第2話

瀬川萌愛璃。


一発でこの名前を正しく読めた人には出会ったことがない。


せがわめあり。


本好きな両親の一番好きな童話。

「秘密の花園」の主人公、メアリー・レノックスからとられた名前だ。

正直、気に入ってなんかいない。読みにくいし、いわゆるキラキラネームだし、由来である秘密の花園のメアリーはいくら物語の終わりまでに成長したとしても、わがままな女の子であった事には変わりない。おまけに画数も多くて、テストの時にはうんざりする。

 そんなことを考えながら寒空の下駅まで10分間黙々とチャリを漕ぐ。自転車のことをチャリと呼ぶのはパパが呼んでいたのがうつったからだろう。

いや、単に私が真似しているだけだ。

最寄りの紅葉ヶ丘駅までは歩いて30分ほどかかるので少し駐輪が面倒ではあるが毎朝チャリをとばす。将来絶対に駅近に住もうと心に決めている。どんな狭い家でもいいから、とにかく駅近に住みたいのだ。汚いのはごめんだけど。

かじかむ手でなんとか駐輪を済ませ、イヤホンをつけながら小走りで駅のホームへと向かう。

今日はブルーノ・マーズのcount on me

からスタートだ。

最近ブームが再来してよく聴く曲の中の1つだ。

 お目当ての当駅始発の電車が来るまであと5分。これくらいに並べれば座れるだろう。

紅葉ヶ丘は大きめのショッピングモールが隣接している為、何本かに一本、紅葉ヶ丘始発の電車があるのだ。どうしても電車で座りたい私はその一本を逃さぬよう家を出る。

寝坊してその一本を逃すと、満員電車に潰されながら通学しなければならない。座れた日はラッキーだ。

また、学校までは電車一本なので、とても楽である。中学受験をして入った中高一貫校の女子校で、母の母校でもある。小学生の時の私は正直自分の受験に興味なんてなかったので家から近ければどこでもよかった。

ただ、女子校に行くと恋なんて全くできないし、女子力が上がると思いきや下がる一方なので共学の可愛い子達を見ると少しばかり羨ましくなったりもする。

それに、中学高校の6年間を一緒に同じ友人と過ごせるというのはとても素晴らしいと思う。共に時間を過ごすだけ、絆が深まるというのはその通りである。

そう心から思っていた。



あの日までは。



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