第47話 この友人、重たすぎる

 カイトはまたすぐに指輪を手に取ると、むくむくと銀髪の青年の姿に戻った。

「この魔導具は、希少な魔石で出来ている。今は王家の者しか使うことが許されないし、まず、数がない」

 それは解呪できたことにもならないし、王家の人しか駄目なものを貰い受けるのは難しすぎる……。


「くっ……なんで俺だけこんなにかわいい姿になってしまったんだ……」

 ホークはまだ謎の妬みを独りごちている。

 私達はソファに全員座って、カイトと落ち着いて話をすることにした。

「ふむ、それなんだが、魔力が強いと小さい動物に変えられるようだ。僕がツーラ国で呪いをかけられたとき、ふたり、護衛の男を連れて居たんだが、全く魔力のない者たちだった。一人は女性になり、一人は容姿のちがう中年の男になった」

「なるほど……。たしかに俺は魔力は殆ど無いもんな……。他には呪いにかけられた人はいるのか?」

「日本から来てあの城から脱出して、小さな小鳥になった女性は膨大な魔力を持っていた。この国に来て、魔導具の指輪をつけることによって今は人の姿に戻ることができた」

「王家の人間しか使えないんじゃなかったのか?」

 察しの悪いホークはカイトに疑問を返すが、なるほど、それはもしかして。


「そう。だから、ヤオノゾミはこの国の前の王と婚姻して王妃になった。僕の母だ。外見は全く似なかったが、強い魔力は僕も受け継いでいる」


 ええー!と一斉に驚きの声が上がる。ツーラ国の鴉、サクラはおそらく知っていたのだ。ヤオ、という名前だけで簡単に探せるような有名な人なのだと。しかし王妃にまでなっていたなんて。

「あの……八尾望さんは、お元気なんですか」

 最後に会ったときも笑顔だったその人の顔を思い浮かべながら言う。

「ええ。兄が国王になってから両親は座を退きましたが政には今も関わっています。母の日本からの知識はこの国のあちこちに役立てていますし、今もあちらの便利な道具などの開発をアドバイスしていますよ」

 はぁ、どおりで……。たまにこの街で日本の何かに似てるものがあると思っていた。ツーラ国でもちらほらと見かけたけれど、ここは誰かが積極的に広めようとしている雰囲気があった。

「しかし……例えばあなた方の誰かが僕と婚姻を結んだとしても、僕自身の呪いが解けない限りは譲ることも出来ない。兄弟が持っている物も、いつ何時に必要になるか分からないのでお貸しすることも難しい」

「そっかあ……」

 ミクは残念そうにソファの上で項垂れた。猫の姿は不便なことこの上無いだろう。おしゃれが好きなミクは、日本へのゲートをつなげたときに自分の服や化粧品も持ち出してきて私の闇の皮袋に仕舞わせた。ジュドーも泣きそうな顔でうつむいている。

「しかし方法がないこともない。地下深くにあるこの魔石の発掘場に潜れば、探せるかもしれない。見つけられてふたり分あるかどうかだが、その場合だれを優先させるか。もちろんひとつも見つからない可能性もある」

「うーん、まず、お姉ちゃんを見つけて呪いを解いてあげたい。そして私とホーク、ジュドーの両親……。サクラたちの分……。バンリも……」

 ミクが尻尾をぱたぱたと振りながら呪いにかかっている人たちの名前を挙げていく。本当はもっといるんでしょうけど……。そして私の不老不死の解呪は、今のところは急ぎはしない。

「私は最後でいいです。この世界だったら不老不死なのは別に困っていません。私は長生きしても化物扱いされずにスローライフを送れる場所を探しているだけなので……。しかし皆と同じように年を取れるのならば、いつか、解けたらいいな、くらいです」

「死んだふりやさんをまたするつもりじゃないの!?」

「いえ、でも、久しぶりにちょっと怖かったので」

 さっきカイトに喉にナイフを当てられて、傷が治らなかった時、久しぶりに恐怖を感じた。ずっと、死とは無縁に過ごしていたのだ。もうここで終わるのかも、と思ったときには流石に震えそうだった。

「カイト、お前、バンリさんになにをしたんだ……」

 ホークの可憐な顔がみるみるうちに顰められた。カイトは顔色も変えずに隣に座るホークを見やる。

「なに、ナイフで脅しただけだ。お前が一ヶ月も行方不明で、バンリという女に誑かされていたという情報があったからな。てっきりどこかに埋められてやしないかと」

「た、誑かされてなんかない!俺は何度もバンリさんにふられているのについて回ってるだけなんだ!」

 堂々とした宣言は私達はもう慣れていたが、カイトは呆れて口を開けてホークを見ていた。正直者で裏表のないホークとこの演技がうまいカイトがどうやって仲良しになって行ったのか、ちょっと気になるところだ。謀略の中に生きていたのであればこの素直さに救われてきたのかも知れない。

「ホーク、この女性はお前にはとても手に負えない。ひとりで怯えもせずにここまで来て、ナイフを突きつけられても泣きもせずに僕を睨みつけられる胆力がある。普通じゃない」

「それは、バンリさんは闇魔法が使えるから……」

「それを封じても、この人は強かった」

 失礼な。結構怖かったのに。まあでも長い人生を思い返せば、たしかに他の人よりは怖い場面に遭遇した回数は多いだろう。


「お前には強く見えたかも知れないけど……バンリさんだって」

 ホークがわなわなと震えながらまだ何かを言おうとしていると、カイトが言葉を制するように手のひらをすっと向けた。

「分かった。ではこうしよう。皆さんの解呪のための探索に僕も同行させてもらう。ホークが騙されてないか、見極めさせてもらおう」

 えっそんな姑みたいなことする!?


 断る余地はなさそうで、私達一同はこの気持ちの重すぎるホークの友人にドン引きするばかりだった。 


 

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