第4話 森で出会った冒険者たちにご馳走になりました
薄暗い森の奥で揺れる炎の光。それを目指して歩いていた僕らに、突然――
「誰だ!!」
という、森の空気を切り裂くような鋭い声が飛んできた。
びくぅっ、と僕は肩を跳ね上げた。声の主は、火の側にいる誰かだろう。まさか魔物じゃないよね? 魔物が人間語で注意してくる世界だったら、僕の心は耐えられない。
そんな中、僕の横でふわふわ浮いている天使のセラが、ついさっきまで説教の熱を残した声とは思えないほどの、猫なで声で返した。
「怪しいモノではありませんよ〜。隣町へ向かう途中の旅の者です〜」
おいセラ、声色使い分けうますぎじゃない? 僕への説教のときもその声でお願いしたい。
「両手をあげて、ゆっくりこっちへ歩いてこい」
低く、そして圧のある声が返ってきた。
僕は思わず背すじを伸ばし、両手をお手上げポーズで上げた。セラは手がないから、そのまま丸い体でふよふよ上昇していく。うん、それ、手をあげてる扱いになるのかな……。
そうやってゆっくり進んでいくと、火の明かりがはっきりと見え始めた。
「なんだぁおめぇら」
焚き火の周囲には、若い男女三人の冒険者たちがいた。
声の主は、中心に立つ長身の男だ。
オレンジ色の短い刈り上げ髪。黒を基調とした機能的な服装。すらりと伸びた体躯は無駄がなく、鍛え抜かれた筋肉が服のシルエット越しでも分かる。背中には大剣を背負っていて、その柄に片手を添えたまま僕らを睨んでいた。
――めちゃくちゃカッコよかった。
その左右には、二人の女性が座っていた。
焚き火の上で煮込まれている鍋からは、食欲を刺激する香りが漂っている。串に刺したトカゲっぽい肉がじゅうっと音を立てながら焼けていて、僕の胃がぎゅううと抗議の声を上げた。
事情を話すと、男は険しい表情を解き、笑みを浮かべた。
「なるほどな。まぁ、いいじゃねぇか。夜は危ねぇし、ここで一緒に休めよ」
なんて優しいんだこの人たち。僕が神様だったら、間違いなくこの三人には幸運を与えていた。
鍋の中のスープは信じられないほど美味しく、疲れた体にしみわたった。串焼きのトカゲ肉には、ちょっと手が出なかった。
◆ ◆ ◆
彼らの名前を聞くと、中心の男はアーサーと名乗った。
大剣使いで、三人のリーダーらしい。
「よろしくな。オレはアーサーだ」
その声はさっきまでと違い、どこか気さくで、人を惹きつける魅力がありました。
そして二人の女性のうち、銀髪ショートカットがメリル。小柄で口元には小さな八重歯が覗いています。ガールスカウトのような服装。ショートパンツから覗く太ももが、健康的に輝いている。
「アニキは怖そうに見えるけど、ほんとは優しいんスよ!」
と元気いっぱいの声で笑っていた。彼女は武闘家だ。
そしてもう一人の女冒険者は、背中まで届く金髪ストレートの、小さくて華奢な女の子。黒のワンピースが儚げでドキッとする。
「……フィオナ。精霊魔法を使います」
彼女はほとんど無表情で静かに名乗ったけど、その声は妙に耳に残った。
聞けば三人とも隣国ベルドランティスの出身で、冒険者になるためこの国に来て、ティクルーナで登録したらしい。
なんだか夢に向かって一直線で、眩しかった。
3人が自己紹介をしてくれたので、僕とセラも自己紹介をしました。
僕が転生者で回復魔法が使える筋力カンストの筋肉芸人だと伝えても、あまり理解してくれませんでした。自慢の自己紹介ギャグへの反応も薄かった。
メリルが「へぇ〜」と笑ってくれたけど、二人は理解が追いついてなかったみたいだ。
逆に、セラを紹介したときは三人の反応が爆発した。
「しゃべった!?」
「浮いてる!?」
「……本物?」
この国の人間じゃない三人には、ホワイトレイ教の“固定観念”がなかった。ホワイトレイ教の教義とは違う天使の姿を見ても疑ったりはしません。
だからセラを天使ではないとは考えられないようでした
セラも、いつもより少しだけ誇らしげに浮いていた。
◆ ◆ ◆
火を囲みながら、僕らはいろいろなことを喋りました。僕の旅の目的――神様に世界の異変を調べるよう頼まれたこと――も話しました。
すると三人は、真剣な眼差しで僕を見てきた。
「……そんな使命を持ったやつに会えるなんてな」
「異変、か……でもあたしたちの国でも特に聞いたことはないッスね」
「……力になれなくてごめんなさい」
と、それぞれがやさしい言葉をくれた。
その後も僕らはたくさん話した。段々話すことが無くなってくると、つい芸人のクセで作り話もしたりした。
たとえば――僕には年の離れた弟がいる、とか。
今年、中学生になる弟は、生まれつき体が弱くて、筋トレしても筋肉がつかない。
だから僕は、弟を笑わせることで腹筋を鍛えようと思ったこと。
僕の夢は、弟を毎日笑わせて、彼の腹筋を六つに割ること。
「……だから僕は早く異変を見つけて、元の世界に帰りたいんだ」
気付けば、焚き火の音に混じって、僕の声は少し震えていた。もちろん演技だ。
するとアーサーは静かにうなずき、メリルは目を丸くし、フィオナは小さな声で「素敵です」と呟いてくれた。みんなが完璧に信じてくれたので、なんだか作り話だと言い出せなかった。
◆ ◆ ◆
すっかり仲良くなった僕は、その夜、彼らと一緒に野宿することになった。
野宿は初めてで、虫の声も、木々の揺れる音も、全部が怖かったけれど。
それでも一人じゃないというだけで、不思議と安心できた。
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