端から対峙するように歩み寄る。

 日中は並木道の端に落葉は片づけられているだろうが、日が落ちてしまえば、所かまわず葉は落ちている。まるで、オレンジ色の絨毯。

 履き古したアディダスカントリー。飴色のソールが葉を踏みしめる。

 対するは磨き上げられた革靴。プレーントゥのドレスシューズ。鏡面仕上げのピカピカ。ワックスのミツロウの香りがただよっている。

 カントリー、穴だらけのジーンズ、ネルシャツ、ダウンベスト。シルバーアッシュのウルフカット。

 リーガル、細身シルエットのダーバンのダークスーツ。セットされたジェントルショート。

 カントリー、リーガルが歩を止めた。 

 対峙する。

 カントリーが、ダウンベストの前を開けた。ネルシャツのスナップボタンを引きちぎるように開いた。盛り上がった厚い胸板、厚手の生地の白いタンクトップ、乳首が隆起していた。ジーンズの股間も膨らんでいる。明らかに、今のこの状況に性的な興奮をしていた。30歳前後の精力的な顔をした男。しかも、勃起している。

「さあ、やろうぜ!

おまえで37 人目だ!!」

 カントリーが乱暴に言い放つ、それにリーガルの右眉がピクッと反応した。

「···ぼくは、きみで11 人目」

 リーガルはつぶやくように言った。

 筋肉質な体型のカントリーに対し、リーガルは細身で華奢だった。20代前半くらいの若い男。シルバーフレームのメガネをかけている。縁が上のみのブロータイプ。この手のデザインは普通、目力が強調されたりと、強いイメージを受ける。しかし、若い男のやわらかな顔立ちからは、逆に知性的なイメージを受け、インテリの雰囲気が強調されている。

 そして、2人は目をつむった。

 眉間にシワを寄せ、意識を集中させる。

 2人の体。それぞれが突然発生した黒い球体に包まれた。

 黒い球体、完全な漆黒の闇。

 黒い球体は恐ろしい速さで回転を始めた。

 そして、回転しながら、ゴム風船の空気が抜けていくように縮んでいく。

 球体はピンポン球くらいに小さくなった。

 ズンッ!

 大きな音をたてて、球体が元の大きさに膨張した。

 球体の質量に潰されて、地面が大きくへこんだ。

 球体がスッと消えた。

 黒い2つの人影が現れた。

 黒いエナメル素材のような全身スーツに身を包んだ、得体の知れない怪人が立っていた。

 黒いヘルメットには鳥のくちばしを思わせるバイザー。顔をすっぽりと隠している。まるでその姿はガッチャマン。

 両腕と両脚に薄いプロテクター。股間にはビキニパンツのような物を履いている。プロテクターとビキニパンツは硬質の装甲のように見える。

 カントリーは、より筋肉質な体型が強調されている。

 細身だったリーガルは、黒い怪人に姿を変えると、その体はビルドアップしているように見えた。

 2人の怪人。

 変身ヒーローのように姿を変えた。

 文字通り変身した。

 変身した怪人の名前。

 それは、『ナイト』


 第2話へ続く

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