現実世界・都市②

***


 ​私と龍王坂健は、そのまま【沼】のゲートへと足を進めた。


 沈黙に耐えかねたのか、それとも覚悟を固めるためか、彼がぽつりと問いを投げかけてくる。

「【悪魔】というのは……結局、どういう存在なんですか?」

 私は視線を前に向けたまま、淡々と事実を並べた。

「【悪魔】は――お父様が【遊戯】の正式始動前に、実験的に【能力】を授けた三人のうちの一人よ」


 息を継ぐ。


「絶対的な零度を操る、あまりに強力すぎる権能。さらに不可解なのは、奴が個人で【沼】のゲートを所有し、世界線を自由に渡り歩いていること……。奴はその先々で、呼吸をするように大量殺戮を繰り返しているわ」

「世界線を移動……。だから俺とアドミラグさん、別々の世界にいたはずの両方の家族が殺されていたわけですね」

 龍王坂の震える声に、納得の色が混じる。

 因縁の糸が、時空を超えて一本に繋がった瞬間だった。

「……判明しているのは、それだけですか?」


​「噂では、二人の懐刀を連れているという話よ。一人は【糸】を操る権能の使い手。もう一人は……正体、能力ともに完全な不明。霧を掴むような話ね」

「能力者ということは、奴らもこの【遊戯】の参加者なのか……?」

「いいえ。何もかもが不透明なの。ただ一つ言えるのは、奴はルールを無視した『バグ』そのものだということよ」

 それ以降、私たちの間に言葉は無かった。

 ​湿り気を帯びた路地裏を、幾度も折れる。


 迷路のような細い道を、曲がり、曲がり、さらに深くへ。

 都市の喧騒が遠ざかり、代わりに肌を撫でる大気が異質な重みを帯びていく。


​「あの……これ、本当に道は合っていますか?」

 不安げな問いを無視し、私は最後の一角を曲がった。


 そこには、現実の空間を強引に引き裂いたような「異質」が口を開けていた。

「これが――【沼】のゲートよ」


​「……ここから、別世界へ」


 ​私は足を止め、龍王坂の方へと向き直った。

 奈落のような闇を背負い、彼の瞳に宿る【火】を確かめるように問いかける。


​「準備は、いいかしら?」

「――とっくの昔に、済ませていますよ」

 微かな笑みを交わすこともなく、私たちは闇の淵へと足を踏み入れた。

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