Ø' 三年(+十二年)後の私に転生? Ⅱ
この世界には、ありがちだけど、人間や普通の動植物の他に、魔力を持った魔獣、妖怪のような存在がたくさんいるらしい。
人間も、ただの人間の他に、ファンタジー定番の半人半獣の獣人族、獣神の眷属から亜人として人間の一種になった
(同じく妖精族からよくない魔素に当てられたインプやグブリンなどの邪妖精もいるらしい)
人間の生活を脅かす魔獣や邪妖精などの妖怪や、よくない魔素や気が溜まって出来た瘴気と呼ばれるものから身を守るため、国境地帯にグルッと、女神さまの力を込めた魔道具を使って結界を張っているのだとか。
その、結界を維持するために魔力を供給するのが、聖女と呼ばれる女性のお仕事。
「おお、聖女! これまたファンタジー定番のヒロイン」
「申し訳ありませんが、残念ながらあなたの知る聖女とは違います。光魔法も回復魔法も使えません」
「え? じゃあ、その、瘴気とやらを浄化する⋯⋯」
「それも、殆ど出来ません。微弱なものなら祓えるでしょうが、基本的にそれをするのは、神官や神殿騎士ですね」
あ、そ。ちょっと残念。
「その聖女は、三年後の私が、あなた――女神さまの加護を受けて転生したのよね?」
「ええ。最初は普通の少女として家族の元で暮らして、この世界に身体が馴染んだ頃に聖女の異能に目覚めるの。先代の聖女から役目を交代して、今後は国を守る結界を維持していくことになるわ」
ファンタジー定番の光魔法や回復魔法・神聖魔法に長けたありがたい聖女さまではなく、国を守る結界に神聖エネルギーを供給するのが、転生した私のこの世界での役割らしい。
「で? 三年後の私がある程度成長して聖女になって、役目をこなしてたんでしょ?」
「⋯⋯ええ」
なんか、歯切れが悪い? 申し訳なさそうな表情から神仏らしい無表情に切り替えたはずなのに、なんだか言いにくそう。
つまり、何らかの不都合が生じたって事よね? 三年後まで待てないとか言ってたし。
「父親に愛されて育ったあなたは、聖女の異能に目覚めた後、しばらくはまわりの人に可愛がられて育つのだけど、聖光に溢れた魔力を移譲する異能が聖女のものだと確信した聖教会の関係者に誘拐同然に王都へ連れ去られ、父親とは引き離されて聖女として国に貢献していくことになったわ」
ああ、ありがちな、王族や上位聖職者の上から目線で、お国のためになるのだから名誉に思えとか、父親を盾に脅されて働いてるとかってやつか。
「まあ、近い状態ね。王族はあなたを囲い込むために、正妃の産んだ第二王子が年齢が近いという理由で、侯爵家の養女という仮の身分を与えて婚約者に仕立て上げたの。あなたは、それが嫌だったのね」
それだけじゃないと思うけど。父親と引き離されて、知らない家の、それも上位のお貴族様の養女にされて、顔も知らなかった好きでもない男と結婚させられる。
嬉しいこと楽しいことがなんにもないじゃないの。
「絶望したあなたは魔獣の前に立って、死を願ったの」
いや、それ、かなり痛いやつ。泳げないなら入水自殺とか、オーソドックスなところで首吊りとか飛び降りとか、色々あるだろうに。
「聖女としての役目に対する抗議や当てつけ、意趣返しの意味もあったんじゃないかしら」
十五歳の女の子にしては、中々ダークでエスプリの効いた意趣返しだね。本当に、私なの?
「私が加護と祝福を与えた転生体だけど、今のあなたの記憶は残してなかったのよ。魂はあなたでも、意識は完全な別人ね」
「なるほど? で、今度は、十五歳の女の子の身体に、二十歳前の成人女子を詰め込もうって魂胆?」
「申し訳ないのだけれど。身体は私の加護と祝福があるため死ななかったけれど、人間は感情を殺すことで精神や魂まで死んでしまうものなのね⋯⋯ 最上級の回復魔法を施しても、より強い祝福を与えても、今代聖女である「
生ける
「新しい聖女を用意する時間は足りなくて、ロサフィロの身体を使うしかなかったの」
転生後の私は、ロサフィロというのね。
死んだロサフィロの代わりに、別の人間の魂を入れても馴染むかどうか解らない。反発してもっと酷いことになる可能性が高く、時空を遡ってでも、どうしても私を連れてくるしかなかったという。
「まあ、大体の事情はわかりました」
納得した訳じゃないけどね。ここで拒否をして元の場に戻されても、三年間苦しんだ後死ぬだけ。いや、もう戻れないんだっけ?
「異世界の神たる私が、あなたの魂を肉体から引き剥がしたことであの地でのあなたの輪廻や因果律が途絶えてしまったので、あの世界の人間ではいられなくなってしまったの」
本当に、ごめんなさい。女神さまはそう言うけれど。
事後承諾な上に、ここでの環境もいいとは言いがたいのが引っかかるけど、どちらにせよ、死んでしまったものは仕方ないし、転生した私がすでに一度死んでるのも今更どうにもならないのだろうし。
私はこれまでの人生と夢を諦め、王族に囲い込まれて迷惑この上ない環境での世界のための奉仕活動を引き継ぐ覚悟を決めた。
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