4日目・庭園①
***
隣で幸せそうな寝息を立てる黒い球体を尻目に、私は思考を巡らせた。
この【遊戯】の参加者は計十名。
結城香澄、アルジェ、ムダミラ、文々悠里、ポニーテールの女、少年、そして私。
これまでに確認できたのは八名だ。残る二人が一度も姿を現さないのは、すでに物言わぬ骸と化しているからか。あるいは、悠里の言う『ヤバいヤツ』がその二人の中に潜んでいるのか。
もう一つの懸念は、生命線である物資だ。
総則第六条には『物資は一日の終了時に補給される』と明記されている。
だが、遊戯開始から今日まで、一度として補給が行われた形跡はない。
今はまだ野山に自生する木の実などで飢えを凌げているが、それも時間の問題だ。
悠里が死体から肉を削ぎ、生食していたあの異常な行動さえ、極限の空腹が生んだ生存本能の現れだったのかもしれない。
導き出される答えは一つ。
「一刻も早くこの遊戯を終わらせる必要がある。そして、その鍵は文々悠里が握っている」。
だが、肝心の鍵は『ヤバいヤツ』への警戒と、底なしの怠惰を理由に動く気配が全くない。
――ならば、強硬手段に出るしかない。
私は決意を固め、沈みゆく夕陽を見上げた。
気づけば空は、不吉なほど深い闇に塗り潰されていた。
***
翌朝。私は現状を打破する糸口を求め、周辺の探索に出た。
アルジェたちが向かった方向とは真逆。人跡未踏の地を歩き続けていた時、カラスの群れが騒ぎ立てている異様な光景に出くわした。
その中心に横たわっていたのは――。
「……っ……」
吐き気を堪え、私はその惨状を凝視した。
渦巻く顔面を持つ三体の異形。それは【神】に類する高位の存在の成れの果てか。
そしてその傍らには、カラスに食い荒らされた、物資と思われる籠が転がっていた。
補給が届かなかった原因はこれか。
死骸の断面を見れば、それが何者かの手によって細かく、執拗に切り刻まれたことが分かる。使われたのは【刀】か、あるいは【包丁】か。
「ヤバい……ヤツ……?」
予感は確信へと変わる。これは『ヤバいヤツ』の仕業だ。
そいつの目的は、参加者の殺害か、あるいは遊戯そのものの破綻か。
いずれにせよ、私もまた獲物の一人に過ぎない。背筋を凍らせる冷たい戦慄が走り、私は悟った。もう、悠里を眠らせておく猶予などないのだと。
***
「うええ!? な、なんですかここはっ!?」
「……ようやくお目覚め?」
縄で引きずっていた球体から顔を出した悠里に、私は心底うんざりした声を投げた。
「……まさか、僕に本体を倒させるために、無理やりここまで運んで来たんですか?」
「あなたの言う『ヤバいヤツ』が、安全地帯のすぐ側まで来ていたのよ。だったら、あなたは『ヤバいヤツ』と正面衝突するより、本体を殺して遊戯を終わらせる方を選ぶでしょう?」
「……それは確かに、そうですが……」
悠里は不満げに頬を膨らませた。その姿はどこからどう見ても、生意気な小学生にしか見えない。
「……分かりましたよ。本体の部屋までは、基本的に一本道です。あなたが無事に僕をそこまで運んでくれたなら……本体の討伐『だけ』は協力してあげます」
小学生もどきは投げやりにそう告げると、再び球体の中へと頭を引っ込め、幸福な眠りへと逃避してしまった。
私は、眼前に口を開ける昏い洞窟を見据える。
ここから先、頼れる者はいない。私が積み上げてきた戦略も、掻き集めた情報も、この混沌の前では紙屑同然の価値しかないのかもしれない。
私は拳を固く握りしめ、冷えた空気を肺いっぱいに吸い込んだ。
終わらせる。何があろうと。
この、呪われた【遊戯】を。
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