その翡翠き彷徨い【第７４話 呼び声】

第1話

　エデン大陸東部の大国【ザイウォン】。

　大陸最大の大聖堂を持ち、エデン聖教の主要宗教都市として栄えた王国である。

　信心深い人々の集うこの街は昼夜問わず賛美歌が響き【歌う街】とも呼ばれた。

　その信仰に満ちた首都ザイウォンより少し街を離れた街道の一画に、朽ち果てた大きな屋敷があった。

　これは中世の時代に貴族が住んだという屋敷だが、歴史に残るような凄惨な殺人事件が起こり、住んでいた一家が皆殺しになったという記録が残っている。

　その上当初から取り壊そうとされていたのだが、取り壊そうと中に入った人間が幾度も死亡事故に見舞われたりするうちに、敬遠され誰も近づかなくなり歴史の中で取り残されたのだという。

　人間の死と、血と、絶望と。

　それが、元々は戯れのように施された取るに足りない簡単な闇の魔術と結びつき長い時を経て恐るべき闇の領域を生み出した。

　今は信仰の側にあっても一際異質な空気を纏いその地に在る。

【黒薔薇の館】。

　いつしかその地はそんな風に呼ばれるようになった。