第4話 どうしてこうなるの!? ジュンちゃんと喧嘩、ママは出張!

  結局その後、自習になった五時間目の途中でジュンちゃんたちは帰ってきた。

ジュンちゃんは変わらず澄ました笑顔。

ナナミちゃんたち3人組はすごく機嫌悪そう。

たぶん、仲直りしたことにさせられたんだろうな。

たぶんもうナナミちゃんたちはもうジュンちゃんと友達になろうとしない。

いや、他の子もジュンちゃんを怖がってもう話そうとしないだろうな。

そうなるとわたしはずっとジュンちゃんの相手をしなきゃいけない。

ほんとゴメンだけど、正直しんどいよ。

わたしはいよいよジュンちゃんが怖くなってきた。


 放課後、帰り道でやっぱりジュンちゃんは怖い話ばかり。

牛の首の話しか、くねくねとか、クロネリさんとか。

幽霊の話をしてると幽霊が寄ってくるらしい。

もしそれが本当なら今頃わたしの周りは幽霊だらけだ。

もう、うんざり!


「ショコちゃん。オヒトリサマって知ってる?」


つーかジュンちゃんはもうわたしが話を聞いてるかどうかなんて関係ないみたい。

好き勝手に怖い話をしてくる。


「オヒトリサマはね、ぼっちの子のところにやってくるの」


わたしはイライラしてる。

だって人の気持ちとかぜんぜん考えないじゃん!


「ある日“ひとおりぼうし”って人からラインが来るの」


イライラ。


「そこに貼られてるリンクを踏むとね、オヒトリサマが見つけてくれるんだ」


イライラ。イライライラ。


「そしたらね」


イライラプッツン! わたしはキレた。


「もうやめてよジュンちゃん! 怖い話ばっか!」


大声を出すとジュンちゃんは笑顔からポカンとした顔になった。

なんか、なんで怒鳴られたかわかってないみたい。


「ジュンちゃんおかしいよ! 自分でわかってないの!?」


わたしの怒りはもう止まらない! もう言いたいこと全部言ってやる!


「朝からずっと怖い話ばっか! それになんなの!? なんでナナミちゃんたちに暴力ふったの!? ずっとわたしにべったりで、みんなに変に見られてるんだよ!? おかしいよ!!」


道をゆくおばさんやおじさんがわたしを見てるけどもう止まらない。


「もう怖い話やめてよ! あと他の子とも仲良くしようよ! できないならもう絶交だから!」


わたしは言いたいことを全部言った。

ジュンちゃんはしばらくポカンとしてた。

だけどまたあの綺麗すぎる笑顔に戻ってこんなこと言ったんだ。


「だってショコちゃん、幽霊に会いたい人に見えたから」



  その日の夜、今日もママは家に帰って来てて、一緒に晩御飯を食べた。

ママ特性のミートスパゲッティ。

お店で出せるぐらい美味しいんだ。

わたしの大好物だけど、今日は美味しさも半減。


「ショコ、学校はどう? 友達と上手くやってるの?」


なんでママは一番聞かれたくないことを最悪なタイミングで聞いてくるんだろう?

今日、また友達がひとりいなくなりそうになったばかりだよ!


「ごちそうさま!」


ママと話すのが嫌でわたしはお皿を下げるとさっさとお風呂に行った。

ママはちょっと不安そうな顔してた。

お風呂から出るとママが電話してるのが聞こえる。

仕事で遠くにいってるパパと何か話してるみたい。

きっとパパにわたしのことを何か相談してるんだろう。

わたしはママの顔を見ないようにして自分の部屋に戻って鍵をかけた。

ベッドに倒れてスマホを確認するとジュンちゃんからラインが来てる。

確認すると。


<ごめんね>


って短いメッセージ。

けどわたしはジュンちゃんと距離を置きたくて返信しなかった。

せっかく友達になってくれた子に冷たいことをしてるわたし。

その日は自己嫌悪であまり寝れなかった。


「もう、なんでこんなことになっちゃったんだろう」


明日、ジュンちゃんと会ったらどうすればいいの?

やだなあ……。



  だけど次の日、ジュンちゃんは学校に来なかった。

ロイ先生の話だと体調不良らしい。

昨日まで教室で暴れるほど元気だった子が体調不良?

わたしがジュンちゃんを傷つけたせいじゃないかと思うと心がざわつく。

休み時間に入るたびにクラスのみんなは早速ジュンちゃんの噂をしてた。

ちょっと前は良い話ばかりだったのに、今日はもう悪口ばかり。

ジュンちゃんが悪いからしかたないけど、友達の立場のわたしとしては辛いよ。

その日は本当に学校で誰とも話さず、幽霊みたいに一日を過ごした。

もしこのままジュンちゃんが不登校になったらリアルぼっち決定だ。

だけどなんだかわたしはメンタルの元気がなくなっちゃって、もうどうでもいいやって感じ。

いいよ、もう。

ぼっちでも別に死ぬわけじゃないし。

わたしの学校生活終了です。


 嫌な事は続く。

その日もママは家にいたんだけど、なんだか忙しそうに荷物をまとめてる。


「あ、ショコ。急でごめんね。仕事でしばらくG県にいかなくちゃいけなくて。すぐ帰って来れるから。ヘルパーさん頼んでおくからお留守番お願いね」


学校でも家でもぼっちなんて、そんなのってないじゃん!


「やだ! ママ仕事ばっかでなんでわたしと居てくれないの!? 仕事のほうが大事なんだ!!」


わたしは珍しく駄々をこねた。ママの出張なんて慣れっこなのにさ。


「もう6年生だけどさ! 親が子供をひとりにするってどうなの!? アメリカなら逮捕だよ!?」


「ショコちゃん……」


ママは怒るかと思ったけど、困ったような悲しそうな顔をしてわたしを抱きしめてくれた。


「ごめんね。ごめんね。ママ、ダメなママだよね。パパが出張だから、家にいないといけないのに」


きっとママは知ってるんだ。

わたしに友達ができてないこと。

クラスでボッチなこと。

けど仕方ない。

もともとママだってこんなに忙しくなかった。

ママの部署? が変わって、大変になったんだってさ。


「ショコのこと大好きだよ。この仕事が終わったら、ちゃんと家にいるようにするから」


そう言ってママは泣いてた。

わたし、知ってる。

ママが今の仕事、本当に好きでやりがいを感じてるのを。

わたし、仕事を頑張ってるママが好き。

ママがわたしを愛してくれてるのもわかってるから、ひとりでも我慢できる。

子供ながらにわたしはママも色んな事を我慢して辛い思いをしてるのがわかって涙がでちゃった。


「さみしいよう! ひとりはやだよ!」


わたしは子供みたいに泣いた。

子供なんだけどさ。

ママも大泣き。


「ごめんね。さみしいよね。ちゃんとするから。ごめんね」


ふたりでたくさん泣いた。

そしたらなんだかすっきりした。

ママが行かなくちゃいけない時間になった時、わたしは半べそかきながらも笑顔で見送った。

ママも鼻水を吸いながら、


「今度一緒に遊びにどっかいこうね。約束するね」


って言って家の鍵が閉まった。

ママを悲しませるの、絶対やだ。

せめてママの前では元気でいよう。

そう思った夜のことだった。



わたしは宿題を終わらせて、スマホで前の学校の友達とラインして眠くなるのを待ってた。

時間は22時。

わたし、夜になると眠くなるほうだからそろそろ寝れちゃう。

ちーちゃんにお休みって送ろうとしたら、突然電話。

ジュンちゃんからだ。

わたしは一瞬心臓がキュってなった。

今日休んだことで、なんかあったんだ。

いったいなんて言ってくるんだろう。

正直、出たくなかった。

しばらくすると一旦電話が切れて、またすぐ着信。

わたしは観念して電話に出る。


「ジュンちゃん? ごめんね、ちょっと眠くてさ」


ドキドキしながらジュンちゃんと話すと、電話からジュンちゃんが泣いてる声が聞こえる。

グズグズ鼻をすすって、何も言わない。


「ジュンちゃん? ジュンちゃんどうしたの?」


胸騒ぎ。

ジュンちゃんになにかあったのか心配するよりも、泣いてるジュンちゃんが怖い。

そしたらジュンちゃんは泣きながらこう言ったんだ。


「ショコちゃん? どうしよう、私、呪われちゃったの」


タワマンに住んでるのに、家の壁がミシッて音を出すのが聞こえた気がした。

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