脳筋僧侶の異世界無双録 〜神さま、なぜ僕を僧侶にしたの?〜

蒼一朗

第1話 舞台照明が落ちてきたと思ったら異世界転移してました

 どうも~。高嶺隼人(たかみねはやと)と申します。

 まずは自己紹介させてください。僕は相方と「マッスル☆ボンバー」というコンビで活動しています。二十八歳の筋肉芸人です。名前からして筋肉全開ですが、実際にネタも筋肉ネタ中心。センターマイクの前に立つと同時に「3、2、1、マッスルゥーーーー!!!」と叫ぶのが定番。これを言うと、会場の空気がグッと温まるんですよね。まぁ温まらないときもありますけど。

 あ、でも、今年の僕らは一味違いました。

 僕らマッスル☆ボンバー、キテたんです。

 ほんとですよ。

 ネタを作っては劇場で披露し、ウケた部分とウケなかった部分を細かく分析して改良。それを筋トレみたいに何度も何度も繰り返した結果、芸歴九年目でついに手応えのあるネタが完成しました。

 先輩芸人のプランク吉田にいさんにも言われました。「今年のマスボンはキテるぞ」と。

 僕的には、にいさんの髪の毛の方がキテると思うんですが、そこは置いときましょう。

 実際に結果も出始めました。僕らは初めてキング・オブ・マンザイの三回戦を突破。準々決勝を翌週に控え、気合いも最高潮でした。舞台袖で相方と拳を合わせ、「やってやるぞ」なんて言いながらテンションを上げていたんです。

 その日、僕らは劇場で最終調整として、完成度の高いネタをもう一度通していました。

 その瞬間までは確かに覚えてます。

 天井からライトが落ちてきた。

 そこまでは、鮮明に。

 そして、気づいたら。

 知らない部屋にいました。

 大学教授の研究室みたいな、六畳ほどの小部屋。両脇を埋め尽くす本棚。本棚の本は古びていて、紙の匂いがほこりと混ざって鼻をくすぐる。中央には書類まみれの机がひとつ。

 その机に、一人の男が座っていました。

 ボサボサの髪、無精ヒゲ、胸元をはだけたシャツ。人によっては「アラフィフぐらいのイケオジ」って言われるかもしれないけれど、僕の第一印象は「疲れたサラリーマンのお父さん」。

 男は両手でスマホをいじりながら言いました。

「おう、来たか。俺は神だ」

 ……神?

 いやいやいや、待て待て待て。

 スマホをいじる神っています?

 それにスマホを持つあの手の動きは、絶対ゲームしてましたよ。

 その男は気だるそうに言いました。

「異世界で異変が起きてる。調べてこい。以上」

 以上って!?

 僕はさすがに理解が追いつかず、事情をちゃんと説明してくれと言いました。

 芸人だから無茶ブリには慣れてます。でもこの時は本気で意味が分からなかった。

 すると男はスマホから顔も上げず、

「付き人つけるから行ってこい。俺は忙しいんだよ」

 と言い放ちました。

 そう言った瞬間、視界がぐにゃ~っと歪みました。

 床が溶けていくように見えました。

 うわ、これは絶対に良くないやつだと思いました。僕、実は乗り物に酔いやすいタイプなんです。

 次に気づいた時、僕は草原の真ん中に立っていました。

 見渡す限りの草、草、草! 遠くの地平線まで続く草の波。風が吹くと草がざわっと揺れ、その波がザザァッと音を立てながら耳に届く。

 空は驚くほど青く、太陽はまるでステージのスポットライトみたいに僕を照らしていました。

 どこか遠くには街のようなものが見える。

 ……異世界だ。直感で気づきました。カンは鋭いタイプなのでね。

 いやいや、そんな簡単に異世界に来てどうするんだ僕。

 準々決勝、来週なんだぞ。

 さて、どうしたもんか。

 でも、考えたところで答えは出ません。

 なので、とりあえず叫びました。

「3、2、1、マッスルゥーーーー!!!」

 うん。気持ちいい。やっぱり大声出すって良いですね。

 誰もいない草原に吸い込まれていく声はちょっと寂しいけど。

 その時、背後から声がしました。

「まったく神さまにも困ったものですね」

 振り返ると、そこには手のひらサイズの丸っこい生物がぷかぷか浮かんでいました。背中には小さな羽。

 まるでハイテクなおもちゃか、ゆるキャラが空中に浮いてるみたいな不思議な存在。

「はじめまして、タカミネハヤト君ですね? 私は従属天使のセラです」

 自分で天使と言うだけあって、声はやさしくて丁寧。だけど若干の呆れも混じっていました。セラ曰く、普段は神のお世話係で、今回は僕の付き人として異世界の異変を調査する仕事を命じられたとのこと。

 まともに説明してくれそうな人(?)が出てきてくれて助かりました。

 セラが丁寧に自己紹介してくれたので、僕も得意の自己紹介ギャグをかましました。無反応でした。

 互いに自己紹介を終えたところで、僕は率直に聞きました。

「なんで僕が異変の調査役に選ばれたんですか?」

「どうすれば元の世界に戻れるんですか?」

「そもそも異変って何なんですか?」

 しかしセラからは、ハヤト君が異変の調査者に選ばれた理由は分からない。ハヤト君を元の世界に戻せるのは神さまだけ。神さまは万能だから、神さまがその気になれば、いつでもハヤト君がもといた世界のもとの時間・場所にハヤト君を戻せる。異世界の異変がどんなものか私も知らない。しかし神さまがこの異世界に異変が起きていると言っている。私は神の命令に従うだけだと言われました。

 おいおい。

 これじゃ意味が分からない。

 セラに何を尋ねても、二言目三言目には「神さまがそう言っている」「私は神さまの命令に従うだけだ」としか言いません。

 でも、ずっと押し問答していても仕方ありません。考えても分からないものは考えたって分からない。僕の九年間の芸人人生の教訓です。舞台でウケないときは、理由をアレコレ考えるよりも、すぐ次のボケに切り替えた方が良いんです。

 まあこの時は、神の命令に従うしか、この時の僕にとれる選択肢はなかったんですが。神の命令に従い、神の願いを叶えることで、もとの世界に戻してもらうしかありませんでした。まあこの時は、神の命令に従うしか、この時の僕にとれる選択肢はなかったんですが。神の命令に従い、神の願いを叶えることで、もとの世界に戻してもらうしかありませんでした。セラによると、神はいつでも僕らをみているらしかったので。

 この世界のことは何も分からないし、とりあえず街へ行ってみることにしました。

 セラによると、遠くに見える街は「リバラン」という名前で、宿屋も飲食店もあるとのこと。

 こうして僕たちは、草原の気持ちよい風を全身に浴びながら、リバランの街へ向けて歩き出しました。

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