第48話 寂しい夜

 

 困ったことになったな、と思いつつ、カイトにここにしばらく住めと言われた屋敷で俺達は過ごすことになった。魔石の発掘場に潜ることにしたのはいいものの、カイトもついてくるらしい。もしかしてその後も着いてくるつもりなんだろうか……。

 発掘場に潜るには王族の監視も必要なのと、準備が必要だそうなのでひと月はここで待機しなけらばならない。屋敷は二階建てで各部屋が広い。船の中やテントで所狭しと皆で並んで寝ていた日々が嘘のようで、少し寂しい気もする。みんなは広くてきれいな部屋やリビングにある便利な魔導具にテンションも高くなっていたが、バンリさんは見たことがないほど不機嫌だった。

「すいません、カイトがひどいことをして……」

「ホークさんが謝る必要はありません。きっとあの人はホークさんに対しては真摯だとは思いますが、私を信用する気がない気がします」

 晩飯を買い込み、リビングで揃って食べている時にもバンリさんは眉間に皺が寄っていた。確かにカイトは疑り深い性格だ。学生時代にも、なんでもすぐに信じてしまう事を何度もカイトに注意されていた。たしかに俺が単純すぎて騙されやすくはあるけれど、そこまで疑わなくても、と言うレベルで何もかも疑ってかかる。 

(まあ、でも、ツーラ国に留学していたのも暗殺から逃れるためだったのなら、仕方ないか……)

 先程王宮に戻ったカイトが言うには、跡継ぎ問題に巻き込まれたくなかった幼いカイトはツーラ国への留学を自ら選んだらしい。俺の実家は裕福だが別にそんなことで兄弟と争いはしなかったので、正直ショックだった。ツーラ国の国王も長年ひとりの女王様が治めているので跡継ぎ問題とも無縁だった。


「まあ、でもこのお屋敷と毎日のご飯をお世話してくれるんならしばらくご厄介になるのもいいでしょ。そのうち信じてくれるって!」

 カイトはミクさんにはなんでか妙に優しい。美味しいお肉に牙を立てながらミクさんは上機嫌だ。

「そういや、魔導具が見つかったときの優先順位なんだけど……サクラに最初に渡したら、お姉ちゃんのヒントもうすこしくれたりするかな」

 確かに、ミクさんのお姉さんの事はほとんど何も分からない。呪いが解けていないままこの国のどこかにいるのだったら、協力者もいるはずだ。

「一応、ミクさんのお姉さんの名前を出して聞きまわってみましょう。カイト殿下はご存知ないそうだったから、この王都にはいないのかも知れませんが……」

「ごめんね、ジュドーも早くご両親に会いたいよね」

「いえ!私は強引に混ぜてもらったんですし」

 赤毛のおさげのウィッグをつけたままのジュドーさんはぶんぶん首を振る。誰にでも使えて永久に解呪できる魔導具があればいいのに。多分ジュドーさんのご両親も何らかの小動物になっているのだろう。人間しかの形である俺はマシとは分かっているけど、バンリさんの接し方が女友達へのそれになっている。ここから、男に戻った時に変に距離を取られたら嫌だし……。勿論、脈がないとは分かっているんだけど。



◇◇◇



 各自に部屋が別れているので、今日からみんな別々にひとりづつ、ゆっくりベッドで寝ることができる。広いベッドに体を投げ出すと目を閉じる。いろんなことがありすぎて、なかなか睡魔は訪れなかった。何より、毎日のあの船室の小部屋での雑魚寝が楽しかったので、妙に孤独感がある。みんな同じ屋根の下にいるのに。

 ミクさんの部屋のテレビをたくさん見せてもらったけど、映画やドラマはどれも面白かった。バンリさんがテレビという箱が出来てからは全然退屈しなかった、とここ最近の人生を楽しそうに語るのもよく分かる。タイトルが思い出せないけど、どこかの国のお姫様が身分を隠して新聞記者と1日だけデートをする映画、もう一度見たいな。バンリさんも何度見直しても飽きないと言ってた。

 また皆で見たい、テレビ。


(こんなだから女々しいと言われるんだ……)


 はぁ、と嘆息してベッドの明かりを消そうとしたところでコンコン、と控えめにドアがノックされる音がした。 

「ホークさん、起きてます?」

「あ、はい……!」

 バンリさんの声に飛び起きて返事をする。ほら起きてる!と続いてミクさんの声もする。

「ねーねー、なんかひとりだと寂しくってさ!みんなでテレビ見ようよ〜!」

「こないだのドラマの続き、もう見られるそうですよ!」

 ジュドーさんも一緒だ。何だみんなも同じだったのか。嬉しくなって俺はドアを元気に開いた。






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