第28話

激突! 宇宙の筋肉 vs 地上の猛虎

「赤コーナァァァ!!」

 レフリーシャツに着替えたユアが、リング中央で高らかに叫ぶ。

「身長2メートル10センチ、体重145キロォォ!

 重力とお友達! 全宇宙プロレス連盟(自称)ヘビー級王者ぁぁぁ!

 ガァァァァイ・マァァァァックス!!!」

 ドガァァァン!!

 入場ゲート(ルナが土魔法で作ったアーチ)から、派手な爆炎と共に巨体が飛び出した。

「マッスゥゥゥル!!」

 ガイマックスは花道を歩きながら、観客一人一人に筋肉を見せつけるようにポーズをとる。

 大胸筋をピクつかせ、上腕二頭筋にキスをする。

「うおおおお! でけぇぇぇ!」

「なんだあのテカテカした体は!? オイルか!?」

「抱いてぇぇぇ!」

 女性客(一部のマニア)からの黄色い声援も飛ぶ。

 ガイマックスはトップロープを軽々と飛び越えてリングインすると、四方に向かって咆哮した。

「聞け、迷える子羊たちよ! 筋肉は裏切らない! 筋肉こそが真理だ!」

「……相変わらず暑苦しいな」

 リングサイドで見守る俺は苦笑した。だが、客の掴みはバッチリだ。

 なけなしの金貨1枚(借金)を払った甲斐がある。

「対するぅぅ、青コーナァァァァ!!」

 ユアの声がワントーン下がる。

「今日の晩飯のために魂を売った男! ナグモ領の飢えた猛獣!

 ワァァァァイガァァァァ!!!」

「ガァァァァァッ!!」

 反対側のゲートから、四つん這いの姿勢でワイガーが飛び出した。

 自慢の大斧は持っていない。上半身裸で、己の爪と牙のみを武器にしている。

 その瞳は血走っていた。殺気ではない。「空腹」だ。

「肉ぅぅぅ! 勝って肉を食うんだぁぁぁ!!」

 ワイガーはリングに駆け上がると、コーナーポストに爪を立てて威嚇した。

 観客がどよめく。

「おい、あいつ武器なしかよ?」

「正気か? あの筋肉ダルマ相手に素手で勝てるのか?」

 不安の声が広がる中、二人の巨人がリング中央で対峙した。

 見下ろすガイマックス。

 睨み上げるワイガー。

「いい目だ少年。ハングリー精神ってやつだな」

「うるせぇ。テメェを倒せば『特上カルビ食べ放題』なんだ。邪魔するなら噛み砕くぞ」

「やってみろ! 俺の大胸筋は鋼鉄よりも硬いぞ!」

 二人の顔が近づき、額と額がぶつかり合う。バチバチと視線が火花を散らす。

 ユアがその間に割って入った。

「ルール確認! 目潰し、金的、噛みつきは反則! 3カウントとられたら負け! あと、あたしに触れたら罰金金貨10枚ね!」

「おう!」

「グルルッ!」

 ユアがサッと手を引く。

「レディー……ファイッ!!」

 カァァァァン!!

 ゴングと同時に動いたのは、ワイガーだった。

「シャァァァッ!!」

 速い。

 獣人特有の瞬発力で懐に潜り込み、鋭い爪を振るう。

 シュッ! シュッ!

 空気を切り裂く連撃が、ガイマックスの腹筋を襲う。

「効かぬぅ!!」

 バシィッ!!

 ガイマックスは避けない。あえて腹筋で受け止めた。

 金属音が響く。ワイガーの爪が弾かれたのだ。

「なっ……!?」

「プロレスラーはな、技を受けてこそ輝くんだよ!」

 ガイマックスが剛腕を振るう。

 丸太のような腕がワイガーの首を狙うが、ワイガーは身を屈めて回避。

 そのまま背後に回り込み、強靭な尻尾でガイマックスの足を払った。

「おっと!」

 体勢を崩すガイマックス。

 ワイガーはその巨体にしがみつき、バックをとった。

「投げ飛ばしてやる! うらぁぁぁぁ!!」

 全身のバネを使って、145キロの巨体を持ち上げようとする。

 だが、ガイマックスは不動の大木のごとく動かない。

「重力(ウェイト)を感じろ!」

「くっ、重ぇ……! なんだこいつ、岩かよ!?」

「甘いな! 俺の番だ!」

 ガイマックスが腰を落とし、逆にワイガーの体を後方へ投げ飛ばした。

 ヒップトスだ。

 ドォォン!!

 ワイガーがマットに叩きつけられる。

 しかし、すぐに猫のように回転して着地。

「まだまだぁ!」

 ワイガーがロープを蹴って加速する。

 ガイマックスも呼応して走る。

 リング中央で、二人の巨体が激突した。

 ドゴォォォォォン!!

 衝撃波が客席まで届く。

 力比べ。

 四つの腕が組み合い、互いに押し合う。

 筋肉が軋み、血管が浮き上がる。

「うおおおおおお! すげぇ迫力だ!」

「いけぇぇぇ虎野郎!」

「押し返せ筋肉ゥゥ!」

 観客総立ち。

 俺は拳を握りしめた。

 これだ。この熱狂だ。

 殺し合いじゃない、純粋な力のぶつかり合いが、人々の魂を揺さぶっている。

「へっへっへ……楽しませてくれるじゃねぇか!」

 組み合いながら、ガイマックスが笑う。

「テメェもな……! 硬ぇ肉だぜ……!」

 ワイガーもニヤリと牙を見せた。

 二人の間に、奇妙な友情(?)が芽生え始めている。

 だが、勝負はこれからだ。

「そろそろ大技(ビッグマッチ)といこうか!」

 ガイマックスが目を光らせた。

 ショータイムの始まりだ。

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