第50話 暇つぶし2

 馬車の中を揺らす驚きに、何よりバンリさんが一番ドン引きしている。カイトは全員の顔を見回して苦笑した。

「皆さん何か勘違いしてるようですが……。バンリさん、貴女はこの国に来て顔をじろじろと見られることが多いのでは?」

 カイトはバンリさんの可愛い顔をじっと睨むように見る。確かに一緒に外を回ると、たまにぎょっと驚かれることがある。


「ありますが……それはあれでしょう?私が八尾望さんに顔が似ているからでしょう?」

 心当たりがあるのか、バンリさんの言うことにカイトはご名答と顔に浮かべてにやりと笑う。

「そう。僕の母の若い頃にそっくりらしい。たしかに面影がある。今の母は四十半ばですが……。この国に来たころの八尾望を知っている他人は貴方を見れば思い出すでしょう」

「はい……。それと身内になることに何か関係が?」

「母が、貴女を養子ということにすればいいのでは?と提案して来まして。故郷に残してきた娘が訪ねて来たので、と」

「ああ、なるほど。そういう感じで身内に……」

 結婚じゃなかった!!安心して俺達は息を吐く。更にカイトはたまに見せる意地悪な笑顔をバンリさんに向けた。

「結婚がよかったので?」

「いえ、お断りします」

「はは、僕もですよ」

「うふふ」

「ははは」

 あまり笑えない感じの笑いを交わすので馬車の中はみんな無言になってしまった。


「そう、母は今多忙なのですが近日中に時間を作って貴女に会いたいそうです。こっそり屋敷に行くのではと思います。あのひとは王宮を抜け出す癖があるので」

 カイトが真顔に戻る。つられてバンリさんも笑むのをやめて頷いた。

「私も八尾望さんのおかげで色々と助かったので、会いたいです。それにしても、私達も分からないのですが……本当に偶然会ったのに私達顔が似てるんですよね」

「母もそう言っていました。まあ、貴女も長生きされているのなら近親者の子孫などかも知れませんね」

「それはありえますね……」

 なるほど、と俺達が言っている間に農園に近づいたらしい。馬車の速度は急に落ち、密林はいつの間にか抜けていた。



「ここです。この近くに魔獣が住み着いているので駆逐を手伝ってもらいたい。夜になると現れるので、少しそこの小屋で時間を潰しましょう」

 広く開拓された農園は、この土地の名産の果物や野菜が見渡す限り豊作の時期を迎えているはずだった。が、たしかに一部、明らかに荒らされた跡がある。

「おそらく大型の猪系の魔獣でしょう。まあ、なんとかなるでしょう、貴女たちなら」

 カイトは他人事のように言う。小屋に入ると、そこそこきれいに整えられていて台所もあるし、ソファも三人がけがふたつある。奥の部屋には仮眠用のベッドもある。寝ずの番をするときはここに寝泊まりしているのだろう。



「まだ時間かかるならさ〜おやつ食べようよ」

「そうですね」

 ミクさんがソファに座るバンリさんの膝に飛び乗っておねだりする。ごそごそと、おなじみの闇の皮袋が取り出される。

「それはなんですか?それに食料が?」

「ええ、これの中に闇魔法でたくさん何でも入れられるんです」

 カイトが興味深そうに覗き込むが、誰が覗いてもそこは基本的には深淵の闇しかない。バンリさんが手を入れると、ミクさんの部屋から先日持ってきたニホンのおやつがぽいぽいと取り出された。

「ほう。これは便利ですね。そしてこれは日本語ですね」

「殿下は日本語が読めるんですか?」

「ええ」

 ジュドーさんも日本語は少し読めるし、俺も最近分かるようになってきた。これはポテトなんたらと、チョコなんたらと……。おすすめのお菓子をカイトにやると、芋をスティック状にして揚げたやつをカリカリと口にした。じゃがなんとかというやつだ。

「!これは美味しいな」

「そうだろ〜、俺も一番これが好きなんだ!あとこれも!」

 グミというお菓子がやたら種類がある。飴なのかと思えばぐにぐにとして弾力があり、果汁が入っているらしい。これもみんなお気に入りだ。

「なんということだ。美味い」

 自分の手柄のように、だろ〜!?と俺は何度も繰り返した。


 夜まではまだ時間がある。地図を広げたり説明を聞いたあと、仮眠を各自取ったりしていたがカイトは寝る様子がない。俺もあまり眠れず、窓の外をずっと見ているカイトに付き合っていた。もう外は夕暮れで赤く染まっている。

「寝なくていいのか?」

「うん、俺は昨日早く寝たから」

「そうか、僕もだ」

 そこから言葉を急に切らすと、またカイトは無言になる。やっぱり暇だな、とソファで隣で黙っていれば少しうとうとと睡魔が訪れる。

「小一時間寝たらいい、すぐに起こしてやる」

「うん、ありがとう、頼む」

 目を閉じると、カイトはまた何も喋らなくなったのだが少し遠くで「確かにホークを身内にするのもありだな」とつぶやいたのを俺は聞き逃さなかった。




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