9 まったく見抜けなかった自分の目の節穴っぷりが情けない
「朱鷺っ⁉」
突然、ぐらりとかしいだ少女の身体を、鷹晴はすぐさま抱き寄せた。無防備に寄りかかってきた
決して喜んでいる場合ではないのに、何を浮かれているのかと。
膝の裏に片腕を差し入れ、横抱きに抱き上げる。
恐ろしい
簾の端を開けてくれた伯父に短く礼を述べながら、鷹晴は女人用の部屋へ朱鷺を抱き上げたまま忍び入る。
小柄な身体を床に下ろし、そっと衣をかけてやっても、朱鷺は気を失ったままだ。
夜目にも白い血の気の引いた顔をそのままにはしておけなくて、ひやりと冷たい頬を手のひらで包む。
「朱鷺……」
愛しい少女の名を、囁くように紡ぐ。
朱鷺が実は男童ではなく年頃の娘だと鷹晴が知ったのは、土佐を出立する直前だった。
貫之から告げられた時の衝撃は、昨日のことのように思い出せる。
四年も親しくつきあってきた弟分が、まさか娘だったなんて――。
まったく見抜けなかった自分の目の節穴っぷりが情けない。
だが、嘆いたあとに鷹晴の心を占めたのは、心か浮き立つような強い喜びだった。
出逢った当初はやんちゃで気の強い男童としか思えなかった朱鷺の笑顔に、心が跳ねるようになったのはいつからだろう。
同じ男のはずなのに、ふとした拍子に魅入られ、目が離せないと感じるようになったのは。
他の者には欠片もそんなことを思わないのに、自分の目がおかしくなったのかと、内心、不安に思っていたほどだ。
だが、朱鷺が本当は年頃の娘なのだと知って、大いに納得すると同時に、己の気持ちに気づかされた。
自分はいつの間にか、恋に落ちていたのだと。
しかし、恋心に気づいたからといって、女人としてふるまうことをひどく忌避し、あくまでも男としてふるまう朱鷺に不用意に想いは告げられなくて。
かといって、少女だと知ってしまったからには、前のとおりに弟分として接することは、どうしてもできず……。
特に、帰京の旅が始まってからは、朱鷺の事情を知らぬ水主達に、いつ少女だと見抜かれえてしまうのかと心配でたまらなかった。
凛と一輪咲く花のように愛らしいというのに、朱鷺は粗野な水主達に
その陰で鷹晴がどれほど気をもんでいたのか、当の本人はまったく気づいていないに違いない。
叶うなら、常に
己の独占欲に、自分自身で呆れてしまう。
だが、鷹晴がそうしたくなるほど、朱鷺は自分が年頃の娘であることに無頓着なのだ。
今日だって、鷹晴が止めなければ、着物が濡れて肌に張りついているというのに、人前で無防備に蓑を脱ごうとしたのだから、まったく目が離せない。
少女と知る前は何気なくふれられたのに、いまや無心ではふれられなくなってしまった愛しい少女の頬を、鷹晴はあふれる愛しさのままにそっと撫でる。
いい加減、簾の向こうに行かねばと理性が促しているのに、感情がもっと朱鷺にふれていたいと訴えている。
絹のようになめらかな頬をもっと堪能したいと。
だが、こんな夜更けに朱鷺のそばにいる姿を見られたら、いったいどんな誤解をされることか。
朱鷺に気まずい思いは味わわせたくない。理性を奮い立たせ、鷹晴は足音を忍ばせて隣へと戻った。
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