第6話 解呪の儀式

  次の日、学校。

わたしは顔にマスクをつけて登校した。

風邪をひいたわけじゃない。

そうしたほうが良いと思ったから。

マスクをつけててもクラスの子はわたしに話しかけたりしてこない。

きっとジュンちゃんのこともあって、関わりたくないんだろう。

むしろそっちのほうがよかった。

うるさい。うるさい。

なんでみんな静かにできないんだろう。

朝の自由時間、わたしは早く帰りの時間にならないか、それだけ考える。

時間になるとロイ先生がやってきて一旦クラスが静かになる。

ロイ先生のいつもの笑顔がなんだかムカつく。

出席をとるとかいうくだらない時間。

見ればわかるのに。

しかも最近、10秒スピーチみたいなのはじめて、みんななにかひとこと言わなきゃいけない。

今日の目標とか、昨日あったよかったこととか。

お調子者のキンジくんなんかだいたい新しい一発ギャグなんかやるんだけど、だいたいYOUTUBERのパクリ。

ほんとつまらないしイライラするよ。

結局、わたしの番がまわってきた。


「じゃあ花巻さん」


前のハイダ君の番が終わったからつぎはわたし。

だけどわたしは立ち上がりもしないし返事もしない。


「花巻さん?」


ロイ先生が心配そうに声をかけてくる。

クラスが少しざわついている。

だけど絶対答えないし、反応もしない。

しちゃいけないんだ。



 昨日の夜、ジュンちゃんに鬼電をかけたけどジュンちゃんは寝ていたみたいだ。

結局わたしは不安なまま朝を迎えた。

怖くて不安で眠れないなんてはじめてだった。

なんだか感覚が冴えて少しの音でびくびくするし、身体の中がすごく気持ち悪い。

風邪もひいてないのに頭がクラクラする。

こんなに嫌な気分になったのって、はじめてだ。

時間はちっとも進まないのに不安な事ばっか考えちゃう。

地獄みたいな時間。

だから朝ジュンちゃんからラインが来た時はほんとに嬉しかった。

それは長文のラインだった。


<ごめんね。やっぱり起きてると辛くて>

<ライン、見たよ>(これはわたしのラインを見たってことだろう)

<私の時と違うね。やっぱりショコちゃんは特別なんだ>(こんな特別、嬉しくない)

<いい? 呪いが本当なら、オヒトリサマを帰らせないといけないよ>


ショコちゃんはオヒトリサマを帰す儀式を教えてくれた。


1・誰とも喋ってはいけない。

2・ひとりでずっといてはいけない。


わたしが喋らないのは、このせいだ。

喋れば喋るほど成功率が下がるし、ラインもダメ、例えば手紙を書いて見せるのもダメみたい。

これはボッチだから助かった。

ほんとは家に引きこもりたかったけど、あまりひとりでずっといるとオヒトリサマに連れていかれてしまうらしい。

オヒトリサマを帰す儀式はまだある。


3・夜になったらぬいぐるみの綿を抜いたものを用意し、中に生肉と自分の髪をつめる。


これもなんとかなるだろう。

問題は次だ。


4・お社にぬいぐるみを入れて燃やす。誰にも見られずに。


お社って、神社にある家みたいなやつかな。

まさか神社を燃やすわけにはいかない。

だけどこれはジュンちゃんがなんとかしてくれるらしい。

お社は、大きさはなんでもよくて、それなら作っちゃえばいいんだって。

病気で今日も休んでるジュンちゃんがどうするのかって話しだけど、信じるしかできない。

そういえば、一応メリーさんにも夜中に連絡してみた。

ジョージおじさんが霊能力者なら助けてくれるかもと思って。

だけどラインがブロックされてた。

ショックよりも、なんだか腹が立った。

考えてみればメリーさんに会ってから何かおかしい。

もしかして、呪いをかけてきたのはメリーさんなんじゃないかもって思うよ。

幽霊マンションなんか行かなければよかった。

行ってなければ、こんなことにならなかったのかも。



学校にいる間、わたしは気がおかしくなりそうだった。

誰にも話しかけられないよう、誰にも話しかけないよう、一日中自分の席に座って過ごした。

いつもより神経が冴えてるせいでみんなの声が耳障りによく聞こえる。


ウフフ

アハハ

ゲラゲラゲラ


別にわたしに言われてるわけじゃない。

言われてるわけじゃないはずなのに。


ウヒャヒャヒャヒャ

バカダヨネー

キモチワルイ

ケラケラケラ


うるさい。うるさい! うるさいうるさいうるさい!!

わたしは思わず立ち上がって怒鳴ってやろうかと思った。

だけどそんなことをしてももっと良くない事になるのは流石にわかる。

わたしは寝たふりをして時間がすぎるのを待つしかなかった。

そんなわたしをさすがに見かねたのかロイ先生がわたしのところに来た。


「花巻さん。大丈夫? 具合、悪いのかな?」


答えない、答えられない。


「よかったら私が保健室、一緒にいきますぅ?」


キイちゃんはロイ先生にアピールしたくていい子ぶってる。

ほんとに、ウザイよ。


「花巻さん、何か言ってくれないと、先生も困るな」


「あ、先生! もしかして花巻さん、あの日なんじゃないですかぁ? ね、私なら女の子同士だし、保健室行きましょうよぉ?」


ほんとなんなんだよコイツ。

いつもだったら呆れて見れるのに、今日は殺意が湧く。

もういっそジュンちゃんみたいにぶん殴ってやろうかな。

なんて思う自分に自己嫌悪。

呪いのせいか性格まで悪くなってる。


「じゃあ、こうしようよ。もし、具合が悪いなら保健室に行ってもいい。帰りたいなら、好きな時に帰っていい。教室に居たいならそれでもいい」


けどロイ先生は優しかった。

いつもは思わなかったけど、本当に良い先生だなと思う。

本当はロイ先生にも相談したい。

ママにだって相談したい。

なんならキイちゃんだっていい。


「ほら、竹梨さん。放っておくのも優しさだよ」


「はい! 流石ロイ先生ですぅ!」


いや、やっぱキイちゃんはイヤかも。


「花巻さん。明日でも明後日でもいいから、何かあったら先生に話してくださいね。約束だよ」


そう言って先生はわたしを放っておいてくれた。

本当は家に帰りたい。

けどオヒトリサマの呪いのせいでわたしはひとりぼっちになってもいけない。

けどジュンちゃんの言葉を信じるなら呪いは解くことができる。

今日、我慢すればいい。

そしたらもっとジュンちゃんと仲良くしよう。

ちょっと変わった子だけど、友達がいるといないじゃ大違い。

次会ったらもっと仲良くしよう。

だから、今日、耐えないと。

だけどオヒトリサマの呪いはわたしをちょっとづつ恐ろしい世界に引きずりこもうとしてたんだ。

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