断章 【神】④
***
「……龍王坂健が、【悪魔】の存在に触れたか……」
【悪魔】。
それは、この【遊戯】の歴史において唯一、あらかじめ定められた【日記】を裏切り通した男。
この遊戯の筋書きは、そのほとんどが『出エジプト記』をなぞった【日記】に従って進行している。
休息の時は【安息日】として。
物資の補給は天からの恵み【マナ】として。
降りかかる試練は、具現化された【十の災い】として。
だが、【悪魔】という因子だけは、聖書のどこを探しても見当たらない。
彼はシステムそのものである【日記】を、そして支配者たる【沼】を、徹底して裏切り続けてきた。
一時は、彼にこそ現状を打破する希望を見出したこともあった。……だが、それはあまりに致命的な見当違いだった。
あいつは、異常だった。
他者を「異常」と断じる私ですら戦慄するほどの、深淵のごとき異常性。
奴は、呼吸をするように殺人を犯す。
だが、奴は決して快楽殺人者などではない。むしろ、殺人を嫌悪してさえいるだろう。
奴が命を奪う理由は、あまりにも身勝手で、あまりにも純粋な「こだわり」に過ぎない。
身につけている服の柄が、奴の嫌いなものであれば、その人物ごと世界から葬り去る。
咥えている煙草の銘柄が、奴の愛用するものと違えば、それだけで死を与える。
その程度の、だが揺るぎない「欠陥」だ。
あいつの前に立てば、この私ですら、気まぐれに消し飛ばされるかもしれない。
そもそも、化け物と呼ばれる連中は、一様に「異常」だ。
そしてその異常とは、何かが他者より優れていることを指すのではない。
むしろ、人間として決定的な何かが「欠落」していることを意味する。
文々悠里には、「人間らしさ」が欠落している。
龍王坂健には、「人並みの幸福」が欠落している。
アドミラグには、「生存本能」が。
カルム・アルビダには、「理性」が。
そして――【悪魔】には、その全てが欠落している。
【悪魔】は全てを破壊する。
それは【冒涜】の文々悠里をも、成長途上の龍王坂健をも、赤子の手をひねるように一蹴するほどの暴力。
だが、その力は私にとって、決して好ましいものではない。
何より厄介なのは、【悪魔】が現実世界においても殺戮を厭わないことだ。
【遊戯】の内部であれば、システムによって「死」は管理され、ある種の保護が働く。だが、現実世界にはそんな守護など存在しない。
……やはり、私が動かねばならないのかもしれない。
予定調和の破滅が、すぐそこまで迫っている。
そして、その破滅は私の望むものではない。
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