第28話 無茶な計画
いよいよ当日になり、私はホークから渡されたこの国の民族衣装のようなものを着る。確かに昨日もこういう服の人たちが多かった。黒髪の人間はこの国では少数だが、聖女や魔法使いじゃなくとも日本人の子孫だろうという人たちもいるので目立ちすぎるということはないが一応帽子で髪も隠すことにした。
昼間はパレードもあり、国民は熱狂的に騒いでいる様子が見えたらそこはまだ私たちの出番ではない。ホークと一緒に宿屋から大通りを見ると、幸せそうな人の群れが途切れずそこにあった。あまり大騒ぎにならずに脱出できればいいけど、この人たちが夕暮れにはお城の広場に集まるのだとすればパニックは避けられないのではないか。
◇◇◇
「そろそろ、行きますか」
ホークも着替えが終わり、小さなリュックを背負って準備を済ませる。もしどこにもよらずに王都を脱することになった場合の必要なものを入れているらしい。私もウエストポーチに貴重品を詰める。着の身着のままで夜逃げする事には残念ながら慣れているので私はいいのだが、ミクとホークは大丈夫なのだろうかと心配ではある、私は木の実などに毒が含まれていても、暫く苦しみはしても死ぬことはない。同じように人魚の肉を口にしたひとで死ぬために断食をしたというのは聞いた事はあるが、なぜなのか確かに一番苦しいのは餓えだった。
「この大通りから、お城に向かえますが兎に角人が多いので演説のある広場に入るのは難しいです。多くの人は広場に入れず、城下町に続く大通りにぎゅうぎゅうになったまま、声を拡張する魔法でお声だけ聞こえる、という感じになります。俺たちが前の方に行くにはもう出かけないと場所取りが始まっていますね」
「そうなんですか」
夕暮れから演説が始まる、と聞いていたのにまだ日の高いうちから出ようとするので不思議に思っていたがそれならば仕方がない。喉が渇いた時のために、と小さな水筒も持っていく。騒がしい通りを横目に路地などを使い王城の目の前に行くと、城の一部の広場は解放されていた。勿論、一般の国民は城の中には入れない。高い城壁に普段は囲まれており、更にその中にもう一段階柵がある。その上に、城から続く通路、広いテラスが存在する。柵の前にはびっしりと兵士が立っている。勢いで突入できるような造りではない。高い城壁の上には投石器やボウガンの設置も見られる。テラスはやっぱり落ちたら死ぬと思うんだけど……。ミクは何とかできるつもりなのだろう。
早めに来たというのに、やはり国民のために解放された広場には既に大勢の人間が陣取りのように居座っていた。
「暇つぶしの何か、持ってきたらよかったですね」
ホークがいい感じにテラスを見上げられる場所をみつけて、折り畳みの小さな椅子をリュックから取り出す。日本で見るキャンプ用品にそういうのあったな。
「バンリさんが座って下さい」
「大丈夫です、ホークさんこそ今のうちに体力の温存をしていてください。私は多分ホークさんより体力があるというか……回復できるので」
治癒魔術の恩恵のような口ぶりでいうと、ホークはなるほど、と言いつつ椅子をたたむ。俺だけ座るのもかっこ悪いですし……とぶつぶつと言いながら。
雑談をしていれば、もう座ってもいられないくらいに広場には人が押し寄せていた。きっともう、ここに通じる大通りにももう人間が密集しているのだろう。はぐれないように、とホークは自分の服の裾を掴ませるように促すので素直にそれに従う。私の身長はそんなに高くはないので一度はぐれれば中々見つけられないだろう。
突然、銅鑼のような音が広場に響き渡った。
「始まりますよ」
ホークが呟く声も、民衆の歓声にかき消された。よっぽど視力がよくないと顔が判別できないだろう高さのテラスに、ひとりの黒髪の女性が見える。ミクか、と思えば違う。目を凝らしてその人を見れば、長い黒髪と、顔立ちもどことなく私に似ているような、一般的な日本人の風貌に見える。
「サチコ陛下……!」
「サチコ陛下!!」
周りの人々が口々にその人の名前を呼ぶ。サチコ?ふつうにあのひと日本人じゃないの?ホークに問えるような隙もなく、そのひとは音声を拡張する魔法とやらで演説を開始した。
「今年も、ツーラ国の記念祭を無事に開催出来たこと、嬉しく思います」
静かで綺麗な声を聴き、聴衆は感動のためか溜息を吐く。続けてこの祭りの意義などをそのひとが語る中、サチコ女王陛下が何者なのか、という戸惑いでそれが私の耳にはうまく届かない、それに、どうしてか、あの人の顔はどこかで見たことがある。日本で会った事がある?でもあまりに長い時間生きすぎていて、あの人本人に会った事があるのか、過去に会った事があるだれかの子孫なのかは分からない。
「では、数ヶ月前よりこの国の聖石に魔力を注いでくれている聖女、ミクを紹介します」
サチコ陛下の言うその名前で、ハっとして私はテラスの後ろから出て来る黒髪の女性を見る。
ミクだ!
久しぶりに見るその姿は、痩せも太りもしていないが髪の毛だけ大分伸びていたがよく知る顔だ。何もしゃべらなければ大人しそうに見えてどこかのお姫様みたいでいいじゃない。ミクは短くツーラ国のこの先の繫栄を願う挨拶をして、すぐにテラスの奥に下がろうとした。
ふと、大きく黒い影が民衆に落ちる。なんだろう、と見上げた空に見えるのは、大きく黒い鳥。鴉ではない。昨日もあれは見た?どのくらいの大きさか分からなかったが、それはテラスに急降下してくる。人間よりも大分大きい。大きい、どころではない。きっとあれば、大の人間だってその足で掴める……!!
「ミク!!」
思わず叫んでしまった。真っ黒い怪鳥は、その爪でミクの体を掴むと広場を旋回する。阿鼻叫喚で民衆が逃げ場のない密集の広場から脱しようとする中、私とホークはその場に立ち尽くしていた。あの鳥は私たちに向かってくる。あの鳥は……私を探していたのだ。
「ホークさんは離れて!!」
突飛ばすと、油断していたのかホークはその場に転がる。黒い怪鳥は、私の上にミクの体をもののように投げつけて落とすと、周りの人間がその羽ばたく風で倒れるような勢いでまた空に飛び上がって行く。ここで闇魔法の重力を与えれば捕えることは出来るかもしれないが、これ以上目立ってはいけない。意識のないミクは私の上にかぶさり、細く息をしている。私はどこか折れたような感覚はあるがきっとこれは数分で治る。
警護の兵士が大勢私たちに駆け寄り、ミクを誰かが運ぼうと担架に乗せる。私も大けがをしたそぶりをしていれば「巻き込まれたそのひとも」と僅かに意識を取り戻したミクが私を指差す。ホークは家族です、どうか、自分も。と泣きながら懇願して、城の救護室に共に入り込むことになった。
いや、この計画、無茶すぎるでしょ……。痛がるふりをしながら私はミクの方を見たが、ミクもなにかに驚いていた。え?計画……だよね?
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