第12話 青の妖精、冒険者になる
「アレスさん!ギルドのエースとして確認してください!」
ミランダがセリアの登録申請書を差し出す。
(そんな職務なかったはずだが……)
そう思いながらも、ミランダから申請用紙を受け取る。
視線を落とすと──
得意なこと:
黒さまの魔力を追うこと
黒さまの後ろを走ること
黒さまの言うことを聞くこと
(いや重いな……)
しかし、“才能”そのものは本物だ。
魔力感度、エルフならではの機動力と五感の鋭さ。
戦闘力は期待できないが、斥候としては一流の資質がある。
黒の悪魔として、一瞬で戦力計算を始めてしまう。
(魔力感度は異常に高いんだよな……
足も速いし、暗視もある……
問題はメンタルだけか……)
紙を返しながら、アレスは言った。
「登録自体は止めないよ。
ただ──」
セリアがぴくりと顔を上げる。
アレスは真っ直ぐに視線を向けた。
「黒の悪魔の隣に立ちたいなら、まず“生きる”ことだ。
死に急げば、何も手に入らない」
セリアは静かに聞く。
この子は、アレスの言葉だからではなく──
黒の悪魔に繋がる話だから真剣に聞いている。
「約束しろ。
“命の危険を感じた時”は、必ず退く。
それができないなら、冒険者にはなれない。」
セリアは胸元をぎゅっと握りしめ、うつむく。
ほんの少しの沈黙。
そして──
「……守る。
わたしの命は黒さまのもの。
黒さまのものだから守らないとならない。
危ない時は退く。」
アレスはわずかに目を細める。
(……ガルドが言ってた通り、本気だな、この子)
カリンがニヤニヤしながらつぶやく。
「アレスさん、ちょっと嫉妬してます?」
「してない」
即答だった。
ミランダが勢いよく判子を押す。
「セリアさん!
冒険者登録、完了しました!
ランクは仮Fランクです!」
「……ありがとう」
セリアは小さく一礼する。その姿は細いのに、どこか折れない芯がある。
正式に登録が済んだところで、アレスはセリアに言う。
「昼の間は、普通に依頼を受けて力をつけろ。
……危ない依頼なら、俺が同行してやる」
セリアがじっと見つめる。
「……アレスも、ついてくるの?」
「“も”って言うな」
ため息交じりに続ける。
「黒の悪魔は犯罪組織や闇ギルドにすら単騎特攻してるらしいからな。
普通の冒険者なら1日と生きていられない。
だが──」
ほんのわずか、表情が柔らいだ。
「生き残ってさえいれば、黒の悪魔の隣に立つ日は必ず来る」
セリアの胸が熱く震える。
「……生きてれば、黒さまの隣に……いける」
「そういうことだ」
その横で、ミランダがそっと言う。
「アレスさん……“危ない依頼には勇者アレスが同行する”を正式に当ギルドのオプションとして登録しても……」
「却下」
即答である。
カリンが笑う。
「でもねアレスさん。
“推しの推し”って、推しになるんですよ?」
「意味がわからない」
アレスは深くため息をついた。
セリアは黒いマントを握り、静かに宣言する。
「……わたし、がんばる。
黒さまの隣に立つために。
昼も、夜も」
ミランダが微笑む。
「はい、応援します。
危ないことは、気をつけてくださいね?」
エステルは判子を片づけつつ、ぼそり。
「……白さまにも、こんな子がいれば……」
カリンは両手を挙げる。
「はい!黒さまの弟子推し……始動だよ〜〜〜!!」
ギルドの喧騒が一気に沸き起こる。
アレスはこめかみを押さえる。
(……なんか面倒なことになってきた気がする)
そして、入り口の方へ向かいながら思う。
(だが──放っておけないのも事実、か)
その日のギルドは、
「勇者推し」「黒の悪魔さま推し」「白の騎士さん推し」──
加えて新たに
「黒さまの弟子推し」
という謎の勢力が生まれ、いつもより三倍うるさい朝となったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます