第2話 眩しい夢
「こないだね、密林クルーズのキャストに新しく入って来た人がいきなり選ばれててさー。何か偉い人のコネらしいんだけどー。そーゆーのズルいよね。私こんな頑張ってるのに!」
「へー!」
「しかもその人何かさっさと出来ちゃってるみたいでさー!余計ムカつく!」
「まあ、世の中結局は金とコネと器用な人には敵わないからなあ。」
「もー!そーゆー夢壊す様な事ハタチの女子に言わないで!」
「ゴメンゴメン!佳奈ちゃんはどんな夢あるの?」
「私はねーやっぱりアトラクションのキャストになりたいんだー。密林クルーズも夢の一つだったから結構そーゆー現実見せつけられて凹んでんだからね!」
「成る程なあ。やっぱ夢の国だけあって皆夢持って働いてんだなあ」
「今は清掃だけどね!絶対のし上がってやるんだから!」
「良いなあ。目標あって羨ましい」
「タムさんは何かないの?夢とか」
「うーん、無いなあ。あったらここでこんな仕事してないだろうなあ」
「何かまだ若いのに枯れてるねー。」
「悪かったねえ。枯れ枝で。」
「でもそのコックコート似合ってるよ!」
「そりゃどうも。」
「じゃあね!またね!」
「佳奈ちゃんも頑張ってね」
夢かあ…
前は多少はあった。
自分で店を持つとかそんな大きな夢でもなく、ただ料理を作るのが好きで、どこかのそれなりのお店でやりたいなって程度だった。
調理の専門学校を出てそのままホテルの調理師に就職した。
まあ基礎から勉強にもなるし、この先転職するにしてもホテル経験は箔が付くだろう程度の理由だった。
なので、ここで働きたいと言うよりも決まったからここで働き出したって感じだった。
そこに鞠保と言うシェフが居た。
料理は天才的に上手かった。
技術は勿論、食材の都合や客の都合なんかの急な変更とかにも機転を効かせて対応出来たりそれが更に前より良くなっていたり。
新メニュー開発なんかも想像を超えた物を出して来たり…
とにかく凡人の俺は見習うと言うより1ファンみたいに思っていた。
人柄も温厚で偉ぶったり横柄な態度をしている所を見た事なく、新人の俺なんかにもアドバイスをくれたりしていた。
やはりそんな人だったので、かなり有名人で鞠保さんの料理目当てで来る客も多かったが…
「結構残されてますね…」
下げられて来た皿を見て鞠保さんは落胆していた。
決して不味い訳では無い。
食材も出すタイミングも最高の状態で提供している。
予約の取りにくい有名人の鞠保さんの料理を食べると言うステータスに利用されているのだ。
要人の接待等に利用されたり、有名な芸能人などがSNSに料理の画像を上げるためにも来ていたので、こういう結果になっていた。
鞠保さんは純粋に食べる客に美味しいと思って貰いたい人だったので、いつしか不満が爆発してしまったのだろう。
もっと色々勉強したいからと言う理由をつけてとうとう辞めてしまった。
別に揉めては無かったみたいだが、かなり好条件を提示されて引き止められていた。
それを押し切って辞めたのだから相当だったのだろう。
俺もそのスターの引退を見た1ファンとしてなんだか気力が湧かなくなって来て釣られる様に辞めてしまった。
そのホテルは今の職場の近くだった。
ホテルの出資社も、今の職場の共同スポンサーと同じだった。
なのでホテルを辞めた後も昔ホテルで一緒に働いていた先輩で今ここで働いている人に紹介して貰って今の職場に来た。
帰りの電車でたまに前の職場の同僚に会ったりもあったが、別に俺は喧嘩別れしてやめたのでは無いので、鉢合わせても軽く挨拶位はしていてそれ程気まずくは無かった。
そもそも前にいたホテルでも俺は大したポジションでも無かったので、気にも止められて無いだろう。
佳奈ちゃんと話しをした帰り道に、見えていた元職場を眺めながら、そんな事を思い出していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます