《ミスティルテイン視点》ひとでなし

Q:自己紹介をお願いします。


「どーも!ミスティルテインにゃ。主に【武器商人】としてプレイしていて、最近の自信作は【本の槌アンクラーゲ】……ってあんたとは付き合い長いでしょ? 今更すぎにゃい?」


Q:趣味はゲーム内で美少年をストーカーすることだと伺ったのですが。あなたにとって、ストーカーとは何なんですか?


「コホン。あたしにとってストーキングというのはね、映画と同じにゃ。成長、恋愛、そして挫折。強敵との戦闘から他愛ない日常生活まで。あたしは、お気に入りの子の人生を、かぶりつきで見ていたいの」


Q:少し変わっていますね。ストーカーというのは恋愛感情のもつれから生じるものと聞くのですが。独占欲や支配欲からつきまとっているのではないと?


「違うにゃ!純粋に他人の人生に共感して楽しみたいだけにゃ!もちろんつきまとう相手は顔で選ぶけど、『好きな俳優の出演作だから観る』くらいの意味しかないにゃ」


Q:では仮に、ストーキングしている相手が女の子と仲良くしているのを見かけたとしても、平静でいられると。

 

「映画を見ていて、主人公が誰かと恋に落ちたら、あんたは嫉妬に狂う? 少なくともあたしは違う。ただ純粋に、応援すると思うにゃ」


Q:じゃあなんでそんな嫌そうな顔してるんですか? 私がクローバーくんと仲睦まじく話していただけで。


「テメェ、近くにいるんだろ!!!変なことチャットで送ってくる暇あったら顔出せやオラ!!!!」


 /


 ミスティルテインが怒号を上げると、空から女の子が降ってきた。


 猫のお面をつけたその子は、風に袖をはためかせながら、猛烈な勢いで落ちてくる。


「あーまずいね。これは死ぬ。落下死しちゃう(笑)」


 のんきな声で話す少女に、ミスティルテインは大きく舌打ちした。


「まったくファンタジックな登場しやがって、手のかかる子にゃ。第Ⅲ類魔術【ふわふわまじっく 『対象:空気』】!」


 ミスティルテインが放ったのは空気の粘度を高める魔術。とろっとした空気が緩衝材となり、落下する少女を受け止める。


「あぁ、自殺しっぱーい。あたしのザーコ(笑)」


 少女は自嘲しながらゆっくりと起き上がった。


 空気のクッションでも落下の衝撃を殺しきれなかったのか、ダメージエフェクトと共に鼻血を散らしている。


 ミスティルテインは回復魔法をかけてやりながら尋ねる。


「今度はなんのコスプレにゃ。商人NPCのマネ?メスガキっぽくって似合ってないにゃ」


「えー、セリフも練習したのに。やーい、お姉さんのザーコ。いい歳してストーカーとか怖~い、ダメな大人(笑)」


「……テ、テメ!ぶち殺すにゃッ!本物のキャットファイトみせたろか??」


「いいよ。やっちゃう?」


 ミスティルテインは大きくため息をついた。


 目の前の少女。名はミネラルウォーター。

 彼女の化け物じみた強さは骨身に沁みて知っている。


 所詮しょせん、自分は武器商人。タイマンで彼女に勝つ姿など、万に一つも想像できない。


「遠慮するにゃ。それより……あんたなんでわざわざ、NPC の仮装にゃんてしてたのよ。クローバーくんにもそれで近づいたでしょ」


 固有ユニークスキル【かみは全てを見ている】。


 ミスティルテインの保有するそのスキルは、自分の体毛と接触しているプレイヤーの挙動を監視するというものだ。そして彼女は、自分が作る武器すべてに体毛を混ぜていた。


 スキルを通してミスティルテインは見ていた。


 ミネラルウォーターが商人 NPC の仮装をして、モヒカン頭のプレイヤーに誘拐されたりのすったもんだを繰り広げつつ、クローバーと接触する様子を。

 

「この姿、日課の自殺にちょうどいいの」


「日課の……自殺……?」


「うん。人身売買をやってるプレイヤーが好んでさらいにくるし。魔物が襲いかかる確率も増すみたいなんだ。なにより、かよわいメスガキの姿で襲われる感覚が……このスリルが、最ッ高に生きてるって感じがする!!」


「……スリルに狂った異常者にゃ」


現実世界リアルでリスカするより安全・安心だよ。君もやらない?」


「やるって言うとでも思ってるのかにゃ??」


 さっきクローバーと話してたときは猫かぶってたくせに。

 自分と会うと、異常性癖を隠そうともしない。

 それだけ自分に気を許してくれてるってことだから、複雑だけど。

  

 まったく。ストーカーの自分が断じる立場にないのは、分かっているのだけれど。


 それでもこいつの価値観は、人間からかけ離れている。


「でもね」


 ミネラルウォーターが言葉を継ぐ。


「知っての通り、今日の夕方、自殺に失敗したんだ。人身売買やってるプレイヤーに拉致らちされたんだけど、クローバーくんに救われたの。それはもう、颯爽と」

 

 なんか恥ずかしいね、と笑うと、ミネラルウォーターは火照ほてった顔を扇ぐように、袖をぱたぱたと振った。


 唇を噛み、もじもじしている。頬に赤みが差し、仕草だけみれば、いじらしい女の子。


 だけど透き通った青い瞳だけはあやしい光を放っていた。


「クローバーくんと分かれてから、何回か自殺を試してみたんだけど、全て未遂に終わった。この状況……あのときと同じなの。君も知っているあのときと」


 次第に熱を帯びるミネラルウォーターの言葉。耳を傾けながら、ミスティルテインはまぶたを閉じる。目に浮かぶのは過去の記憶。


 ミネラルウォーターと "トモダチ"との出逢い。それが引き起こした、ゲーム全体を揺るがす事件の顛末てんまつ、そして末路。


 思えばあれからだった。ミネラルウォーターがおかしくなり始めたのは。


 事件のさなかのあの頃の、純真な少女を思い浮かべる。あの頃の面影は、彼女にはもうない。


「だからこれは運命の出会い。あの子はトクベツなんだ。あの子のためならなんでもしてあげる。お砂糖だってしてあげる」


 ミスティルテインはまぶたを開ける。

 

 【お砂糖】ってなんだにゃ、と聞こうとして、やめた。きっと昔のゲーム用語か何かだろう。


 まあ、ミネラルウォーターの艶やかに歪んだ唇を見るに、ろくでもない意味であることは確かだ。

 

 返事をしないミスティルテインのことは意にも介さず、彼女はなおもまくしたてる。


「だからさっ、サービス終了まで、私はあの子と一緒なの!ずーーっと一緒!」


 あぁ、だから嫌だったんだ。


 クローバーがこのひとでなしミネラルウォーターと出逢うのは。


 ミネラルウォーターは頭のイかれた底なしの闇だ。

 彼女ひとりが沈むのなら別にいい。だが、クローバーが危険だ。


 ミスティルテインは映画を見るのと同じ感覚でストーカーをしている。

 映画のジャンルに好き嫌いはない。

 ラブコメも好きだし、サスペンスも良い。ちょっとしたホラーが混じるのも好みだ。


 だが、バッドエンドだけは許せない。


 だからミスティルテインは、決意に拳を固める。

 エンディングを守るための戦いストーキングに、覚悟を決める。

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