断章 文々悠里②
***
僕は目覚めた。
まだ、深い夜の底だった。
我ながら、少し泣けてくる。
ついこの間までは、一度眠りにつけば丸一日くらいは泥のように眠り続けられたはずなのに。近頃は、どうにも眠りが浅い。
「おかしいなぁ……」
いや、理由は分かっているのだが。
独りごちて、緩慢な動作でベッドから起き上がる。
その瞬間、ふいに、肌を刺すような冷気が部屋に満ちた。
「んー……? 冷房、つけっぱなしだったかな……」
……いや、違う。
この身を切るような感覚には、覚えがある。
アドミラグさん、死んだんだ。
ようやく死ねたんだね、あの人は。
僕の【事象を断つ剣】を以てしても断ち切れなかった、あの忌々しいほどに強固な不死性。
一体、誰がそれを終わらせたんだろう。まさか、ムダミラさんじゃないだろうな……。
「……まあ、別にどうでもいいんですけど」
そういえば、あの人は会うたびに僕にチョコレートをくれた。
確か、庶民には手の届かないような高級品だった気がする。
美味しいものをくれる人は、嫌いじゃない。
だから、あの人のことも別に嫌いじゃなかった。
それにしても、本当に死んでしまったのか。
あの、世界から見放されたような男が。
想像もつかないな。
どうして死ねたのか。どうして、そこまで死にたくなったのか。
すべては僕に関係のないことだし、僕がいくら考えたところで、正解に辿り着くことはない。
だったら、思考を止めて、再び眠りにつくことに時間を使うべきだ。
「……こんばんは」
もう一度ベッドに沈み込もうとしたとき、澄んだ女性の声が鼓膜を叩いた。
……誰だろう。
少なくとも、僕ではない。
ということは僕に向けられた言葉ではないはずだ。
そう謎の完璧な理論で自分を納得させて、僕は強引に意識を夢の入り口へ運ぼうとした。
「……悠里さん」
僕だった。
「…………どちらさまですか?」
仕方なく上体を起こして視線を向けると、そこにはひどく小柄な少女が立っていた。
その立ち姿、そして空気感。
どこか、記憶の隅に引っかかる奇妙な既視感を纏っている。
「私は――チョコレイト=アドミラグです」
「……えぇ?」
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