深夜13番街の扉を開けると

黒野なお

第1話

「ガチャ!」

けい君がそろばん塾に到着して、中に入ろうとすると、目の前でドアに鍵がかかりました。

今日は検定試験の日です。

けい君は、4時半から開始の検定試験に間に合うように家を出ました。

「え!?」

けい君は驚き、窓から教室を覗くとみんな必死に問題に取り組んでいます。

検定試験は始まってしまったのです。

ドキドキドキドキ…

けい君の心臓の鼓動が早くなり、手のひらやおでこに汗が噴き出してきました。

どうして?時間には間に合ったはずなのに…


この日の為に、けい君はそろばんの練習を頑張ってきました。

それなのに、教室に入れず、試験を受けることができません。

どうして良いか分からず、けい君は教室の前でただただ立ち尽くしていました。


お家に帰ることもできません。

だって、お母さんになんて説明したら…

お父さんが帰ってきたら、こっぴどく叱られるに決まっています。


この前だって、宿題の提出期限を間違えちゃったとき、叱られたんだ…

そんなことを考えているうちに、けい君の目に涙があふれてきました。

教室の外のベンチに座ってうなだれていると、ガチャッと教室のドアが開いて、

「今日は結構できた!」

「2問解く時間がなくて間に合わなかった…」

それぞれが試験の感想を口にしながら、ぞろぞろと試験が終わった生徒たちが出てきました。

すると、ベンチに座っているけい君に気付いたお友達が、けい君の表情を見て驚いた様子で「あれ?どうしたの?」と声をかけてくれましたが、けい君は返事をすることができませんでした。

時間に間に合わなくて試験を受けられず、泣いていたなんて恥ずかしかったのです。

お友達は、しばらく心配そうにけい君のそばにいましたが、お母さんがお迎えに来たので、「けい君、またね!」と帰っていきました。


検定試験の開始時間は4時30分で間違っていませんでしたが、始まる10分前には席に着き、4時30分には開始することになっていたのを、けい君はすっかり忘れてしまっていたのです。

ベンチで座って泣いているときに思い出しました。

いつまでもここにいるわけにはいきません。

重い足取りで、これからお母さんとお父さんになんて言おうかと考えながら、トボトボとお家に向かって歩き出しました。

「あぁ、試験に間に合わなくて受けられなかったなんて言ったら、絶対に怒られる。できなかったって言おうかな…」

いろんな言い訳が頭の中をぐるぐると駆け巡っています。


考え事をしながら歩いていると、いつもの曲がり角を通り越し、進み過ぎてしまいました。

ハッと気づいてまた道を戻ります。

「どうして僕はこんなにしょっちゅう間違えてしまうんだ…ダメな奴だ…」

けい君は憂鬱な気持ちで、道に落ちている小さな小石を靴の先で転がしながら帰りました。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る