ハーレムと思っていたら、女友達全員TS転生者でした!?
忌井ふるい
誕生日プレゼントは衝撃の告白!?
今日、九月一日は俺こと
この世に生を受けて十六年目、女友達が多いこと以外は至って普通の人生を送ってきた。
いや、女友達が多いというのは中々のアドバンテージだ。
中学校にあがれば、自然と距離が生まれるものだと思っていたが、何故か今に至るまでその関係値は変わっていない。
それを象徴するように、俺は今、女友達三人と野郎一人に囲まれている。
「おめでとう」
「おめでとうございます」
「はっぴーばーすでーい」
「おめでとさん」
拍手を伴って、教室で盛大に祝ってくれている傍では、嫉妬交じりの視線が向けられている。
高嶺の花を両手に抱え、おまけにもう一つ口にくわえているのだから顰蹙を買うのも致し方ない。
「物心がついてから今に至るまで、勝吾の成長を見届けてきた身としては感動の一言に尽きるわね」
「お母さんかよ」
幼馴染であり、勝手に姉御面をしているのが
トレードマークである黒のロングヘアは優等生らしさを強調している。
成績優秀、容姿端麗、運動神経抜群とまるで非の打ち所がないリアルチートスキル持ちの美少女で、常日頃から校内に潜むハイエナに狙われている。いつも傍にいる二枚目ボディガードに恐れをなしてか、実際に手を出してくることはないが。
ちなみに、得意科目は英語で、その他にも数十もの言語を操ることができるだけでなく、様々な国の文化や伝統にも精通している。
今日も誕生日プレゼントに、お手製のドリームキャッチャーという北アメリカの御守りをもらった。
輪っか状にした枝に糸を張って、蜘蛛の巣に見立てているらしく、悪夢を捕まえてくれるそうだ。
迷信なんて信じていないが、折角なので鞄にキーホルダーよろしく付けさせてもらった。
「勝吾さん、あなたがこうしてこの世界に産まれてきたことは奇跡なのですよ。まず、地球の成り立ちからして天文学的確率であり……」
「長い長い。分かった分かった。要するに、運命ってことだろ。」
丁寧な口調で生の奇跡を説いているのは、
父親が名医で、代々病院を経営している。
茶髪にハーフアップと、まるでどこぞの国の貴族のようだ。
そんなお淑やかなお嬢様が、俺のようなやさぐれ者の傍にいるのか疑問である。
ちなみに、誕生日プレゼントは万年筆。
使いどころには悩むが、インテリアとして飾るのも悪くはないだろう。
「二年ぶりに先輩の誕生日をお祝い出来て幸せですっ」
「サンキュー。これからも良い先輩面できるように頑張るぜ」
そして、
一個下の後輩で、家が近所+親同士が友達ということで昔から面倒を見てやっていた。
今年、この学校の高等部に入学したことで晴れて、無事に大和ファミリーへの仲間入りを果たした。
頭にバンダナ、アニメキャラクターのような誇張した言動は周囲には奇抜に見えるようで、クラスでは浮いているらしい。
アニメの好みもどこか古臭くて、オタクグループとも趣味が合わないと愚痴をこぼしていたので、彼女の今後が心配である。
そんな彼女からの誕生日プレゼントは、イチ押しの漫画全巻セット。
照れくさそうな笑顔の裏には、読めという圧を感じる。
「羨ましいな。女の子たちにこんな盛大にバースデーを祝われるなんてよ。俺の時なんか『おめでとう』だけだったのに」
「それは日頃の行いが悪いからだろ」
最後が、
クールな二枚目を気取っているが、その本質は、学校関係者でカップリングを作る迷惑なタイプの百合豚である。
プレゼントは、自作の同人誌で、パラパラとページをめくったが、学校で読めるようなものではない。
寧ろ、こんなものを描いていると言いふらしてもいいのだが、水兎と龍姫の名誉の為にも控えておく。
後年、櫛田を悶絶させる呪いのアイテムになること間違いなし。
「皆の衆、祝ってくれて感謝する。今度とも変わらぬご愛顧を賜わるよう、よろしく頼む」
ともかく、大和ファミリーは愉快な奴らだ。
美少女三人を抱えていることもあってか、カースト上位からは顰蹙を買っているらしいが、そんなことはお構いないだ。
冴えない二軍の男が美少女を引き連れている俺こそが絶対正義。
誹謗に臆することなく、唯我独尊を貫くのがこの俺、大和勝吾だ――
と息を巻いていたのが、今日の昼休みのこと。
放課後、俺は神妙な表情で水兎と向かい合っていた。
厳密に言うと、俺はこの場の雰囲気に合わせて表情を作っているだけだ。
前もって「放課後、二人きりになりたいです。体育館裏に来れませんか?」というメッセージをもらっていた。
教室での盛大な祝福の間も、常にこの時のことを想っていたのは他の奴らには内緒だ。
堅苦しい敬語の文章、体育館裏にカップルでもない男女が二人きりとなれば、想像しうる展開は一つ。
「こんなところに呼び出して、どうしたんだ」
「どうしても、伝えなきゃいけないことがあるの。自分の心に、嘘はつけないから」
テンプレート中のテンプレート。
生真面目であり毒舌な水兎は、よそよそしい態度で俺を出迎える。
体育館裏、二人きり、そして新たに他人行儀が加わった。
最早、確定演出といっても過言ではないだろう。
俺は、水兎からの最高の誕生日プレゼントを確信し、握り拳を作る。
返事、デートの場所、そして初夜――――未来予想図が走馬灯のように頭を過ぎる。
さぁ、お前の想いを早く伝えてくれ!
「…………私、転生者なの」
「は?」
彼女の発した予想だにしない一言で、全身の力が抜ける。
お目覚めの時間だ、と言わんばかりの冷水が頭に落ちた。
テンセイシャ、当てはまる文字をパズルのように探す。
いや、それらしき漢字の組み合わせは知っているが、この現実世界の、日常会話で聞くようなワードにはならない。
「私は転生者なの。前世は享年六十一歳のお爺ちゃん」
呆然としている俺にも分かるように、水兎が補足を入れる。
やはり、字は転生者で違いないようだ。
そんなナンセンスな冗談を、数日前から温めるなんて水兎らしくもない。
いや、待てよ。これはもしや二段構えのサプライズではないか。
生真面目な水兎なりに、誕生日ならではの遊び心を加えてくれたのだろう。
それなら喜んで受け取ろうではないか。
この告白の全てを。
「中々面白い冗談だな。でも、今本当に伝えたいのはそんなことじゃないだろ」
「いいえ、そんなことよ。この告白こそが、勝吾を此処へ呼んだ理由」
俺の推理は、軽く一蹴されてしまった。
冗談に噛みつくのも野暮だが、転生なんてものは存在しないと断言できる。
前世の記憶を持っている人間がいるのなら、幼少期から持ち前の頭脳で周囲を驚かせているだろう。
そしてたちまちメディアの知るところになり、天才児として一躍有名人になっているはずだ。
俺はそんな人間の話を見たことも聞いたことも――――いや、なんでもない。
ともかく、実在を証明できない以上は信じることができない。
俺は、真剣な顔を向ける水兎を鼻で笑った。
「こんなこと言っても信じてくれないだろうから、こんなものを用意したわ。名付けて、前世の姿が映る世にも不思議な鏡〜」
棒読み気味に、猫型ロボットよろしく鞄から白色のコンパクトを取り出す。
年季が入っていて、全体的に色褪せている。
そして、名付けて、という割には随分とそのままな名前だ。
「こんなこともあろうかと、前世を生きていた頃に、エジプトの露店で買ったものを札幌の山奥に埋めておいたの。一か八かの賭けだったけど、無事に回収できて良かったわ」
ぶっ飛んだ入手経緯は半ば聞き流しながしていた。
全部作り話で、真実は親の実家に帰省した時に蔵から見つけ出した、というところだろう。
水兎がコンパクトを開くと、俺の前に丸い鏡が展開される。
俺自身が写っていればまだ笑えたのだが、そこにいたのはヘラジカだった。
和名の由来通り、お好み焼きを焼くときに用いる
「そして、私は」
水兎は俺の隣に回り込んで、自分の姿を鏡に映す。
ヘラジカを押しのけて並んだのは――――彼女の言った通り、幾つもの皺を顔に浮かべた高齢男性だった。
六十一歳というには老けて見えるが、この際どうでもいい。
水兎が転生者とするなら、チートめいたスペックとも辻褄が合う。
全て、巧妙な嘘か悪夢であってくれ。
都合の悪いスピリチュアルを否定しようと祈った先は、皮肉にも水兎からもらったドリームキャッチャーだった。
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