第6話 太陽の証


――――ゼキの治療を終えた。


そのタイミングでルーンも覗きに来たようだ。

そしてルーンはゼキに何かを話してる?

「エグニルナウヒクスイケズ」

ゼキは不満そうだけど悪いことではないと思うんだが。


そして休憩室に戻れば、ルチアが何か言いたげにこちらに歩いてくる。カルマに背中を押されてやっとのことで口を開いた。


「その……さっきの戦闘で……私だけ突っ走って……あんたに怪我させた。ごめんなさい」

「……」

「次からは、ちゃんとカルマの言うこともあんたの言うことも……聞くから」

「……分かった」

ゼキが短く答える。


「よし、なら次の作戦はふたりが主体となる。ふたりで組み、イェリンに援護してもらう」

「……次はカルマの番だもんね」

「ああ。基地の命運はルチアとゼキの連携如何にかかっている」

「分かったわ。ゼキ……その、私は突っ込んでくことしか知らない。だから……指示をちょうだい」

「……分かった」

ゼキは決してルチアを嫌っている訳じゃない。守るべきものがあるのならやってくれるはずだ。


「イェリンも、ふたりを頼めるか」

「任せて。私は後衛に回ることが多いけど、それゆえによく見える。カルマ、だから安心して武器を取りに向かって」

「分かった」

よし……こっちはイェリンもいるし、次は。


「アディティアと話をしよう、カルマ」

「うん……だけど」

「どうしたんだ?」

「出来るかどうか分からない」

どう言うことだ?早速アディティアの球体に入れてもらう。そしてごく普通にルーンがお邪魔してくる。

「アイアフ!」

『※※※~~~※△◇』

「……?」

その……通じてる?言葉を何か響かせているようだがルーンが完全にハテナに見える。


「とにかく、武器を取りに行くからよろしく!」

カルマが叫ぶがこれ、通じているんだろうか?しかしながらアディティアの遺跡までは遠い。巨人撃破後の比較的情勢の落ち着いている今夜に出発となった。


「もしも続けて襲撃があるのなら、もう来ているはずだ」

「そうだよね、リュウ兄」

「ああ。だから行ってきなさい。リン、カルマ」

『了解』


「エグニル」

「うん、行ってくる。お前も基地を頼んだぞ」

「アイアフ!」


そして夜の大空をアディティアとネフスジエフで飛びながらカルマがポツリと口を開く。


「……俺は、メンバーの中で唯一両親が生きている」

「それは……うん、基地で働いているんだもの」

カルマの両親は基地の技師である。俺はリュウ兄とは血が繋がっておらず両親は分からない。ルチアもイェリンもゼキも家族は喪っている。大切な人も、友人も、故郷も。


「だけど……やっぱり俺をよく思わない目はあるよ」

「どうして……」

「家族を喪って避難してくるひとたち、喪っても最前線で戦うみんな……。彼らからすれば羨ましいんだろうな」

「だからってカルマをよく思わないって何だよ」

「……リン?」

「カルマもカルマの両親も人類のために必死で戦ってんだ。それを見て両親が生きてるから羨ましいだなんて嫉妬するやつがいたら俺が説教する」

「リンが?」


「当たり前だろ?だってカルマは俺の大事な仲間なんだから。みんなもそう思ってる。カルマの両親にも感謝してるんだ」

「……ありがとう。リン。みんなだって……分かってたはずなのに弱気になってしまったな」

「リーダーだって弱気になることくらいあるよ」

「うん……そうだな」

空が白み始めると、その先に背の高い遺跡が姿を現す。


「行こう、リン」

「うん」

遺跡の中は異様に天井が高い。まるで巨人が闊歩できるかのように。

いつも通りアディティアの証の描かれた扉を開けば中に赤毛の長身、肌は褐色な巨人が待っていた。どことなくカルマと良く似ている。


「……アディティア!」

「アムラク、アイアシブ、イエ!」

何だ……?アディティアが炎の槍を構える。敵対しているはずはないけど。

それに神騎を解除したはずがアディティアが起動する。急いで俺もネフスジエフを起動するが、どう言うことだ!?


「アイアシブ、イフシアク!」

その瞬間、アディティアがカルマに攻撃を仕掛けカルマが応戦する。

戦いを始めるなんて、どうして……。いや、違う。アディティアの表情は敵意じゃない。あれは……試してる?


「はあぁぁぁっ!!!」

カルマの一撃がアディティアの頬を掠める。その瞬間、アディティアは満足したように笑む。


「アディティア?」

「アイグナウフツナイェゲフズィニエゴウ、オアホアフ!」

アディティアが自らの炎槍をカルマに手渡す。


「くれるのか、アディティア」

「アイフシュ」

アディティアが笑顔で頷く。しかし何となくなんだけどアディティアって他の神騎たちとちょっとだけ言葉が違わないか?

もしかしたらルーンが首をかしげたのはそこだろうか。しかしながら、言葉が通じずとも拳を交えることで理解し合ったのだ。


「ありがとう、アディティア。必ずこの炎槍を使いこなして見せる」

「アイフシュ」

アディティアとの拳での対話を終え、基地に急ぐ。この分では帰還は昼になる。


「何事もないといいけど」

「うん……でも今の3人なら」

「ああ」

太陽に照らされる基地を目指せば、チカチカと光を放つそこに戦闘が発生していることを掴む。


「……しかも、2ヵ所!?巨人が2体!」

「急がないと!」

「ああ!」


「大きい方がゼキとルチア、小ぶりな方がイェリンか」

さらには獣型まで押し寄せている。


「俺はイェリンの方を、リンはルチアたちを」

「了解!」

急いでルチアたちの救援に向かう。ふたりはしっかりと連携を取っているようだ。ゼキの耐久を活かしルチアが攻撃を仕掛ける。


「ルチア、ゼキ!一旦受け止める!」

「リン!?戻ってこられたのね!」

「了解!」

巨人の攻撃をネフスジエフのバリアで受け止めれば、ルチアが剣を構え直し突撃する。


「トドメよ!」

アテナの剣が巨人を貫き、巨人は朽ちるように崩れていく。

「イェリンの方はっ」

ルチアが急いでもう一方の巨人を確認する。


「はあぁぁぁっ!!」

もう一方でも巨人をアディティアの炎槍が貫き、アルテミスの槍が追撃を仕掛け朽ち果てる。


終わった……?しかしその時大地が鳴動し、もう一体の巨人が現れる。

しかも……でかい。みんな疲弊している。ここは俺とカルマが……っ。


そう思った時だった。


大剣を携えた見慣れぬ白い神騎が巨人を貫き朽ちさせる。嘘だろ……?神騎がもう一騎あるなんて。どうしてかその事実がぐるぐるとお腹の中を巡るように疑問が消えなかった。

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