1-4. 人間と内通している魔族がいることを、相互フォローの魔王に教えてあげる
俺は、さびれた町の景色を見ながら、深呼吸。
さて。店主に圧をかけたのには理由がある。
俺は別に誰彼構わずに牙をむくような狂犬ではない。
「あの店主が、気絶していた俺を放置したのは分かる。面倒ごとに関わりたくないのだろう。だが、明らかに不審な点がある」
俺は革袋を小さく振り、重さを再確認する。
「メイが革袋を投げたときは、ゴトンッと大きい音が鳴った。だが、これは軽い。中身をすり替えられた可能性がある」
俺は狂犬ではないが、自分への悪意を見逃すほど、鼻は鈍っていない。
報復するしかないな。
「『
俺は『おすすめユーザー』一覧の中からボッグ@宿屋店主という文字を見つけたので、それをタップする。
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■ボッグ@宿屋店主 18分
(きひひっ。
あのガキが床に放り投げていった革袋の中には金が入っているんだよな?)
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■ボッグ@宿屋店主 17分
(思ったとおり。銀貨がたっぷり。
これは俺がいただいておくぜ。
代わりに石を入れておいてもバレないだろう。
このガキは追放されたんだし、
女たちに嫌がらせをされたと思いこむだろう。
きひひっ……)
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■ボッグ@宿屋店主 2分
「きひひ。行ってらっしゃいませ……」
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■ボッグ@宿屋店主 2分
「ひいっ! い、行ってらっしゃいませ!」
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■ボッグ@宿屋店主 1分
(目つきの悪いガキだな!
歳は、14か15か?
追放されたくせにいきがってんじゃねえぞ!)
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■ボッグ@宿屋店主 今
(いつまで俺の宿の前に立ってんだよ。あのカス!
だせえ髪型しやがって。どうせ自分のナイフで切っただけだろ。
ジャルガンの野郎に頼んで殺してもらうか?
そうだ。
魔族に差しだす娘を用意できなかったのは、
こいつのせいにしてやる!)
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俺は声には出さなかったが、眉毛がピクリと動く程度には怒りが表情に表れただろう。
「あの、きひひ骸骨じじい……。……ぶちのめすか」
(力を貸してやろう)
(力が欲しいか? くれてやる)
(我が名を呼べ……)
(さあ、光の力に目覚めるのです。アレルよ)
超越者同士では精神防壁があるから、会話できないらしい。
そのため、あいつらの脳内通話は、ただの人間に過ぎない俺に集中する。
つまり、うざい。
「きひひ骸骨じじいをぶちのめすだけなのに、超越者の力なんて借りる必要ないだろ……。……ん?」
北の上空に黒い点を発見。何かの群れが飛んでいる。綺麗な隊列を組んでいるとは言いがたい。
俺は宿の横に隠れる。
「建物が邪魔で、接近に気づくのが遅れた。なんだ、あれは。上空100メートル、距離は200くらいか。翼の生えた人型をしているように見える。魔族か?」
俺の本業は羊飼いなので、定期的に遠くの空を見る癖がついている。
鳥がどう飛んでいるのかを見れば、ある程度の危険を予知できるからだ。
俺は右手の親指と人差し指で輪を作り、その狭い穴を右目で覗く。
「魔族の勢力圏から真っ直ぐ向かってきている。間違いない。魔族だ。アレがきひひ骸骨じじいの言っていたジャルガン?」
俺はスキルを使用し、知りあいリストから、ヴォルグルーエル@
こいつがいわゆる、俺たち人類にとって倒すべき最大の敵だ(国教でそう教えられている)。俺はこいつの勢力を削ぐための魔族討伐の旅、通称『聖戦』に参加している途中だ。
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■自分
ちょっといいか?
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■ヴォルグルーエル@
くくくっ……。
どうした?
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■自分
人間と内通している魔族はいるか?
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■ヴォルグルーエル@
くくくっ……。
我のことか?
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■自分
お前以外で
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■ヴォルグルーエル@
くくくっ……。
知らん
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■自分
無理してくくくっ……て言わなくてもいいんだぞ
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■ヴォルグルーエル@
そうか。流行の挨拶かと思ったぞ
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■自分
ジャルガンって魔族、ぶちのめしてもいい?
お前と仲いいやつ?
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■ヴォルグルーエル@
我が魔族からも恐れられていて、
仲のいいやつがいないこと知ってて煽ってる?
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■自分
くくくっ……。
すまん。
とりあえず、ぶちのめしていいってことが分かればじゅうぶんだ。
ありがとうな
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■ヴォルグルーエル@
待て。
部下に調べさせた
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■自分
お前……。
会話してくれる部下、いたんだ……
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■ヴォルグルーエル@
マジで煽ってきてるな、お前ー。
我にだって、命令どおり動く部下くらいいるぞ。
魔法制御のゴーレムとか
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■自分
……お、おう
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■ヴォルグルーエル@
ジャルガンとかいう魔族のレベルは41だ。
人間基準だとかなり強いだろ?
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■自分
40越えなんて、人間界でも名前が知れ渡るレベルだ。
そんな上級魔族が人間との取り引きに来る?
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■ヴォルグルーエル@
勝てそうになかったら我を呼べ。
魔王降臨してやんよ
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■自分
やめろ。人間世界が混乱に陥る。
魔王城で引きこもってろ
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■ヴォルグルーエル@
くくくっ。
よかろう。お前が来るのを楽しみにして待っててやる
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よし。魔族殺しの許可はもらえた。
相手は格上だ。工夫してボコろう。
だが、宿屋は犯罪者とはいえ、そう簡単にボコれない理由がある
聖者や勇者の行動は、聖戦監視官と呼ばれる役人に監視されている。そいつに見られると面倒になるためだ。
なぜ監視しているのかというと、一部の勇者たちが聖戦という名目で略奪行為をするためだ。お行儀の悪い勇者たちは行く先々で民家のタンスをあさったり壺を割ったり宝箱の中身を盗んだりする。
勇者や聖者は『教会から』任命されて聖戦に参加している。そいつらが悪さする可能性があるから『国が』聖戦監視官を派遣している。
聖戦監視官、つまり国の役人に見られること前提で、合法的に宿屋をぶちのめす必要がある。
◆ 次回予告
魔族をぶちのめしつつ、宿屋のじじいにも痛い目を見てもらいたいが、どうしたものか……。
次回『自業自得! 宿屋の悪徳店主、魔族に惨殺される』にご期待ください。
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