第2話
絵夢は幼い頃からテレビの中で煌びやかに歌い踊るアイドルに憧れを抱いていた。
そして、いつか自分もあの世界でスターになれたら、と心密かに思い描いていた。
絵夢の気持の根底には苦労している祖父母への恩返しがある。
祖父母とも同い歳の65歳である。祖父は二人の孫を養育する為 定年退職した会社の伝手を頼って自宅から徒歩30分程のスーパーマーケットで、雑用係として働く様になった。祖母は孫を引き取るまで働いていた水産加工工場を辞めた。
父は、2年程仕送りをしてくれていた様だが赴任した先で知り合った若い女性と暮らす様になると疎らになり、子供ができるとパッタリ止まった様だ。それでも一応 数年は盆正月には此処 静岡県焼津市の実家に帰って来ていたが、二人の子供は全く懐かず無視されることで自然と足は遠のいていった。絵夢が父の姿を見かけたのは小学3年生のお正月が最後だった。
秘密にしているが絵夢にはもう2人苦手な人がいる。
祖父の妹と父の姉である。祖父の妹は静岡市内で居酒屋を経営している為 最近は忙しさで滅多に顔を出す事もなくなってホッとしているが、父の姉の方は遠方に嫁いでいたのが離婚して 二人の息子を連れて実家近くに越してきたのである。
姉は早くに結婚し、最初に子供を産んだのはまだ18歳の時だった。姉の子供たちとはいとこ関係だが、歳の差もあり叔母に似て行動が粗暴だった事で祖父母の苦労は絶えなかった。兄弟揃って警察沙汰の事件を起こす事もあり その度に父の姉は祖父母に泣きつき無心を繰り返していた。そのくせ、絵夢と兄には時折りやって来ては
口うるさく指図するので兄妹は、特に、絵夢はこの叔母が大嫌いだった。
絵夢が中学一年生に進学したある日曜日の午後、ぼんやり観ていたテレビで学校内で話題になっていた公開オーディション番組の出場者募集のテロップが目に飛び込んできた。 絵夢はだらしなく投げ出していた身体を瞬時に起こし目を皿にして画面上に流れる情報を夢中でメモした。
しかし、番組が終わって少しずつ冷静になってみると これは掴みどころのない無謀なチャレンジではないかと思い始める。
万が一書類選考が通ったとしても……それからどうする? ここは静岡だ。
一次選考、二次、三次まであったら? 東京までの旅費はどうする?
それには祖父母の援助が欠かせない。祖父は、ただでさえ兄の高校進学に係る教育費を賄う為必死に働いてくれている。いつでも、自分のものより孫を最優先してくれている祖母に何と言ったらいいだろうか……
絵夢は何日も思い悩んだ末、思い切って兄に打ち明けた。 だが、高校受験一筋だった兄は鼻白んだ顔で 「いいねえ お気楽で、俺は絶対この受験に勝たなきゃならないんだ。祖父ちゃん祖母ちゃんに心配かけたくないからね」
心配と云う言葉の中には勿論資金繰りが入っていると絵夢は理解している。
こうなると祖父母には余計言いずらくなってしまった。
こうして何日もモヤモヤした気持ちのまま過ごしていたが埒が明かず 仲の良かった級友にあくまでも冗談を装いながらボソボソ打ち明けた。 しかし、絵夢の話しは本気だと見抜いた級友は さりげなく、いやに大人びた口調でこう言って絵夢の背中を押したのである。
「おとぎ話みたいだね。でも、あとから後悔しない様にやれるだけやってみなよ」
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