第14話 皐月
「……奏さん、良かったんですか?あの人置いて来て」
皐月はバイクを走らせながら後ろに乗る奏にそう問うが、奏の表情は少しも変わらなかった。
「アイツは私の手に余る程優秀だ。早く私を忘れて成果を立てるべきなのでね」
「……優しいんですね」
「ふむ。そう捉える事もできるな」
楽しそうに会話している横で、隣のバイクでは言い争いが止まらなかった。
「何ですか3時間までならとは。私3時間貴方達の百合行為を見せられただけなのですが」
「すれば分かる。気持ちいい」
「ご遠慮します。と言うか、そう言う問題ではありません。私を待たせた事が問題なんです」
「あー、アイさん?何をすれば許してくれる?」
皐月がそう言うと、アイは少し静かになる。どうやら、自分より少し小さい子が好きらしい。情報元は龍二だ。
「……奏さん。皐月さんを男にできますか?」
「アイサンナニイッテルノ」
「できる。ただ、メリットは何かな?」
アイは顔を赤くして恥ずかしそうにしているが、その言葉を口にする。
「……私、俗に言うショタコンなので。美月さんも見たくないですか?小さい皐月君を」
「…………ごめんママ、皐月。丸め込まれた」
「お前は少し抵抗をしろ。奏さん。断って……」
「……ふむ。丁度性転換の新薬が開発出来そうなのでな。付き合うとしよう」
「…………」
今回の遠征では奏の資源や薬品等、そして皐月のショタ化が決定されたのであった。そうして、早速今夜にも皐月は男の子に……とはならなかった。
その日の夜、奏の部屋にて。
「……奏さん。これは…………」
「ふむ。俗に言うふた**、だな」
「皐月君?皐月ちゃん?両方?」
「……殺してくれ」
皐月が薬を飲むと、少し若返ったが性別は変わらず、その代わり男ソレが生えた。下の毛も生えていない。そしてアイの目は鋭く光っている。
「……有り、ですね。頂きます」
「ちょ、アイさん?何故服を……」
「すみません、少し皐月さんをお借りします」
連れて行かれた部屋からは皐月の助けを求める声が聞こえて来たが、奏と美月はそれを無視しておいた。2人が部屋から出て来たのは1時間と少し経った後だった。
「…………もうやだ……」
「……すみません。少しサカってしまいました」
アイは既に大きくなった皐月の頭を撫でながら謝ってくるが、皐月はその手を払い除ける。
「私はもう子供じゃねぇ!」
「……これは失礼しました」
瞬は少し照れている皐月に抱き着きに行き、その光景に忍と楓はクスクスと笑っている。
「おい笑うな!」
「……いや、皐月さんも、一応、まだ高校生ですし……ママに甘えても……一応、アイさんはママに近い年齢ですもんね……ぷ」
「そ、そーだよ。別に恥ずかしい事じゃ……ぶふっ」
「皐月さん。もう1回小さくなってください。今度は私が愛でます」
「お前はまだ中学生くらいだろうが!ガキに世話される事にはぜっっっっったいにならねぇ!」
そう言うと瞬は少ししょんぼりしてしまったが、こればかりは仕方が無い。もうあんなのは二度とゴメンだ。何せ、思い出せもしない事を思い出してしまいそうで仕方が無い。
「……とにかく、私はもう小さくはならない。絶対にだ」
そうして、リビングを出て行った。少し外の空気を吸いたくなったので玄関の扉を開けて外に出る。
するとそこには、美月が居た。美月は皐月を見ると、手をヒラヒラと振っていた。
「お疲れ様」
「あぁ全くな。ったく、私の事を何も考えちゃいねぇ」
「仕方が無い。皆、知らない」
「……そうだよな。親が居ないなんて知ってるのは、3人だけだからな。無理もないか」
そう言って皐月は美月の手に自身の手を絡ませる。
「私達だけの秘密……格好良いだろ?」
「……皐月、少し変わった。強くなった」
美月は皐月の顔に手を添え、皐月の全身を舐め回す様に見る。その行為に皐月は何の抵抗もせず、ただ綺麗な星空を眺めていた。
「でもそのせいで、何か、色んな事を我慢してる」
「……何言ってんだ。伸び伸びと生きてるよ」
「我慢してる。私には分かる。皐月は私に嘘をつけない。今も目線を下に40度傾けてる。これは嘘をつく時に93%の確率でやってる」
「……まぁ、嘘はつけない、か」
「我慢は体に、精神に悪い。吐き出すべき」
その美月の言葉に緊張が途切れたのか、皐月は顔を歪ませて美月に抱き着く。
「……………私だって、甘えたいんだよ……でも、親なんか居ない!本当の親なんて知らない!本当の愛なんて物も知らない!勿論奏さんと美月の愛は感じた!凄く幸せだった!……だけど……だけど!……私だって、普通に生きたかった!普通に生まれて!普通に育って!普通に親の愛情を受けて!普通に学校を卒業して!普通に仕事して!普通に死にたかった!」
「……」
「…………普通って、何?……これが普通なのかな……それとも、私が居るからみんな普通じゃ無くなっちゃうのかな……?奏さんも、美月も、普通じゃ無くなっちゃったよね?私のせいで……私が、居たから……ね、そうでしょ?」
涙で赤くなった目が美月に訴えかける。美月は身を寄せてくる皐月を少しだけ離し、目を真っ直ぐ見る。
「皐月の言う通り、私達は少し普通じゃない……だけど、その特殊な環境を苦痛に思った事は一度も無い。その特殊は、むしろ幸せ。皐月が拾われなかったら、私は存在しなかった。例え皐月のせいだとしても、私は今、貴方と過ごせて幸せ。嬉しい。楽しい。なら、この普通じゃない生活も幸せ。でしょ?」
「……でも、私のせいで、美月は苦しい思い、沢山してる……私が勝手に行動して人を増やして、美月の邪魔ばっかり……奏さんだって、私のせいで、好きな事も辞めて、皆から追われて……」
「……ふむ。そう言われるのは心外だな」
急にこの場の2人以外の声がした。その方を向けば、奏が立っていた。
「追われているのは皐月のせいでは無い。これは私自身が選んだ道だ。私の道を君の存在程度で崩せる物か。それに私は稀代の天才だぞ?むしろ今の生活の方が楽だ。故に、君の一存で私の状態を決めつけるのは辞めたまえ。癪だ」
それだけ言って奏は家に入って行った。が、振り返る瞬間、少しだけ悔しそうな顔をしていた。美月にはその感情が理解できていた。
美月はもう一度皐月を真っ直ぐ見る。
「……私達は、皐月を家族みたいに愛してる。それが目に見えなくても、本当の意味で感じられなくても、一緒に居てくれればそれだけでいい。それだけで、私達は幸せ。皐月も、少しずつでいいから私達に甘えて欲しい。いつもの一線引いて自分を隠してる皐月もいいけど、我慢はしないで。奏も私も、いつでも受け入れてあげる」
美月が皐月を強く抱き締めれば、それに締め出されるかの様に皐月からは涙と泣き声が聞こえて来る。美月はそれが止むまで抱き締め続けると、皐月は10分も経たない内に泣き止んだ。
「……我慢、しなくていいんだよね?」
「勿論」
「………犯して。優しく、ぐちゃぐちゃに」
「分かった。トぶまで優しく、ね」
そうして、美月はいつもより少しだけ優しく皐月と野外行為に励んだ。奏が迎えに行ったのは、丁度皐月の意識が途切れた4時間後の時であった。
「……ママ。皐月、耐えきれなくて泣いてた」
「言われなくても分かっている。……皐月が美月に犯されるのを自ら望むとは……初めてではないかい?」
「別に初めてじゃない。けど、皐月が弱くなった時にだけ言われる」
「……ふむ。興味深い話だ。……外は冷える。中に入れてやれ」
「分かってる」
そうして美月は皐月を寝室に運び、優しく寝かせる。美月が奏について行こうとして立ち上がった時、皐月に服の裾を掴まれる。
「……いか、ない、で……ひ、とり、は、や、だ……い、かない、で……」
瞑っている筈の目からは涙が零れ、裾を掴む力は次第に強くなっていく。美月はベッドの横に座って皐月の頭を撫でれば、その寝言と裾を掴む力は無くなった。
美月はそっと皐月の元を離れ、何かを決心したかの様に廊下で壁を背もたれに寄りかかっていた奏の前に立つ。
「……ママ、話して」
「……美月は流石に気付いたか。蓮叶の記憶……は無いだろうが……参考までに、どこで気付いたんだい?」
奏は月明かりが反射する眼鏡を弄りながら少し笑った。そして美月は、俯きながら話す。
「捨てられてから1ヶ月。状況整理の産物。……こんな事で皐月には、心配させたくない。でも、もう皐月は壊れかけてる。仮初とは言え、家族を経験してしまったから。だから、今、貴方に話してる」
「……違和感を追求した結果、か。その結論を出してから私と会うのはさぞ辛かっただろう」
「私は許してない。港で会った時も、皐月が良いって言ったから許した。これまでも、皐月が貴方を許してたから私は許してた。でも私自身は、貴方を信じてない」
美月は前を向き直し、奏の首に手刀を突き付ける。
「話して。皐月と私の、お母さん」
「……分かった。皐月もこの状態だ。明日、全てを話すとしよう」
「…………ありがとう」
そうして奏は自身の研究部屋に戻って行った。美月も、寝室で眠る皐月の横で眠りに着いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます