二章:森林編
序幕
ある日【Pattern 龍王坂健】
***
これ以上ないほどに澄み渡った青空。窓から差し込む陽光は、まるで世界が俺を祝福しているかのように温かい。
朝のルーティンである一杯のコーヒー。豆を挽く芳醇な香りが、満ち足りた心にさらなる安らぎを添える。
俺、
父と母の死から、苦節十年。
ようやく、彼は人生を楽しめるようになった。
愛してやまない最高の婚約者がいて、心血を注いだ会社はかつてないほどの快進撃を続けている。
富、名声、そして何より揺るぎない愛。手に入れたかったものすべてが、今、この手の中にあった。
あまりの幸福に、時折怖くなることすらある。この完璧な調和がもし崩れるようなことがあれば、俺という人間は形を保っていられないだろう。
その時、テーブルの上のスマートフォンが歓喜を告げるように震えた。
「――っ、彼女からか!」
焦る心を押さえ、震える指先で応答ボタンをスライドさせる。スピーカーから漏れ聞こえた一言に、俺の心臓は爆発せんばかりの鼓動を刻んだ。
「!? 本当か……! 本当に、生まれたんだな……!!」
視界が熱い涙で歪む。体中の細胞が歓喜に震え、魂が肉体を離れて天高く舞い上がるような、強烈な万能感に包まれた。
重力さえもが俺を祝福し、その手を離したかのように体が軽い。
それは、愛する彼女と俺の絆が生んだ、新しい命の産声だった。
「お祝いだ……いや、そんなことより、まずは顔を見ないと。一刻も早く!」
沸騰しかけたケトルも、あんなに楽しみしていたコーヒーも、もはやどうでもよかった。俺は靴を履く時間さえ惜しむように、弾かれたように家を飛び出した。
風を切って走る俺の胸には、誇らしさと、彼女への底知れぬ感謝、そして未知なる命への震えるような愛おしさが渦巻いている。
間違いなく、今、この瞬間。
俺は世界で一番、幸福な男だった。
だから、そんなに警戒もせず、俺はそれに触れてしまった。
「……なんだ、これ? 【沼】……?」
そう思った瞬間、突然【沼】が蠢き出し、俺の体を包み始めた。
「な、なんだ、これは!! だ、誰か、助けて、助け、くれっ」
***
気がついた時には、俺は薄暗い、部屋にいた。
その中心には、顔を渦巻かせた、シルクハットな男。
「おはよう、龍王坂健くん。君には、私の主宰する【遊戯】の参加者になってもらおう」
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