第4話 平方根の代償

 36の報告を受けて、ぼくと12は革命本部のある建物へ、走りながら話す。


「シィ、さっき言ってたろ?  奴らが使ってる概念。なんて言ったっけ?」


「<平方根>だよ。同じ数を掛けて目的の数になるように計算する。例えば4の平方根は2と−2だ」


「なるほど……だが、あまり脅威に聞こえないな」


 12の無理解に、ぼくは首を振る。


「今のは4の平方根だから単純なんだよ。素数が平方根を使うと、一気に話が変わる。例えば3の平方根は――1.7320508075……こんな感じで数字が永遠に続く」


「え、じゃあ、おれは?」


 12が不安そうに聞く。


「きみの場合……3.464101……」


 ぼくは頭の中で計算し、口に出した。


「すげぇ! おれも神様の仲間入りってことか?」


 12は嬉しそうだが、ぼくは首を横に振る。


「残念だけど違う。見た目は無理数に見えるけど、きみは4と3で因数分解できる。つまり“2√3”って表現できるんだ。2の支配に加え、3の平方根の権限は3に奪われる」


 いくら小数が続いても、因数分解できる数字は<素数の支配>から逃れられない。それがこの世界の法則であり、素数貴族の強さの根底だった。


「くそ! どこまでいっても2と3か!」


 12は歯ぎしりする。子が親を選べないように、数字も因数を選べない。生まれながらの構造は、どうやっても変えられない。


 ――だが。


「なあ12。革命軍の中に、平方根を利用することで世界を覆せる特別な数字がいるとしたらどうだ?」


 ぼくは小声で言う。


「世界を……?」


 12は足を止め、ぼくを真剣な眼で見つめる。


「あぁ。ぼくの予想が当たっていれば――その力はこの数次空間そのものを変質させるほどの大事件になる。πを頂点とした新しい支配階級すら生まれない。まさに、きみたちが望む革命だ」


 ごくり、と12は唾を飲む。


「というわけで……キーマンのところに行こう」


 ぼくは再び歩き出す。12も急いで後を追う。


「シィ、そのキーマンって誰なんだ? おれたちの仲間だよな?」


「え、まだ分からないのか? じゃあ、あとのお楽しみだ」


 ぼくは意地悪そうに笑った。



 ――ドン!!


 革命本部のすぐ近く、突然の爆発音。通りの向こうで黒煙が上がった。


「あれは……本部のほうだ! 貴族どもの攻撃か!?」


 12の顔に緊張が走る。


「分からない、とにかく急ごう!」


 駆け足で革命本部へ向かうと、悪い予感は的中。爆発の中心は革命本部だった。瓦礫が散乱し、同胞たちが倒れ、泣き叫び、地獄のような光景が広がっている。


「どうした!? 何があった!?」


 近くに倒れていた7266普通のモブに駆け寄り声をかける。


「わから……ない……突然、爆発して……」


 7266はそこで意識を失った。幸い因数分解は起こっていない致命傷ではなさそうだ。少し休めば元気になるだろう。


「シィ! あれを見てくれ!」


 12が指差した先――そこには黒い空洞が渦巻いていた。

 それを見た瞬間、ぼくは悟った。


「そうか……もう試したのか」


「試した? 何をだ?」


 パニック状態の12に、ぼくは静かに告げる。


「――虚数空間の生成だよ」

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