第2話 青春、再来
キーンコーンカーンコーン
湊たちの中学最初の授業となるホームルームが始まった。
周りには名前も知らないこれから一年を共にする仲間が湊同様にソワソワしている。
「はい、じゃあ最初の授業始めるぞ」
やたらガタイのいいジャージを着た教師が教壇に立った。
「私の名前は袴田って言います。これから皆さんの担任になります。一年間よろしく!好きな言葉は情熱です!」
(ゴリラだ。)
(ゴリラじゃん)
湊は思わず振り返り同じことを思ったであろう竜司と目が合い噴き出すのをこらえた。
「やっぱり最初の授業は自己紹介からだよな!早速青木君から自己紹介と一言よろしく!」
ゴリラ田(湊が勝手につけた)の提案から、あ行の生徒から順番に自己紹介が始まった。
各々緊張しながらも自分の出身校を始めに、入りたい部活や趣味のことなどを話していき、一人一人クラスメイトに拍手で歓迎された。
だんだんと成瀬の順が近づいてきて湊は何を言おうか頭の中をぐるぐるとさせている。
(やっぱ第一印象ってすげえ大事だから、ヘマしないようにしないと。でも、ちょっと面白いこと言って笑い取れないかなー。でもでも!初っ端ふざけるのは良くないよなぁー)
湊が悶々としている内に自分の番が回ってきたことに気付かなかった。
「おーい、次は成瀬君だぞー聞いてるかー?成瀬ー?」
「は、はい!」
袴田に声をかけられて頭が真っ白になった。
(え、どうしよう何言うんだっけ。えーいままよ!勢いで行け!)
ノリで生きてきた男である。
「え、えーと初めまして成瀬湊です。葛城小出身です!好きなことはめっちゃあります。えーあと、中学での目標は彼女作ることです!よろしくお願いします!」
すっかりテンパってしまった湊は、いつもの冗談交じりのおふざけで余計な一言を混ぜてしまった。
心なしか湊の自己紹介の時だけ、拍手が小さく聞こえクスクスと冷やかしを含んだ笑い声が聞こえてきた。
(やっちゃった、絶対にいらないこと言っちゃった、俺の中学生活終わった。周りの目が痛すぎる。)
放心状態でドッと椅子にもたれかかると後ろの席の陽髙の番になった。
「えー陽髙竜司です。僕も葛城小出身です。部活はずっと野球やってたんで、野球部に入るつもりです。あと成瀬君は面白い奴なんで仲良くしてやってくださーい。」
キュン。
湊の胸はそう音を鳴らした。
(りゅーきゅん♡俺が女の子だったら絶対好きになってる。いや、今でも十分すきぃ。誰にも渡したくなぃ~)
つかの間の乙女モードの後、自己紹介を終えた竜司に呆れとニヤニヤが混ざったような顔でツッコまれた。
「初日から飛ばしすぎ、もうフォローしないからね」
「マジでやらかした。ホントにありがとう」
湊が突っ走ってやらかし、周りにフォローされるのは幼馴染からしたら日常茶飯事だが、今ここでやるようなことではない。
竜司からやれやれだぜといった表情をされ、コツンと裏拳を喰らい二人は再び新しいクラスメイトの紹介を聞いた。
二人の自己紹介の後五人ほど静かにきいていたが、意外なことに気づく。
「なありゅうくん、このクラス「ま」の名字多くない?」
二人でコソコソとホームルームの際に配られた座席表を見る。
「確かに。舞島、前田、牧田、マッケンジー……ってマッケンジー!?」
「ハーフかな。あ、次マッケンジーさんだよ」
どうやら湊の右前の席の男子がマッケンジーさんのようだ。
「初めまして、マッケンジー譲司といいます。名字でわかるかもしれませんがカナダとのハーフです。とりあえず運動部なら何でも興味あります。おねがいします。」
(ジョー○マッケンジー!?)
九州の野球少年には英雄のような名前だからか、竜司の目が驚きとワクワクで輝いた。
ハーフの子は田舎では珍しいのでクラス全体がより一層賑やかになるのを感じる。
「少し静かにー!はい、次の子お願いします。」
袴田が少々騒がしくなった教室を取り仕切った。
次は湊の隣の席の人が自己紹介する番だ。
先ほどまでは緊張とやらかしたショックで周りを見ることができなかったので新しいクラスメイトのことを改めて注視した。
(そういえば、りゅうくんと話してばっかりで隣の席の人全然見てなかったな)
「水樹あやめです。斉海小から来ました!好きなことはダンスとドラマ観ることです。部活は運動部に入りたいです!」
彼女は屈託のない笑顔で自己紹介を始めた。
湊は隣の席が女の子ということさえも今初めて気づき、顔を覚えようと若干の真剣なまなざしを向けた。
年相応のあどけない顔立ちとパッチリとした瞳をしていて、髪は少し赤みがかっており肩に着くくらいの長さ、周りの人と同じように不安や緊張を抱えながらもキラキラとした感情が表情に出ているのも解る。
少女の自己紹介は特に変わったような内容ではなくありきたりなものであったが、隣のクラスメイトの話を10秒程度聞いただけで湊は生まれて初めての感覚を体験していた。
(なんだろうコレ、目が勝手に持ってかれるっていうか、吸い付くっていうか。ダメだダメだ!ガン見してたら良くない!)
湊は理由もわからずになぜか彼女に目を奪われていたが、ハッと我に返り凝視しないように意識した。
水樹あやめを見て初めて感じたものが間違いなくポジティブな感情だと認識できたが、美味しいご飯を食べたり友達と遊んだり、日曜朝の好きな番組を見たりすることとは明らかに違うということも同時に理解した。
(ヤバい!見すぎないように意識したら超気になるんだけど、チラチラ見ちゃうんだけど!)
あやめの自己紹介が終わり、どんどん後ろの人の番へと進んでいくが湊の頭の中は初めて経験するむずがゆい感情と隣の席の女の子のことでいっぱいで、話が入ってこない。
湊は生まれてからこの12年という期間、ずっと女性が身近にいたが、家族や小学校の女友達、テレビの中の女優やアイドル、アニメキャラに対して特別な意識を向けたことが無かった。
これが人生で初めての異性としての意識だということはまだ気づいてもいない。
悶々としている内にクラス全員の自己紹介が終わり、ホームルームの終わりのチャイムが鳴るまで袴田が各種連絡をして終わった。
湊達の最初の授業が終わり、下校のタイミングになった所でクラスは賑やかさを増している。
同じ小学出身のメンツで固まったり、早速新しいクラスメイトと喋っていたり、スポーツクラブ時代の仲間と再会を果たしていたりと新生活特有の色が見えている。
「湊くん、なんかまだドキドキするね」
「俺も!落ち着かないわ」
湊達も下校するには少し物足りないのか、教室に残って談笑していた。
これまでは昔から変わらないが、湊は隣の席で同じように友人と話し込んでいる少女に気がとられている。
「なんか湊君さっきからソワソワしてるけど、なにかあった?トイレ?」
「い、いや何でもないよ、なんでも」
「そっかー。ならいーや」
湊が落ち着きないのはいつものことなので竜司も特に気にする様子もなく会話を続けた。
「そういえばさ、彼女作るのが目標!とか言ってたけどあれマジ?早速気になる子でもいた?」
竜司からの質問がピンポイントで刺さり湊は動揺した。
「い、いや全然だよ!ま、まだ顔も名前も覚えきれてないしこれから、これから!」
明らかに挙動がおかしくなり始めた湊に竜司は何かを察したのかニヤケ面で畳みかける。
「またまた~さっきから様子おかしいの隠せてないよー!隣の席の人の自己紹介の時くらいから変なの見てたもん」
「べ、別にいつも通りだと思います……けど?」
下手くそな口笛で誤魔化すが誰がどう見たって嘘をついているのがバレバレだ。
「なるほど後ろの席だから見えなかったけど、あの人か。えーと水樹あやめさん。なに?もしかしたら一目惚れでもした?」
竜司も新学期でテンションが上がっているのか調子良く湊をイジり始めている。
二人の会話はヒートアップしてきて隣の席くらいまではしっかりと聞こえそうな声量になってきた。
「全然!よく顔見てないし、マッケンジーに気を取られてその人の自己紹介聞いてなかったし!てか一目惚れするようなかわいい子居なかったし!」
湊は若干の照れ隠しと、初めて抱いた感情を否定したかったのか、咄嗟に大袈裟にあやめに対しての印象を否定してしまった。
(あ、しまった。これは言ったらダメなやつかも……)
隣で聞こえていたであろう女子のグループたちとあやめ当人と一瞬目が合った気がした。
ピ、ピ、ピ
その時湊は機械のような音が確かに聞こえた。
ピッピッピ
その音は何かのカウントダウンを刻んでいるのか徐々にペースを増して頭に響いてくる。
「ねえりゅうくん、なにか聞こえない?カウントダウンみた――――」
ピッピピッピ――――――
ボゴー――ン
竜司に最後まで問いかけることはできず、カウントダウンが0になったとわかる音が頭に鳴り響いた瞬間、湊の体は四散爆発した。
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