ペンドレイン残影録

DVF

第一章

第一章 第1話 金色の行軍

王暦一一八四年、早秋。

ペンドレイン王国王太子、フィリオン・ペンドレインは巡察を名目に、西境最大の城――アルノ城に滞在している。


金色の陽光が野に満ち、銀と湖藍色の軍装をまとう近衛軍は、まるで王家の儀仗のように整然と行進している。

「前方は、アルノ城の旧猟場か?」

王太子色の金赤のマントを掛けている、フィリオン・ペンドレインが眉を上げ、面白そうに目を細める。

「面白そうだな。ちょっと様子を見に行こうか。」

「殿下、あの森は地形が複雑で、盗賊が出没する場所です。」

少し躊躇いながら、マゼル・アルノー――アルノ城の跡取り息子であり、フィリオンの幼馴染が進言する。

「盗賊風情が、この余に手を出せるとでも?」

フィリオンは笑いを含んだ目でマゼルを見下し、馬の首を軽く引く。

旗が翻り、馬蹄の音が軽快に響く。

誇り高い貴族の少年たちは、勢いよく森へと向かう。


森はすぐ目の前に迫っている。

荒れ草は腰のあたりまで伸び、丘の片側には、松林の影に紛れた天然の溝がいくつも走っている。

「ずいぶん静かな森だな。」

王太子フィリオン・ペンドレインの声が、軽く森の空に響く。

「マゼルの心配は大袈裟だったようだな。盗賊なんて――どこにも見当たらん。」

それに対し、マゼル・アルノーは沈黙したまま、ただ頭を垂れている。


馬蹄の音が妙に軽い。土は締まっているはずだ。だが足跡は不自然に深い。そのうえ、ある一角では泥濘がまだ乾いていない。

言いようのない不気味さが、風に乗って全身を撫でていく。空気の中には、さまざまな匂いが混じっている。土の匂い、鉄の匂い――そして、油が焼け落ちた後に残る、焦げたような残滓。

近衛軍隊長格の少年は馬腹を軽く蹴り、列の前方へ出る。眉をひそめ、低い声でひと言う。

「隊列を分散。間隔を取れ。」

「……なぜだ?」

フィリオンが眉を上げる。

「静かすぎる。」

少年は淡々と答える。

王太子は鼻で笑い、警告を軽く受け流す。だが、反論する様子はない。もしかすると、彼の頭の中は別のことで埋まっているのかもしれない。


その声が隊列にいる栗色髪の少女の耳に届くと、彼女は鼻で笑う。

フィリオン、やはり気とっただけな男だ。

唇がわずかに尖る。

マゼル・アルノー、実力がある、とは聞いている。いつか一度、手を合わせてみたいとは思うが、フィリオンのわがままにただ従っているように見える限り、大したことはない。

その周囲の隊員たちも、貴族のお坊ちゃんや腰抜けばかりだ。

マーレインは視線を巡らせ、うんざりした顔を隠そうともしない。


彼女は首をわずかに傾け、合図を送った少年へと向ける。

その一目で、さらに不機嫌になる。

あの少年の名前は、デミアン・フォン・フラエロス――彼女の直属の隊長。

実力は確かだが、寡黙で冷たく、何を考えているのか掴みにくい。

マーレインは鼻で息を洩らし、そっぽを向く。

なぜ自分がこの随行に名を連ねているのか、彼女自身にも分からない。

尋ねる相手もいない。

どうせ自分は、誰にも顧みられない私生の王女。

近衛軍にとっては、遊び気分で扱われる、面倒でわがままな存在に過ぎない。

風が強くなり、髪が乱される。

いつの日か、王室に自分を認めさせる。

そう、密かに誓いを固め、彼女は黙ってマントを握り締める。


陽光は変わらず降り注いでいるが、風だけが、いつの間にかその性質を変えている。

危機はすでに、彼らの背後にあった。

ただ、それに気づいている者は、まだいない。


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