問題点

 地面に埋まった二人を、仁王立ちで見下ろすルナリア。


「どれだけ心配したと思ってるのよ!急に来なくなって、里の皆も私もずっと待ってたのよ!?確認しようにも深層までいけないし!本当に本当に心配したんだから!あなた達が死んだと思って、泣いていた人だって、落ち込んでる子だっていたんだからね!!」


メルクリスもウンウンと頷きながら、ルナリアの話を聞いている。


「もう、かえってごないんじゃないがっでぇ不安だったんだがらぁ」


ルナリアの瞳から涙が流れ始める。


「いぎでて、よがっだぁ」


ついにワンワンと幼子のように泣き始めた。ここ一年、張りつめていた緊張の糸が切れた瞬間だった。


 しばらくして、ルナリアが落ち着き誠たちが頭を引き抜いて土下座していた。ずっと成り行きを見守っていたメルクリスが咳払いした。


「さて、そろそろ本題に入りますね」

「本題ですか……?」


ルナリアが赤い目をこすりながら、メルクリスを見る。


「えぇ。お二人さすがに今回は無理をしましたね。いや、本当。少し目を離してたらこれですよ」

「すみません」

「申し訳ない」


二人とも土下座の体勢を崩さない。


「現在、エルフの里で治療中のお二人の体ですが、傷に関しては問題なく治るでしょ

うし、あと数日もすれば目を覚ますでしょう」

「さすがの生命力ね」


ルナリアが先ほどまで泣いていた目で、呆れ気味に二人を見る。


「問題は、欠損した両腕と両足です」

「そういえば、攻撃を受けきれなかったんだよな」

「足が俺の攻撃に耐えきれなかったんだよな」


メルクリスが、胃をさすりながら続ける。


「正直、欠損部位をもとに戻す手立てがないんです。お二人はその状態で勇者たちと戦えますか?もし戦えないなら、一度こちらで……」

「何とかなると思います」


誠が、メルクリスの言葉を遮って断言した。


「どういうことです?」

「実は、樹海で生活してるときに気づいたんですが、俺たち傷を負っても、二人でいると傷の治りが早いんです。以前の大侵攻の際も腕が炭化してましたが、数日後には治っていました。その時も俺たちは同じ病室。距離が近かった。それで、樹海で試してみたんです。戦いで傷を負った際、徹に触れると傷がきれいに消えた。俺たちの治癒能力は二人の距離が関係しているのではないかと……」


誠の説明にメルクリスは眉根を寄せている。


「しかし、誠さんが徹さんを背負っている間、お二人の腕や足は元に戻ってません」

「確かにそうです。ですが私たちは、メルクリス様に呪われて本来の能力が出せていない。もしこの治癒能力が、私たちの身体機能なら解呪によりその効果が上がる可能性があります」

「それでだめなら、義手と義足でどうにかするしかないな。確か解呪ってそろそろのはずだよな?」

「えぇ、あと数日中に解呪されるはずです」

「そこに賭けよう」


メルクリスは、考え込むもそれ以外に手だてが見つからない。


「分かりました。では、それでもだめだった場合の対応はこちらで考えます。場合によっては使徒ではなくなることも覚悟してください」

「「はい」」


メルクリスは返事をする二人を悲しげに見つめる。


「本当に無茶しないでくださいね」


そう告げると、大きく手を叩く。パンという乾いた音共に、白い部屋が遠ざかっていった。ルナリアは、ガバッと勢いよく起き上がる。見回すと診療所の部屋だった。手で頬に残る涙の痕に触れる。腫れぼったい瞼と涙の痕が、アレは夢ではないと語っていた。窓を見るとすっかり夜遅くなっている。ルナリアはベッドから降り、そっとドアを開ける。暗闇が続く廊下は、嫌に不気味な雰囲気だ。ルナリアは、記憶をたどり誠たちの運び込まれた部屋へと向かった。



 部屋にたどり着き、扉を開く。誠と徹が二つのベッドで寝ている病室で、ルナリアは誠のベッドを押し徹のベッドにくっつける。大きく息を吐き、額を拭う。ルナリアは椅子を引っ張り出し、二人の寝顔をただただ眺めていていた。

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脳筋使徒の異世界巡業 鳥飼 空 @t_sora

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