第8話 推測
ベルセルの冷静な声が法廷に響いた。
「……ただし、これは“決定的な証拠”にはなりません。
あくまで ミヒドさんがペンシルさんを攻撃できる可能性があった、
というだけの証明です。」
紅蓮側の席がざわつく。
だがペンシルだけは——
ずっと笑っていた。
まるで勝利が確定しているかのように。
ベルセルはその様子を横目で見ながら、ふと質問を投げた。
「そういえばペンシルさん。
ミヒドさんのギフトはどのようなものだったのですか?」
ペンシルは胸を張り、得意げに言った。
「一瞬しか見ていませんが……
確か、骸骨やゾンビを操っていましたね」
その瞬間、ベルセルの瞳が鋭く光った。
「——おかしいですね」
ペンシルの笑みが止まる。
裁判所の空気が一瞬で張りつめた。
ベルセルはゆっくりと、だが確実に追い詰めるように続けた。
「なぜ “一瞬しか” 見ていないのですか?」
ペンシル「……は?」
「あなたは“攻撃された”と主張したはずです。
ならば、何度も見ているはずでしょう?」
言葉は淡々としているが、鋭さは刃物のようだった。
「攻撃を受け、身を守るなら、
相手のギフトを観察する時間は十分にあるはずです。
それなのに——“一瞬しか見ていない”?」
ベルセルはペンシルの目をまっすぐ見据えた。
「ペンシルさん。
あなた、ミヒドさんのギフトを実際には見ていないのでは?」
ペンシルの顔から血の気が引いていく。
周囲の冒険者も騒ぎ始めた。
「え……?」
「見てないって……どういうことだ?」
「じゃあ……攻撃されたって話は……」
ベルセルはさらに続ける。
「“一瞬しか見ていない”という表現は、
本来 見ていない者の発言 です。」
ペンシルの喉がごくりと鳴った。
ベルセルは裁判官席に近づき、淡々とまとめる。
「よって私は疑義を提起します。
ペンシルさんは攻撃されていない可能性が高い。」
裁判所がざわめきに包まれる。
フィンクスが頭の中で笑った。
「ほう……面白い展開になってきたじゃないか、ミヒド」
ミヒド(……この流れ……逆転できる……!)
ベルセルは完全に立場を変え、ミヒドのほうを向いた。
「ミヒドさん。
反証——ありますね?」
ミヒドはゆっくりと顔を上げた。
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