『Fランク探索者の俺、実は「運」ステータスがマイナス限界突破していたので、ダンジョンの魔物が勝手に自滅していきます ~配信切り忘れで、世界中が「これ全部ヤラセだろ!?」と大炎上~』
第21話 海上で極大魔法を誤爆したら、海が一瞬で熱湯になり「巨大ボイルイカ」が完成した
第21話 海上で極大魔法を誤爆したら、海が一瞬で熱湯になり「巨大ボイルイカ」が完成した
「ひぃぃぃぃ! 追ってくる! あいつしつこすぎるだろぉおおお!!」
俺の絶叫が、水しぶきと轟音にかき消される。
俺たちが乗った小型ボートは、まるで木の葉のように波間に揉まれていた。
背後には、海面を割り、天を突くほどの巨体を誇る『グランド・クラーケン』が迫っている。その姿は、まさに動く悪夢だ。
バシャァァァンッ!!!
極太の触手が一本、ボートのすぐ右側に叩きつけられた。
衝撃で船体が跳ね上がり、俺の体は宙に浮いた。
「師匠! しっかり掴まっていてください!」
操縦桿を握るレイナが、Sランクの体幹で揺れに耐えながら叫ぶ。
彼女の操船技術は神懸かっていた。迫りくる触手の雨を、波のタイミングに合わせてギリギリで回避し続けている。
だが、相手は海の王だ。徐々に追い詰められつつあった。
「ブモォォォォ……!」
クラーケンが赤黒い体表を脈打たせ、無数の触手を網のように広げた。
包囲網だ。逃げ場がない。
「くそっ、万事休すか……!」
俺が歯を食いしばった、その時。
船首で仁王立ちしていた(というか揺れで立てずに手すりにしがみついていた)エルザが、キッとメガネのない目を細めた。
「逃げてばかりではジリ貧です! 師匠、反撃しましょう!」
「はぁ!? 無理言うな! 俺の武器はスコップしかないんだぞ!」
「私がやります! 今夜のオカズは『焼きイカ』です!」
エルザは言うや否や、片手を離して杖を構えた。
この激しい揺れの中で詠唱を始めるつもりか!?
「やめろエルザ! お前の命中精度で、こんな揺れる船上から当たるわけがない!」
「大丈夫です! 敵は大きいんですから、適当に撃っても当たります!」
「その『適当』が怖いんだよ!」
俺の静止も虚しく、エルザの杖先に禍々しいほどの紅蓮の魔力が収束し始めた。
周囲の空気が熱で歪み、海水がジウジウと蒸発する音が聞こえる。
本気だ。このエルフ、船ごと海を蒸発させる気だ。
「我が名はエルザ! 深淵より来たりし業火よ、我が敵を灰燼(かいじん)と化せ!」
《 プロミネンス・バースト・ノヴァ(極大紅蓮爆砕陣) 》
とんでもない名前の魔法が完成しようとしていた。
だが、俺の『不運』は、ここで最悪の形で発動する。
ドンッ!!
波の衝撃で、ボートが大きく傾いた。
さらに、俺がバランスを崩してよろめいた足が、デッキに置いてあった『BBQ用の着火剤入りオイル缶(業務スーパーで購入)を蹴り飛ばしてしまったのだ。
「あっ」
オイル缶は宙を舞い、ちょうどバランスを崩して仰け反ったエルザの足元へ。
エルザはオイル缶を踏みつけ――
「あべしっ!?」
マンガのように見事にスリップした。
彼女の体が海面に向かってダイブする。
そして、発射寸前だった杖の銃口(?)が、空中のクラーケンではなく、俺たちの真下の海面に向けられた。
「うわあああ! 下だ! 下に撃つなぁああああ!!」
俺の叫びと共に、圧縮された極大魔法がゼロ距離で海中に放たれた。
ズドオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!!
閃光。
そして、鼓膜が破れそうな爆発音。
魔法の直撃を受けた海水は、一瞬で沸点を超え、水蒸気爆発を引き起こした。
さらに悪いことに、俺が蹴り飛ばした大量の『着火剤オイル』も一緒に引火し、海面は文字通りの火の海と化した。
「あちちちちちち!? 熱い! 蒸し焼きになるぅぅぅ!」
俺たちは爆風でボートごと空高く吹き飛ばされた。
空中で回転しながら、俺は見た。
眼下の海が、真っ赤に煮えたぎる「地獄の釜」に変わっている光景を。
「ブ、ブモォォォォォォォォォォ!?!?!?」
クラーケンの断末魔が響き渡る。
逃げ場のない海中で、超高温の熱湯と水蒸気に包まれた巨大イカは、触手の一本一本まで瞬時に熱を通され――
赤黒かった体色が、見る見るうちに鮮やかな「美味しそうな赤色」へと変色していく。
◇
数分後。
奇跡的に(不運回避スキルで着水時の衝撃だけ無効化されて)砂浜に打ち上げられた俺たちは、呆然と海を眺めていた。
「……なんだこれ」
目の前の海面には、もう魔物の気配はない。
代わりに、プカリ、プカリと浮かんでいるのは、綺麗に茹で上がった巨大なクラーケンの死骸だった。
辺り一面に、食欲をそそる醤油のような香ばしい匂いと、茹でイカの匂いが充満している。
「……やりすぎだろ」
俺がツッコミを入れると、隣でずぶ濡れになったレイナが、真剣な表情でメガネ(サングラス)の位置を直した。
「……恐れ入りました、師匠」
「はい?」
「クラーケンの皮膚は、物理攻撃や魔法を弾く『ヌメリ』で守られています。しかし、貴方はあえて魔法を海中に撃ち込むことで『水蒸気爆発』を起こし、その熱エネルギーでヌメリごと内部を熱変性させて倒した……」
レイナは感動に打ち震えている。
「しかも、着火剤を撒くことで火力を底上げし、調理(・・)まで済ませてしまうなんて。戦闘と食材確保を同時に行う、究極の合理性……!」
「いや、ただの事故だから! オイル缶蹴飛ばしただけだから!」
だが、そんな俺の言い訳を聞く者はいない。
エルザが「紐水着」を直しながら、茹で上がったクラーケンを見てヨダレを垂らしている。
「師匠! 見てください! 完璧な茹で加減です! さすが私と師匠の愛の共同作業ですね!」
「愛とか言うな。テロだろこれ」
そして、ポチ(犬モード)がプルプルと体を振って水を飛ばし、嬉しそうに吠えた。
「ワンッ!(でかしたぞ主よ! これなら百人前はあるな!)」
ポチが海に飛び込み、巨大な触手の一本を咥えて砂浜まで引っ張ってきた。
太さだけで丸太ほどある触手だ。
ナイフを入れると、プリッとした断面から湯気が立ち上る。
「……まあ、いいか」
俺は諦めた。
敵は倒した。命も助かった。食材も手に入った。
海が生態系ごと死滅した気がするが、ダンジョンだから明日にはリセットされるだろう。
「よし、BBQにするか」
「「「わーい!!」」」
こうして俺たちは、リゾートの砂浜で、前代未聞の『巨大クラーケン解体ショー & 食べ放題BBQ』を開催することになった。
その様子が、遠くから見ていた他の観光客に撮影され、SNSで「海を沸騰させてイカを茹でたバカがいる」と拡散されていることなど知らずに。
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