第38話 変なスパイ? 3

 ひとしきり三人で泣いたあと、涼しくなってきたこの国の夜を過ごすために毛布を一緒にかけて寝た。

 それにしてもホークは泣き虫だな〜。そもそも私がお城のベッドに運ばれたときもぐずってたし。平和に過ごしてきたお坊っちゃんなんでしょ。年は私と一緒みたいだけど、実家に残してきた妹と弟を思い出してしまう。あの子達甘やかされてたからすぐ泣くんだよね。私より一周り下で、私は三年前に実家を出たけどその頃に妹が小学校に入学してた。元気かな。

 もう会わないという気持ちでお姉ちゃんを追いかけてここに来ちゃったけど、私が大学に行くために出ていく日に泣きながら追いかけてきたあの子達を思い出してしまって、切なくなってしまった。どうかあの子達は私を追いかけないで欲しい。


 早朝に目を覚ますと、バンリはもう起きて何かをゴソゴソと準備していた。

「ミクに、お願いがあります」

「ん、なに?」

 小さな小袋を用意すると、私の首にそっとかけてきた。なんのためなのか察して、私はバンリの顔を見上げた。




◇◇◇



 ジュドーの働いているお店は今日も営業していたけど、あの子は休みらしい。私は近くにあるらしい家を探すと、2階にある部屋を覗くために屋根をどんどんと渡っていく。夏の終わりの部屋は、窓は少し空いていたので猫の私はなんとか入れそう。ジュドーはベッドにうつ伏せになっていたが、眠っているのかは窓からじゃわからない。


「ジュドー?起きてる?」

 そっと話しかけて見れば、もぞもぞと頭が動いてこちらを見た。姿は窓の外に隠したまま話を続ける。

「だれ……?」

「内緒。んで、ジュドーは何か罰とか受けてない?大丈夫?」

「大丈夫です……」

 泣きすぎたのかカスカスで疲れた声で返事が聞こえる。人を殺したと思っているのだろう。自責の念で苦しいはずだね。


「どうしてあれが聖女だと思ったの?黒髪じゃなかったのに」

 他の街ではバンリの髪の色を変えていたら誰にも疑われもしなかった。

「……お母さんに、似てたから……顔……ていうか、雰囲気が。ニホンから来た人、背もたかくないし、目も黒いから」

 ああ、やっぱなんとなく骨格で日本人と分かったのかな。なるほど。

「同郷だから、仲間と思わせて色々聞き出せって言われたけど……私はスパイも人攫いも向いてませんね。薬もお店の人に指示間違えたんですかね、私のせいですよね」

 ジュドーは自嘲気味に笑う。


「あの子生きてるよ。でも、内緒だよ。あんたもしばらくどこかに逃げて暮らしなよ。南の国から帰ってきたら、アンタのお母たち見つけてあげられるかもしんないし」

「え!?」

 ジュドーはばっと体を起こして窓辺に飛びついた。危なかった。私は身軽に窓の上の日除けに飛び乗れた。

「でも内緒だからね。もし喋ったら……昨日の魔法が作動するよ、わかったね?」

「はい!はい……!」

 ジュドーの声は震えている。多分あのお城で見た黒い動物のなにかがあの子の親なんじゃないかな。呪いを解く魔導具探して持ってきたらなんとかなる……といいな。

「あれ、これは……?」

窓辺に置いた小袋に気がついて、ジュドーは中を見て声を上げる。

「仕事失敗したらお金ないんでしょ。あげるってさ」

 誰にも見つからないように、私はとんとんとまた屋根を渡って街の外を目指す。 

 

 バンリは少しだけ金貨を小袋に入れて私の首にかけたのだ。あの魔法はただの目印のためのマーキングのためのもので、呪いなんかじゃないということだが、口止めのためにそのままにしとくようだ。バンリって結局甘いよね。私は知らんぷりして港を目指そうとしてたのに。私のほうがきっと冷たいと思う。


 

 闇のテントで待っていたバンリとホークは、のんびり昼寝をしていた。夕方のほうが涼しいし、昨日から疲れたから私もゆっくりするか、と二人の間に丸くなった。




◇◇◇



「明日にはもう港町ルーメンに着きます。船に乗ればもしまだ追手がいたとしてももう大丈夫ですよ」

「そうなの?」

 だんだんと山道ではなく平野を行くだけの道中になってきた。港町ルーメンまではあと少し、という距離らしい。ホークの肩の上で大丈夫ってどういう意味なのかと聞き返す。


「ソアの国に渡れば、基本的には外国の兵士は入れません。もしツーラ国から犯罪者が別の国に逃げてもソアの国で捕まえることはできませんし」

「そうなんだ?犯罪者引き渡しの条約とかないの?」

「ん〜。今のところはそういうのは聞いたことないですね。あちらの国で悪いことをしたとなればそこの法律で処罰されますが……。国に仕える兵士がよその国で武力を行使するのは禁止ですし、指名手配書も出せません。あと、遠いのでお金もかかりますし国としてはそこまでの苦労をしたくないみたいです。なんせソアの国は遠いので」

「なるほど。船で何日もかかるんですよね?」

 バンリが隣を歩きながら問うと、う〜ん、と少しホークは唸る。

「遠さもありますが、海の魔獣が一番怖いんで……コンパスも狂う地帯があるから遠回りする航路になります。季節によりますが、今の時期はまだそんなに危険じゃないから……半月かからない、はずです」

 結構ふんわりとしているが、現代日本に慣れた私達はほぼ日程通りに陸だろうが空だろうが海だとしても安全に遠い目的地に着けてしまう。ちょっと不安だ。


 お姉ちゃんがどこかで私みたいに姿を変えられて生きているはず!早く会いたい。

 猫じゃなくて鳥に変わればよかったのに私。お姉ちゃんはどんな姿になってるんだろう。

 あのサクラってカラス情報少なすぎるんだよ。


「船とかそういや、私乗ったことない!楽しみー!」

「私は何度もありますよ」



 とりとめのない会話をしつつ、緊張感もゼロで港を目指す私達だったけど、……まあそんなに簡単には行かないのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る