第18話 探偵と協力者 3

「ええ。まず普通のTwitterですね。三人とも、昨日の夕方にこんな投稿をしてました」


 久我さんが画面を見せる。

 アカウント名は少し変えてるけど本名に近い。

 ネットリテラシー低いよ、あの子たち!!!


【ミサっち: これから駅前カラオケ♪】(18:15)

【アヤヤ: ミサっちとリサリンとカラオケなう】(18:20)

【リサリン:やっぱ東口だよね。西口ださいよ。カラオケなう】(18:23)


「カラオケ……」


 私が呟くと、久我さんは頷いた。


「でもね、ここからが変なんです」


 久我さんがアプリを切り替える。

 開いたのは、見慣れない黒い画面のアプリ。


「これが"にくゑさま"。怪談系のSNSアプリです。怖い体験を投稿するのがメインだけど、普通のTwitterみたいに日常のことも呟けるんですよ。最近、学生の間で流行ってて」


「久我さん、そんな投稿までチェックしてるんですか?」


「僕、一応オカルト系のライターで、怪談投稿もしてるだろ?

 こういうのは仕事の一部みたいなもんだよ」


 久我さんが少し照れたように笑う。


「で、三人はこのアプリにも投稿してたんですが……内容がおかしいんです」


 画面に映し出された投稿を見て、私は息を呑んだ。


【ミサっち: カラオケやめた。なんか呼ばれてる気がする】(20:10)

【アヤヤ:「帰り道暗すぎ。でも森に行かなきゃ】(20:15)

【リサリン: 駅裏通るの怖い…でも声が聞こえる】(20:20)


「……呼ばれてる?」


 私の声が震えた。


 千晶ちゃんも――

 サヤカがいってた気がする。

 最近、誰かに呼ばれてるような気がするって――


「真弓ちゃん?」


 久我さんが心配そうに覗き込む。


「あ……ごめんなさい。ちょっと……」


「大丈夫? 顔色悪いよ」


「だ、大丈夫です……」


 探偵さんが、じっと久我さんのスマホの画面を見つめている。

 その目は、いつもの飄々とした雰囲気とは違う、鋭い光を帯びていた。


「……呼ばれてる、か」


 探偵さんが低く呟く。


「時系列を見ると、カラオケに行って帰る予定だったのに、急に予定を変更して駅裏へ向かった。しかも"怖い"と言いながら、"行かなきゃ"と思ってる」


「普通じゃないですよね」


 久我さんが深刻な顔で頷く。


「うん。まるで……何かに操られているみたいだね」


 探偵さんの言葉に、背筋が凍った。


「ふむ、駅の裏を通る……森に行く、か」


 探偵さんが、ゆっくりとその言葉を繰り返す。


「なるほど。じゃあ、そこへ行ってみようか」


 探偵さんの声は軽いままだったけど、その目だけは少しだけ鋭くなった気がした。


「そこって、どこですか?」


「彼女たちは学校帰りに、お洒落な東口のカラオケ店へ行った。そこから駅の裏を通って行ける森」


「森ですか? 池袋にそんな場所が」


「あるでしょう? これを見て」


 自分のスマホを前に出すと、探偵さんは地図アプリを開く。

 拡大して指さしたのは。

 『豊島区立 池袋の森』とあった。


「こんな場所あったんですね、知らなかった」


「僕もここにくるまでは知らなかったよ。でも拠点の周りは一通り調べる主義でね」


「調べる?」


「うん、君と会ってない時は、ひたすらこの周辺を歩き回っていたんだよ。というか最初に真弓くんに会った時もその途中だったんだ」


「ちなみにどれくらい歩いてたんですか?」


「一日大体20時間くらい観察しながら散歩してたのかな?」


 ――いやいやいやいや。それ死んじゃう。普通に死んじゃう。

 この焦熱地獄の真夏に、黒コート着て一日中散歩とかって、それ散歩に命賭けてるから!!

 ってか、そんなことしてるからチンピラに絡まれたんじゃ?


「いや、楽しいんだよ! 実に様々な発見があってだねっ!!」


 にこやかに言う探偵さん。

 久我さんがぽかんと口を開ける。正気を疑う人を見る目だ。

 

 ――あ、だから初めて会った時行き倒れたんだ!!

 ……この人、バカなんじゃないだろうか?

 せめて脱げ。その暑苦しいコート。


「真弓ちゃん、大丈夫?」


 脳内で暴言を吐きながらフリーズしている私を見て、久我さん優しく微笑みかけてくれた。


「は、はい。大丈夫です」


「さて、そろそろ日も落ちたし、真弓くんは帰宅した方がいいんじゃないかな?」


「そうだね、家に帰って、僕から連絡するよ」


 探偵さんも久我さんも口を揃えて、私に帰宅を促す。

 いやですよ!

 仲間はずれは許さない。可愛い後輩と可愛くないクラスメイトのことですから!

 私は大きく息を吸い込むと、首を横に振った。


「いいえ、私も一緒に行きます! 蚊帳の外なんて冗談じゃないです!」


「確かに、危険度は大して変わらないか」


 気楽にそういう探偵さんに久我さんは食ってかかった!


「君、未成年の学生だぞ? ここは家に帰して我々だけで」


「きっと後をつけてくるよ、真弓くんは」


 まだ会って間もないのに、探偵さんは私のことをよくわかっている。

 生きるからには全力だ!!


「なら、最初から一緒にいた方が良いよね」


 ふわふわと笑いながらいう探偵さんに、久我さんはため息をついていった。


「無理はしないでね。危ないと感じたらすぐ言って」


「はい……ありがとうございます」


 その優しさは本物だと分かる。

 本当に優しい人だ。先生が惚れちゃうのもわかるよね。

 夕闇の中、探偵さんが手招きした。


「じゃあ、行こうか。三人で」


 久我さんが私の少し前に立つ。

 探偵さんは黒いコートをなびかせて先頭を歩く。


(……怖いけど、行かなきゃ)


 昨日まで日常だった場所が、今は何かの入口のように思えた。

 私は小さく息を吸い、二人の背中を追って歩き出した。


◇◇◇


終焉の探偵、Chapter 5はこれにて幕です。


次章からまた夜の探索行がはじまります。

消えた三人の行方を追う真弓たち。

そして襲いかかる影。

彼らの運命は!

第六章をお楽しみにお待ちくださいませ。


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